多部門世代重複モデルによる財政再建の動学的応用一般均衡分析

執筆者 木村 真  (北海道大学) /橋本 恭之  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2008年8月  08-J-041
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概要

本稿では、多部門世代重複型ライフサイクル一般均衡モデルを用いて、財政再建についてのシミュレーション分析をおこなった。世代重複型のライフサイクル一般均衡モデルは、長期的な視野を持ちながら消費活動をおこない、企業部門に労働、資本を提供する家計部門と生産活動をおこなう企業部門、家計や企業から租税、保険料を徴収し、公共財を供給し、年金などの社会保障給付をおこなう政府部門から構成された動学モデルである。このモデルでは、消費税の増税、歳出の削減などの政策変更が、経済成長率、家計の消費水準などの経済変数に与える影響を長期にわたってシミュレーションすることが可能となる。これまでのライフサイクル一般均衡モデルの多くは、生産部門が1部門に簡略化されており、歳出削減の削減対象の違いを考慮することができなかった。本稿は多部門に拡張することでこれを可能とした点が特徴となっている。

本稿でのシミュレーションの結果、一時的なショックとしては、消費税増税は、GDPを増加させることがわかった。ただし、GDPの増加は固定資本減耗の増加によるものであり、国民所得は低下する。歳出削減方法の違いについては、教育支出とその他の政府支出削減の方が公共投資削減より総生産の減少度合いが大きい。公共投資削減が資本形成の減少を通じて長期的に生産活動にマイナスの影響を与えるのに対して、教育とその他の政府支出の削減は、削減時点の生産活動にダイレクトにマイナスの影響を及ぼすからだ。中期的には消費税増税ケースのほうが高いGDPを達成できるが、長期的には公共投資と教育支出を削減するケースのほうがGDPは高くなる。また、その他の政府支出を削減するケースは他のどのケースよりも低いGDPで推移することが分かった。公債残高の対GDP比については、ケース間で差はわずかではあるが、消費税を増税するケースが最も低く推移し、公共投資を削減するケースがそれに次ぐことが分かった。