税収の将来推計

執筆者 橋本 恭之  (ファカルティフェロー) /呉善充  (関西大学)
発行日/NO. 2008年7月  08-J-033
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概要

財政再建を考える際に、税収の将来予測の数字は重要な参考資料となる。政府による税収予測は、外生的に与えられた成長率のもとで、税収弾性値を1.1 に想定することでおこなわれてきた。この税収弾性値1.1 という値は、過去の税収とGDP の関係から想定されたものとされている。本稿の目的は、この税収弾性値の想定の妥当性を検証し、より正確な税収予測の方法を検討することである。そのため、本稿では、国税および地方税の主要な税目について、過去の税収構造を利用した税収関数の推計をおこなった。税収関数を推計するにあたっては、それぞれの税目の課税ベースないしその代理変数、税率等の税制変数を説明変数に採用した。ただし、所得税・個人住民税に関しては、基準年次の所得分布と税収構造を利用したシミュレーション・モデルによる予測結果を利用した。本稿でのシミュレーションの結果、総税収の税収弾性値は、1.07、国税については1.154、地方税については0.942 という値が得られた。政府による長期予測で使用されている税収弾性値1.1という値は、個別に税収予測を積み上げた結果とそれほどかわらないことがわかった。ただし、国税と地方税には税収弾性値の格差が存在することも確認できた。国税の弾性値が高くなるのは、所得税の税収弾性値が1.791、住民税の税収弾性値が1.024 となり、所得税の方が高くなっているためである。しかも、三位一体改革に伴う地方税の比例税率化は、この税収弾性値の格差をさらに広げたこともわかった。従来政府がおこなってきた、税収弾性値1.1 という仮定での長期の税収予測は、税収全体に関しては本稿での推計とそれほどの違いは生じないが、国税については過小推計、地方税については過大推計となることがわかった。