日韓の地域金融と産業連携に関する比較研究-韓国の大邱・慶北地域と、日本の東海および関西地域の企業アンケート調査をもとに-

執筆者 家森信善  (名古屋大学) /平川均  (名古屋大学) /崔龍浩  (韓国・慶北大学) /陳炳龍  (韓国・大邱銀行・大銀経済研究所) /夫起徳 (韓国・大邱銀行・大銀経済研究所)/朴晩奉 (名古屋大学)
発行日/NO. 2008年9月  08-P-006
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概要

家森はこれまで、日本の中小企業金融に関して実態を把握するために、東海地域(多和田・家森(2005))や関西地域(多和田・家森(2008))に関してのアンケート調査を実施してきた。



今回、韓国の独立系としては最有力の地方銀行である大邱銀行の大銀経済研究所の協力を得ることができ、韓国・慶北大学の崔龍浩教授とともに、韓国第3の都市である大邱を中心とした大邱・慶北地域の中小企業に対して金融と産業連携に関するアンケート調査を実施した。本論文では、このアンケート調査の結果を、これまでに実施した日本のアンケート結果とも対照させながら、日韓の共通点や相違点を明らかにする。



今回のアンケート調査の概要は次の通りである。2007年8月8日に大邱・慶北地域に所在する法人企業6万5535社から無作為抽出した2500社(大邱:1250社、慶北:1250社)に対してアンケート用紙を送付した。9月末までに回収できたのは、発送数の10%に達する257社(大邱:134社、慶北:123社)であった。



アンケートは全部で51項目の設問で構成されている。Q1~Q2は回答者の属性に関する事項であり、Q3~Q14は回答企業の一般的な現況に関する事項である。Q15~Q34までが取引をしている金融機関に関係した設問、Q35~Q42までは大邱・慶北地域の産業クラスターに関する事項である。そして、Q43~Q51までの設問は地域での資金調達および金融機関利用などに関するものである。



その結果、日韓の地域金融の共通点と相違点とが明らかになった。



本調査の結果を概観すれば、日本と韓国の地域金融システムは非常によく似ているということになろう。たとえば、アメリカでは中小企業の取引銀行は1行という例が圧倒的に多いのであるが、日本や韓国では複数銀行との取引が普通であることが明らかになった。したがって、日本の複数銀行取引は日本の特異性であると考えるべきではなく、ある種の社会・経済・法律システムの中では自然な現象なのであろうと類推できる。



一方で、両国の金融システムは本質的に似ているとはいえ、日本と韓国の間での相違も様々な面で見出された。たとえば、現在の金融機関に対して肯定的評価を問う質問では、大邱・慶北地域では「資金の供与」が最も肯定的に評価されている反面、日本の関西および東海地域では「貴社に対する知識」が最も肯定的な評価を受けているといった違いが見られた。また、銀行にどのような機能を期待するかで、日本の企業は資金供給そのものよりもそれに付随する各種の情報などを期待するようになっているのに対して、韓国では資金供給そのものが重視されている。1990年代後半の通貨危機のダメージの大きさや、投資機会が豊富な韓国企業とすでに内部留保を蓄積し成熟段階にある日本企業という両国の経済発展の段階の相違などが影響しているのであろう。こうした両国の差異から、両国がそれぞれ学べる点も少なくないであろう。



さらに、本研究では、より広く地域金融の普遍的な現象も見つけることができた。たとえば、アメリカやヨーロッパで金融機関と企業の物理的な距離はIT技術が発達した現在でも非常に近いということが指摘されてきた(Degryse and Ongena[2004])が、今回の調査により日本や韓国においても、中小企業は近くの金融機関を主取引銀行にしていることが確認できた。現時点では地域ごとに中小企業の金融市場が分断されていることはかなり普遍的な現象であると言えよう。



本稿の構成は、第2節でアンケート調査の目的と概要を説明した後、第3節から第6節まででアンケートの全項目について回答結果を紹介し、分析を行う。最後に、第7節で本稿の調査結果を要約している。