投資協定仲裁における補償賠償判断の類型-収用事例と非収用事例の再類型化の試み-

執筆者 玉田 大  (岡山大学)
発行日/NO. 2008年6月  08-J-013
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概要

本稿は、国際投資協定仲裁における補償(compensation)と賠償(reparation)に関する近年の仲裁裁定例を素材として、その判断基準と算定方法に関する判断傾向を明らかにすることを目的とする。激増する近年の投資協定仲裁例に関する(法解釈論上の)議論は、実体法基準に偏りがちであるが(例えば、収用、公正衡平待遇義務、最恵国待遇義務、内国民待遇義務)、投資仲裁の成否を決する最大の要因は補償賠償額の算定結果であり、投資仲裁が実効的解決方法として機能するか否かもこの点に依存する。また、収用の合法性や収用と公正衡平待遇義務の区別に関する実体法上の議論も、補償賠償算定基準の相違が可能か否かという問題に還元され得る。こうした意味で、補償賠償判断のプロセスは、国際投資法の体系的バランスを維持するという重要な役割を担っている。

では、個別事案の特殊事情が大きく影響する補償賠償判断に関して、一般的な適用基準を導くことは可能であろうか。この点で、補償賠償額の算定基準を巡る従来の議論においては、次の2点が前提として広く認められてきた。第1に、収用措置に関しては、「賠償」金額が「補償」金額よりも高額となる。第2に、「収用」事例の方が「非収用」事例よりも賠償額が高額になる。本稿は、この2つの前提を問い直すことを目的とする。第1に、補償概念と賠償概念の理論的区別の意義を問い直し、両者の算定方法と算定結果の同一性を指摘する(I)。第2に、収用事例と非収用事例の二分類が補償判断においては機能しておらず、判例上はむしろ投資財産の全体的損失の有無が決定的な区別基準とされていることを指摘する(II)。以上の検討を踏まえて、投資協定仲裁における補償賠償判断の類型を示した上で、政策的インプリケーションを導く。