ノンテクニカルサマリー

高成長企業のU字型法則について

執筆者 荒田 禎之(研究員)/宮川 大介(早稲田大学)/森 克輝(税務大学校)
研究プロジェクト 企業ダイナミクスと産業・マクロ経済
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「企業ダイナミクスと産業・マクロ経済」プロジェクト

短期間に急成長する高成長企業(High growth firms, HGFs)の存在やその重要性は、近年の先行研究でよく知られている(例えば、Coad et al. [2014]; Coad et al. [2022])。特に、高成長企業は経済成長や新規の雇用を生み出す源泉と考えられている。しかし、高成長企業の重要性が強調される一方で、どの企業が将来、高成長企業になるかを事前に予測することは現実的には極めて難しい。実際、“企業がなぜ高成長企業になれるのか”・“他の企業とは何が違うのか” というような問いに答えようと高成長企業の決定要因を特定する試みは多数あるが、その予測精度は低く、事前には分からないというのが現状である。このような状況を踏まえ、Geroski [2000] は、次のように結論づけている。“The most elementary ‘fact’ about corporate growth thrown up by econometric work on both large and small firms is that firm size follows a random walk.”(訳: 大企業、小企業に関する計量経済学的な研究で浮かび上がった企業成長に関する最も基本的な“事実”は、企業規模はランダムウォークに従うことである)これらのことは、企業の成長はまさに“ランダム”と言うしか無く、我々は企業成長について何も知らないということを意味するのだろうか?

この論文では、企業の成長がランダムであるために高成長企業になる企業を事前には特定できないものの、その成長のプロセスには頑健な特徴があることを示す。むしろこのランダム性によって、企業の成長プロセスに関して統計的な規則性が生じ、特に高成長企業の成長プロセスに関して重要なインプリケーションを得ることができるのである。この分析では、税務大学校が所有する企業の法人税データと確率論の理論を用いて、企業(特に高成長企業)の成長プロセスは、毎年徐々に増加する漸進的なプロセスではなく、1つの大きなジャンプによって特徴づけられることを示した(図1参照)。つまり、高成長企業の成長プロセスは、この大きなジャンプが発生する直前までは他の(高成長ではない)企業と似ているが、突然ジャンプによって急激に成長するというプロセスである。ジャンプで特徴づけられるこのような成長プロセスこそが、高成長企業にとっては典型的である(つまり、最も起こりやすい)ことを示した。

このインプリケーションのさらならる実証的な証拠として、ある期間の成長率(例えば2014-2016 の成長率)に対して、前半の期間の成長率(2014-2015 の成長率)がどれだけ寄与したかに注目した。つまり、X15,X16を2015 年及び2016 年の成長率とした場合、以下の比率を企業ごとに計算し、そのヒストグラムを求めた:

図2は、2年間分の成長率(つまり、X15 + X16)の値で条件付けた、比率r のヒストグラムを示している。つまり、X15 + X16 が比較的小さい企業に対象を絞った場合、ヒストグラムは1/2 でピークをとり、X15 とX16 の成長率両方が同程度寄与するのが最も起こりやすいことを意味している。一方、X15 + X16 が大きい企業に対象を絞った場合(つまり高成長企業の場合)、それまでの山型の形が崩れて、U 字型の形状が現れる。

図1:企業の成長プロセスのイメージ。横軸が時間、縦軸が企業規模。
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図1:企業の成長プロセスのイメージ。横軸が時間、縦軸が企業規模。
図2:X15 +X16 > u で条件付けした(つまり、条件X15 +X16 > u を満たすサンプルの)r のヒストグラム。u の値は0.2(左上)から1.6(右下)まで0.2 ずつ増加させている。
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図2:X15 +X16 > u で条件付けした(つまり、条件X15 +X16 > u を満たすサンプルの)r のヒストグラム。u の値は0.2(左上)から1.6(右下)まで0.2 ずつ増加させている。

このU字型の形状は、0と1でピークとなっており、全体期間での高成長は、X15 またはX16 のどちらか一方の値が大きいことで引き起こされることを意味している(両方ではなく)。これは、図1で述べたように、一つの大きなジャンプが高成長企業の成長プロセスを特徴づけていることと整合的な結果である。

本論文の分析では、企業の成長に関する理論モデルを考えるのではなく、成長率の分布などの統計的規則性に着目することで企業成長のダイナミクスに関する性質を導き出した。この結果は、企業の成長がランダムであっても(またはこのランダム性ゆえに)、そのダイナミクスを支配する法則が存在することを示している。経済政策においても企業成長は重要なテーマであり、そこに存在する企業成長のパターンを明らかにしたのが、この論文の政策インプリケーションである。

参考文献
  • A. Coad, S.-O. Daunfeldt, W. Hölzl, D. Johansson, and P. Nightingale. High-growth firms: introduction to the special section. Industrial and Corporate Change, 23(1):91–112, 2014.
  • A. Coad et al. Lumps, bumps and jumps in the firm growth process. Foundations and Trends® in Entrepreneurship, 18(4):212–267, 2022.
  • P. A. Geroski. Competence, Governance, and Entrepreneurship-Advances in Economic Strategy Research, chapter The growth of firms in theory and in practice. Oxford University Press Oxford and New York, 2000.