人工物の複雑化とものづくり企業の対応―制御系の設計とメカ・エレキ・ソフト統合―

執筆者 藤本 隆宏  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2007年11月  07-J-047
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概要

本稿では、現代における「製品の複雑化」という問題を、設計論の観点から探索的に考察する。具体的には、企業が市場に供給する製品を、「人工物」(設計されたもの)と解釈し、それが複雑化・簡素化する諸要因と企業の対応について分析する。

一般に顧客の要求機能や社会的な制約条件(環境・安全対応など)が高度化・複合化すると、モジュラー化による対応は難しくなり、製品はインテグラルかつ複雑なものになりやすい。

こうした「製品=人工物」の複雑化に対して、企業は複数の補完的なアプローチで対応している。(1)まず、製品アーキテクチャのモジュラー化が複雑化に対抗する有力な手段とされるが、何らかの理由で徹底したモジュラー化が難しい製品の場合、(2)従来型の、実物試作により機能検証を行う試行錯誤的な製品開発の能力を高めることに加えて、(3)開発支援IT(たとえば3次元CADなど)を活用した試行錯誤的なデジタル開発、(4)機能のばらつきが少ない構造設計を効率的に探索する品質工学、(5)そしてリアルタイムで目標機能の実現を保証する電子制御系、などを補完的に組み合わせることによって、人工物の複雑化に対処しようとしている。(6)さらに、電子制御系そのものが複雑化する場合、それを構成する電気設計(エレキ)系のCAD、(7)あるいは組込みソフトウェアの設計を支援するモデル・ベース開発なども援用される。

このように、複雑化する人工物を正確に機能させるには、電子制御系の発展が必須だ。とりわけ、被制御系の機構部品(メカ)が多く残り、結果としてメカ・エレキ・ソフトが共進化する自動車のような製品の場合、被制御系であるメカ設計と、制御系であるエレキ・ソフト設計の間の相互協調が要求される。しかし上記3つの設計系は、歴史的な経緯などから、機能設計重視か構造設計重視か、論理記号重視か物理記号重視かなどに関し、異なる設計風土を持つ傾向がある。また、もともと被制御系の人工物であった自動車の場合、設計者間に「メカ>エレキ>ソフト」という力関係が見られる。

こうした分化傾向に対抗してメカ・エレキ・ソフト設計の統合化を進めるには、設計活動の源流にある「自然言語による人工物の表現」を精緻化し、開発上流におけるメカ・エレキ・ソフトのチームワーク設計を促進する新たなITを模索するなど、開発上流における統合化の努力が極めて重要である。