| 執筆者 | 田所 創(コンサルティングフェロー)/本庄 裕司(ファカルティフェロー) |
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| 研究プロジェクト | スタートアップ振興における人的資本と金融資本の多様性と政策的課題 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
イノベーションプログラム(第六期:2024〜2028年度)
「スタートアップ振興における人的資本と金融資本の多様性と政策的課題」プロジェクト
ユニコーンの生まれにくい日本
日本では、「ユニコーン」と呼ばれる企業(時価総額10億ドル以上の未上場企業)に期待が寄せられている。しかし、2026年3月現在、ユニコーンはわずか6社にすぎず、米国の777社、中国の156社、英国の60社、韓国の15社と比較して、経済規模の割に少ない。この背景に未上場株式市場の構造的な問題が考えられる。
日本の未上場株式市場の変遷
戦後、日本の未上場株式市場は、(i) 組織化された店頭市場、(ii) それ以外の店頭市場、(iii) 直接取引の三層構造で展開した。しかし、1970年代後半以降、証券会社による未上場株式の投資勧誘が原則禁止され、(ii) それ以外の店頭市場がほぼ姿を消し、未上場企業の資金調達は、(iii) 直接取引に偏る。この直接取引も1998年、少額公募の募集上限額が5億円未満から1億円未満へ引き下げられ、縁故関係・取引関係等にもとづく少人数私募が中心となる。(i) については、2004年、ジャスダック証券取引所が誕生する一方、グリーンシート市場(1997年設立)が長らく低迷し、2018年には廃止された。2015年、株主コミュニティ、株式投資型クラウドファンディングが導入されたが、いずれも小規模にとどまる。2022年に開始した特定投資家向け銘柄制度(J-Ships)は伸びているが限定的であり、未上場株式市場は依然として未発達な状況にある。
日本の市場型エクイティファイナンスの課題
市場型エクイティファイナンスによる発行募集では、原則として募集条件や会社情報等について完全開示が求められるが、それに伴う費用は固定費の側面が強く、スタートアップ企業を含む小規模な企業にとって重い負担になりやすい。そのため、米国等の主要国では、一定の範囲で完全開示を免除して簡易開示 (simplified disclosure) を認める少額公募、株式投資型クラウドファンディング、少人数私募、適格投資家私募等が用意されている。
しかし、日本では、表1に示すとおり、いずれの制度も募集額や勧誘範囲が欧米諸国と比較して強く制限され、簡易開示も一部しか整備されていない。勧誘活動は、親族や取引先等の人的ネットワークに依存し、幅広く投資家を募ることが難しい。また、適格投資家(日本では、適格機関投資家および特定投資家)向け私募では、特定投資家の範囲が諸外国と比較して狭く、利用できる企業の成長段階も限られる。近年、株式投資型クラウドファンディングや特定投資家私募が導入されたが、簡易開示制度は十分に整備されておらず、本格的な市場型エクイティファイナンスの仕組みとして機能していない。
多様な投資家とセカンダリー市場の重要性
未上場株式市場が有効に機能するためには、高成長企業が十分な資金を調達できるように幅広く多様な投資家層の参加が求められる。機関投資家やプロ投資家に限らず、富裕層や投資知識・経験のある一般個人投資家も参加することで市場の厚みが増し、多額の資金調達が可能になるとともに、価格形成や流動性の向上を通じてセカンダリー市場が発展し、プライマリー市場の発展を後押しする。しかし、日本の特定投資家の範囲は限定的である。また、日本の転売・流通の規制は、発行企業や会社関係者の転売を規制する米国型と、転売時に少額公募または私募を求めるEU型の双方とをさらに強化した側面がある。発行企業や会社関係者以外に証券会社等が保有する未上場株式の売買までを完全開示義務の対象とし、さらに、特定投資家私募で取得した株式は特定投資家に転売先が制限される。こうした規制は、将来的なセカンダリー市場の発展の制約になるおそれがある。
市場型エクイティファイナンスと経済成長
日本は、未上場株式市場の発展と市場型エクイティファイナンスの拡大に向けて、諸外国の制度を参考に、募集上限額や少人数私募の人数規制を見直し、特定投資家の範囲を拡大すべきだ。投資家保護と資金調達の効率性とのバランスを保つために、免除取引の拡大に加えて、発行企業が対応可能な簡易開示を導入し、証券会社の仲介機能を活かす店頭市場の整備を急ぐべきだ。引き続きデジタル化やオンライン・プラットフォームの活用を進めることも有効だろう。
市場型エクイティファイナンスは、スタートアップ企業の成長機会だけでなく、既存企業に成長企業を含む他企業への出資の機会を与える。その結果、有望な企業が人材や設備・システムを取り込みながら拡大する「創造的な新陳代謝」が促進される。適正な企業価値評価と価格形成の機能を備えたプライベートエクイティ市場は、多様な投資家をひきつけて資本配分の効率化を促し、ユニコーンと呼ばれる高成長企業の創出を通じた経済成長の基盤として機能する。市場型エクイティファイナンスの整備は、単なる資金調達制度の見直しだけでなく、高成長企業の育成を通じた経済政策として有効にはたらく。
日本での未上場株式市場が未発達な状況は、高成長企業の成長を制約してきた。銀行中心の金融システムや早期のIPO (initial public offering) が未上場株式市場の未発達な部分を代替してきたが、市場型エクイティファイナンスの発展に向け、少額公募、私募の範囲拡大、簡易開示の導入、特定投資家の範囲の拡大、デジタル化の推進等、包括的かつ一体的な制度改革が求められている。