長寿化が年金財政に与える影響

執筆者 中田 大悟  (研究員) /蓮見亮  (社団法人 日本経済研究センター)
発行日/NO. 2009年3月  09-J-004
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概要

長寿化の進展は、出生率の低下と並んで、人口構造の高齢化の主要因であるが、年金財政に影響を与える要因としては、出生率ほどには世論の関心を集めてこなかった。そこで本稿では、長寿化について複数の想定をもつ2006年人口推計を用いて、長寿化が年金財政に与える影響を定量的に評価するとともに、給付開始年齢の引き上げによって、どの程度の年金財政の持続可能性の改善が見込まれるか、検討する。給付開始年齢の引き上げは年金財政に相当程度の改善をもたらす。よって今後積極的に検討されるべき課題となるが、同時に、高齢者がこれまで以上に活力を維持しながら働ける労働市場と社会保障制度の基盤整備が望まれる。

また、本稿では、長寿化を通した人口構造の変化がマクロ経済に与える影響を織り込んだ年金財政シミュレーション分析を行う為に、年金数理モデルとライフサイクル一般均衡モデルを併用した年金財政シミュレーション分析を行う。年金数理モデルとライフサイクル一般均衡モデルを併用することで、長寿化が賃金率・利子率に与える影響を、ライフサイクル仮説の観点からみて整合的に織り込みつつ、年金財政推計における経済前提のあり方に関する検討が可能となる。年金財政の推計は、おおよそ100年という超長期のタームを対象としているが故に、高齢化とライフサイクルというダイナミックなマクロ変動のリスクをより考慮する必要性がある。厚労省の年金推計は、どのような人口想定を用いた場合でも、一定の経済前提を使用しているが、ここに、意図せざる前提の甘さが入り込む余地があることを本稿の分析結果は示している。