ノンテクニカルサマリー

ふるさと納税におけるワンストップ特例制度の効果検証:寄附先の集中と制度の満足度に与える影響

執筆者 小西 葉子(上席研究員)/小川 光(東京大学)/伊藝 直哉(株式会社インテージリサーチ)/伊藤 千恵美(株式会社インテージリサーチ)
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

2008年から始まったふるさと納税制度は、自治体への寄附の形で税金の活用先を選択でき、食品、日用品、工芸品等の返礼品選びの楽しさもあり、国民の間に浸透してきた。寄附額は、個人年収や世帯構成によって異なる上限額が設定され(注1)、自己負担額の2,000円を除いた全額が所得税及び個人住民税から控除される。

「ふるさと納税」の浸透の背景には、2012年以降の専用ポータルの設置、2015年のワンストップ特例制度の導入に代表される利便性拡大と制度改善の取り組みがある。後者の特例制度は、寄附する自治体数が5以下の場合、確定申告することなく税の控除を受けられ、手続費用を下げることで利用者拡大に貢献した。一方で、この「自治体数の上限」が寄附者の選択を歪ませ、多様な自治体への寄附を阻害している可能性がある。

ここでは、日本全国20歳~64歳の男女を対象にして、2023年9月に実施した独自のアンケート調査をもとに、特例制度が抱える3つの問題を検証し、3つの政策提言を示す。

① 寄附先自治体数の選択の歪み

図1は個人年収400万円以上800万円未満の寄附者について、寄附先自治体数ごとに人数を集計した分布である。400万円以上500万円未満の年収では、3つの自治体へ寄附した人が一番多く、500万円以上の人たちは上限制約の5自治体を最も選んでいる。注目すべきは、全ての年収帯において6自治体へ寄附する人数が極端に少ないことである。これは、5自治体までは確定申告不要という制度が自治体数5への集群(bunching)を生み出し、6か所以上に寄附したい人たちが寄附先を減らす行動変化を引き起こしている現れでもある。同時に、このことは寄附を受け取れる自治体数の減少と寄附先自治体の分散が阻害されていることを意味する。

図1 寄附先自治体数別の寄附者数の分布(個人年収額別)
図1 寄附先自治体数別の寄附者数の分布(個人年収額別)
出所:著者ら作成
注:寄附先自治体数1~10は各自治体数を示す(11以上は省略)。

② 自治体一件当たりの平均寄附額の増額

図2は、寄附先自治体数が1つから6つの寄附者について、一件当たり寄附額ごとに人数を集計した分布である。上限制約に直面していない1~4自治体への平均寄附額のピークは1万円をやや超える水準である。一方、5つの自治体へ寄附した人は、1万数千円付近のボリュームゾーンに加えて2万5千円にピークがある。また、6自治体に寄付した人の平均寄附額のピークは2万円をやや超える水準だが、5自治体への平均寄附額のピークより低い。

つまり、5自治体への寄附者の一件当たり寄附額が最も高く、このことは6つ以上の自治体に寄附できる人が、確定申告を回避するために寄附先自治体数を減らす代わりに、平均寄附額を増額させるという行動変化を示唆している。言い換えれば、もし上限自治体数が引き上がれば、より多くの自治体が寄付を受ける可能性がある。

図2 一件当たり平均寄附額別の寄附者数の分布(寄附先自治体数別)
[ 図を拡大 ]
図2 一件当たり平均寄附額別の寄附者数の分布(寄附先自治体数別)
出所:著者ら作成

③ ふるさと納税制度の満足度への影響

個人の属性等をコントロールした上で、寄附先自治体数ごとのふるさと納税制度への満足度を調べると、6自治体への寄附者のみ、有意にふるさと納税制度への満足度が低かった。具体的には、ふるさと納税制度に対して「とても満足」と答える確率が、1つの自治体に寄附した人に比べて、5自治体に寄附した人は2.9%、7自治体に寄附した人は4.7%高い値を示す一方で、6自治体に寄附した人だけが3.4%低かった。その裏返しで、6自治体に寄附をした人のみ「不満」と回答する確率が有意に高かった。

ワンストップ特例制度では、6自治体以上を選択すると選択した自治体全てについて確定申告が必要となる。6自治体数を選んだ人のみ不満が高くなったことは、現行制度の上限が6自治体をカバーしていないことへの不満の表れである。その中には、制度の仕組みをよく把握していなかったり、寄附先自治体数を数え間違えたりして、6つの自治体に寄附をしてしまい確定申告を行った寄附者が多いことがうかがえる。

検証結果より、ワンストップ特例制度の「5自治体の上限」制約が、寄附先自治体数の選択を歪ませ、一件当たりの寄附額を高め、さらに満足度を有意に低下させていることがわかった。以下では、ふるさと納税制度の満足度をより高めつつ、ふるさと納税の理念(注2)に沿った寄附を実現するための3つの提言を行う。

  • 提言1:ワンストップ特例制度の情報周知と寄附先自治体数情報の一層の可視化
  • 提言2:災害支援などでの寄附はワンストップ特例制度の上限自治体数のカウントに含めない
  • 提言3:ワンストップ特例制度を利用できる寄附先自治体数の上限の引上げ

最も取り組みやすいのは提言1であり、寄附先が5自治体を超えると確定申告が必要となることと、数え間違いへの注意喚起により制度への不満の減少を目指す。

提言2は、災害支援を目的とする寄附などを上限自治体数の別枠とすることで、実質的に「5自治体の上限」の制約を緩和する。これにより、例えば既に5自治体に寄付後に有事が起きた際に、確定申告のコストなしに、ふるさと納税の理念に沿った寄附ができ、災害復興の後押しとなる。

図1より、確定申告なしに寄付ができる自治体数に上限があることで、寄附先自治体数を抑える寄附者が多くいることがわかった。提言3は、上限を引上げることにより、寄附を受ける自治体の分散が期待できる。政府は、返礼品割合に対する上限規制という形で自治体側にアプローチすることで過度な競争の緩和を働きかけているが、寄附先自治体数の上限緩和は、寄附者がより多くの自治体に寄附を行うようになるという観点から競争を緩和するアプローチである。

脚注
  1. ^ 総務省「全額(※)控除されるふるさと納税額(年間上限)の目安 (※) 2,000円を除く」https://www.soumu.go.jp/main_content/000408217.pdfを参照のこと。
  2. ^ 総務省「ふるさと納税の理念」
    https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/furusato/policy/