地域貿易協定(RTAs)における知的財産条項の評価と展望

執筆者 鈴木將文  (名古屋大学)
発行日/NO. 2008年3月  08-J-005
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概要

本稿は、地域貿易協定(RTAs)における知的財産関係の条項を検討対象とし、(1)国際的な知的財産法制の構築に向けた取り組みとの関係、(2)WTOレジームとの関係において、これらが有する意義と問題点を明らかにしたものである。

本稿は、まず予備的検討として知的財産制度の特徴と国際的制度構築の意義を確認した後、RTAsにおける知的財産条項の実状を整理分析する。そこでは、主要RTAsについて知財制度の構成にどのような傾向が見られるかを整理し、知的財産条項の内容が、(1)知的財産保護に関する実体面の合意、(2)知的財産保護に関する手続面の合意、(3)多国間協定上の義務に関する合意、(4)協力関係の構築という類型に分類できることを示す。続いて、RTAsのTRIPSプラス条項が多国間協定の規律との関係で持っている意義と問題点に検討を加える。RTAs自体は、知財制度の国際調和に資する面を持つなど一定の積極的意義を持ちうるが、あくまで多国間規律の要である最恵国待遇原則及び内国民待遇原則と整合的である必要がある。本稿は、特に実体面のルールを定めるTRIPSプラス条項と多国間規律との整合性という論点について、これらTRIPSプラス条項が(1)多角的通商体制内での当事国間の差別的待遇をもたらす可能性、(2)RTAs当事国にとって必要以上の「譲歩」を迫る可能性、及び、(3)知財制度の国際調和をかえって阻害する可能性をもつという3つの問題点を指摘する。その一方で、権利行使の確保などの手続面のルール、既存の多国間協定への加盟やその遵守、審査協力などの協力を定める条項については、当事国の実状を踏まえて合意される限りは、当事国にとっても国際知的財産制度の構築にとっても、有意義なものであるという評価を加える。

最後に、RTAsの知財条項への我が国の対応について以下を指摘する。まず、知的財産制度に関する協力や、手続面についてTRIPS協定等を補う合意をRTAsに盛り込むことは、積極的に進めることが望ましい。また、RTAsにおける新たな実体ルールの設定については、当事国にとっての利害得失のみならず、国際的な知的財産制度の構築の観点からその是非を慎重に検討すべきであり、他国RTAsの知的財産条項を監視していくことも重要である。さらに、RTAsの知的財産条項の国際的知的財産制度への影響について、国際機関が調査・検討を行うことも有益であり、そのような取り組みを我が国として提言することも検討に値する。