日本の企業金融は非効率的か-中小企業の金利に基づく検証-

執筆者 植杉威一郎  (研究員) /(吉冨 勝研究所長 責任編集)
発行日/NO. 2005年5月  No.04
ダウンロード/関連リンク

概要

本稿では、経済産業研究所における企業金融研究会の成果の一部として、中小企業金融の効率性を評価した論考を2つ紹介する。

第1に、「金融機関はリスクに見合った金利を取ることができていないので、金利を引き上げるべきである」という主張を取り上げ、その妥当性を検討する。これまでに得られた我々の結論は、金融機関が現時点でリスクに見合った金利を得ていないのは、彼らが中小企業の将来の業績をある程度的確に予想し、将来時点でのリスクが低下すると見込んでいるためであり、現在のリスクリターンの関係だけを見て金利引き上げを主張するのは妥当ではない、というものである。

第2に、「金融機関の行動が不合理なため、本来退出すべき企業が存続している」という主張の妥当性を検討する。我々の現時点での結論は、金融機関に多くを依存している中小企業においては、業績が悪く破綻間近の企業は、金融機関から選別されて高い金利を払って退出しており、自然淘汰が起きている、というものである。

もちろん、我々は、銀行無謬説に与するものでは全くないし、金融機関の与信の仕方には様々な点で改善が必要である、と考えている。しかしながら、今回の結果を踏まえれば、金融機関の行動だけを変えることによって、金融機関と企業の間に存在する情報の非対称性が大幅に縮小し、より的確なモニタリングによって企業に資金が行き渡るようになるとは信じにくい。経済産業研究所の企業金融研究会では、規模が小さいために債務超過に陥りやすい中小企業向け貸付のあり方、担保・保証の果たす役割など、企業金融を取り巻く環境の中で、何が合理的で何が合理的でないのか、どの点に大きな改善の余地があるのかについての検討を引き続き行っていく予定である。