『貿易自由化の効果における地域間格差:地域間産業連関表を利用した応用一般均衡分析』

執筆者 武田史郎  (関東学園大学) /伴 金美  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2008年9月  08-J-053
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概要

90年代以降、応用一般均衡分析(CGE分析)は貿易政策の効果を数量的に評価するためのツールとして幅広く利用されるようになった。日本が関わる貿易自由化も数多くのCGE分析によって評価されている。しかし、既存のCGE分析では、自由化の地域別効果、つまり貿易自由化が日本の中の個々の地域にどのような影響を与えるかというテーマは分析されていない。自由化の効果は地域によって大きく異なってくる可能性が高く、しかも近年地域間の格差が重要な問題と認識されるようになっていることから、地域別分析の重要性は高いと考えられる。本稿はこのような目的意識に立って、CGEモデルによって日本の貿易自由化の地域別効果を明らかにすることを試みている。

モデルには、日本国内を23部門、8地域に分割した、地域間CGEモデルを利用し、ベンチマークデータには「平成12年試算地域間産業連関表」を利用している。分析の結果得られた主要な結論は以下の通りである。第1に、日本全体では自由化により厚生もGDPも上昇するという結果が出た。これは既存の分析と整合的な結果である。第2に、地域によってGDP効果、厚生効果の大きさにかなりの差が生じるという結果となった。関東、中部、近畿の厚生、GDPの上昇率が高い一方、北海道、東北、九州・沖縄の上昇率は低い、あるいはマイナスとなった。特に厚生効果については地域間の差が非常に大きく出た。さらに、地域間で差があるというだけでなく、1人当たりGDPが高い(低い)地域ほど自由化の利益が大きい(小さい)という結果となった。これは、貿易自由化が既に存在する地域間格差をさらに拡大させる方向に働くということを意味している。以上の分析結果は、地域間格差の是正を政策目標の1つとするなら、貿易自由化だけを単独で実行することは望ましくなく、所得再分配政策と組み合わせる形で導入すべきということを示唆している。