ノンテクニカルサマリー

消費ビッグデータで記録するコロナ禍3年間の生活

執筆者 小西 葉子(上席研究員)/齋藤 敬(コンサルティングフェロー)/伊藝 直哉(株式会社インテージリサーチ)/宮下 裕(株式会社インテージ)/山本 直人(株式会社インテージ)
研究プロジェクト ビッグデータを活用した新指標開発と経済分析:サービス産業を中心に
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム(第五期:2020〜2023年度)
「ビッグデータを活用した新指標開発と経済分析:サービス産業を中心に」プロジェクト

2023年5月5日、世界保健機関(WHO)は新型コロナウイルス感染症拡大についての世界的緊急事態宣言の終了を発表した。2020年1月30日の発出から1,191日間、私たちは食事、学び、仕事、余暇を変化させた。インテージ社のSRI+(全国小売店パネル調査)のPOSデータを344品目に分類し、販売金額の順位の変化から私たちの生活の変化を見てみよう。

図1は当年(縦軸)と前年(横軸)の順位の散布図である。バブルの大きさは順位差の2乗である。前年度±30位以上の順位差があった場合に、品目名を記した。45度線の右上端が両年1位、左下端が両年344位で、45度線上の品目は前年と順位が等しい。45度線の上側は前年より順位が高い品目、下側は低い品目である。図1より、コロナ禍では、2020年のパニック消費期と、2021-2022年の新しい日常期に分けられることがわかった。各年の特徴について以下でまとめる。

2019年は、45度線上に分布している品目が多く、2018年との順位差が±30位以上変化した品目はなかった。

2020年は、マスク、手指消毒剤、殺菌消毒剤、うがい薬、体温計といった感染予防品とその品薄時に代替消費された石鹸、ぬれティッシュ、その他住居用クリーナーが30位以上順位を上げた。
一方、外出機会の減少やマスク着用により、口紅、ほほべに、その他リップ、パック、日焼け止め、ギフト(お中元、お歳暮等)が30位以上順位を下げた。強心剤は、インバウンド需要の消失により順位が下がった。

2021年は、30位以上順位が上がった品目はなかった。2020年によく売れた品目のうち、石鹸、殺菌消毒剤、手指消毒剤、うがい薬が30位以上順位を下げている。

2022年は、各品目が45度線周辺に多く分布し、2021年の順位と類似している。検査薬が特徴的な品目として登場した。

以上より、2021年と2022年は、2020年のパニック消費が落ち着き、非常に似た購買行動となり、消費行動で分類するならば、コロナ禍は2020年と2021-2022年に二分できることがわかった。

図1 当年と前年の順位の散布図(バブルの大きさは前年との順位の差の2乗)
[ 図を拡大 ]
図1 当年と前年の順位の散布図(バブルの大きさは前年との順位の差の2乗)

コロナ前からコロナ禍3年間を継続して分析したことによって、コロナ禍で「いつ」日常生活に大きなショックがあったのか、「何の」購買行動に影響があったのかが見えた。コロナ禍では特に感染症予防に関する商品の購買行動が長期間に渡り大きく変動した。一方で、食料、飲料、日用品の購買行動の季節性は安定していることがわかった。本プロジェクトが使用したデータや一連の成果は、実際にコロナ禍初期に、パニック消費の把握や供給ルートの確保、転売規制等にも貢献した。

今後政府は、コロナ禍で進んだビッグデータ活用を減速させず、POSデータ、家計簿アプリデータ、クレジットカード情報、電子マネー情報等、複数のソースによる消費データプラットフォームの構築に取組むことで将来に備えて欲しい。