1990年代における日本企業の教育訓練支出に関する考察

執筆者 須賀 優  (経済産業研究所リサーチアシスタント)
発行日/NO. 2010年1月  10-J-002
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概要

本研究では、近年の日本における労働者の能力開発をめぐる情勢の変化について整理した。その中で、一般に知られる1990年代における日本企業の労働者1人当たりの教育訓練費の落ち込みは、企業の新規採用の絞り込みによって教育訓練需要が減少した効果が表れたものであり、実際に新規採用された常用労働者に対する教育訓練額は、1980年代後半と同等かそれ以上の水準であることを示した。その結果、教育訓練費の減少に関する問題の本質は、労働者全般の能力開発の鈍化ではなく、企業内教育訓練による能力開発の機会を得られた者と不安定な雇用身分の下で能力開発の機会を十分に得られずにいる者との間での 能力開発機会格差の二極化にあることが示唆された。また、雇用保険を原資とする現状の教育訓練給付制度は能力開発の機会格差をさらに助長する恐れがあり、雇用身分の不安定な者により多くの訓練機会を与えるような制度に変更することが求められる。