ノンテクニカルサマリー

誰が入学しているのか:大学難易度と推薦・AO入試の役割

執筆者 小野塚 祐紀 (研究員(政策エコノミスト))
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

「誰が大学に行くのか」と「誰がどこの大学に行くのか」を決める大学入試は、大学進学を希望する学生にとって一大イベントであるだけでなく、人材育成の観点から社会にとっても重要な話題である。日本の大学入試方法は、筆記試験によって合否が決まる「筆記試験入試」と、調査書、志望動機書、面接などを通じて多面的・総合的に学生を評価する「推薦・AO入試」の2つに大きく分けられる。推薦・AO入試は筆記試験入試よりも早く行われており、つまり学生の評価軸と入試の実施時期の両方で異なる入試方法が並立している。入試方法によって合格している学生に違いがあると予想される。

ここ数十年で推薦・AO入試は広まってきており、今では約半数の人がこのような入試方法を利用して大学に進学をしている。だがその一方で推薦・AO入試への社会的な評価は定まっていない。2022年度入試までに推薦入試、AO入試などを国立大学で入学定員の30%を目標に拡大すると国立大学協会が2015年に工程表を示した一方、推薦・AO入試は青田買いや、大学入学時の学力低下の要因と批判されることもあり、政府も高大接続改革の一環として2021年度入試から推薦・AO入試(新名称:学校推薦型選抜、総合型選抜)でも学力の評価を強化することとしている。

社会的な重要度・注目度にも関わらず、入学方法による学生の違いについては未だ十分な研究の蓄積があるとは言えない。国公立大学や難関私立大学を中心とした個別の大学の短い報告は多数存在しているが、推薦・AO入試の役割は大学の入試難易度によって異なっている可能性がある。たとえ定員確保に追われている大学は学力が十分でない学生を比較的学力を重視しない推薦・AO入試で受け入れていることがあったとしても、入学希望者が多数いる難関大学ではそれをする必要がない。筆記試験入試のほうが質の良い学生を獲得できるのであれば、推薦・AO入試を止めてしまえばよいのである。大学の難易度に注目して分析を行った先行研究は見当たらないが、推薦・AO入試の現状を理解するには考慮すべきことである。

そこで、本研究では大学難易度と推薦・AO入試の役割との関係性を考察した。それにあたり、2つのことを行った。まず、大学入試情報を利用し、設置形態や偏差値、学部系統により推薦・AO入試を導入している大学の割合がどのように異なるかを概観した。これにより、AO入試は私立大学文系学部と偏差値が低い私立大学の理系学部で導入割合が高く、一方で推薦入試は大部分の大学で導入されていることを実際にデータで示した。

そして、本論文の主要分析では、大学生の個票データを用いて筆記試験入試入学者と推薦・AO入試入学者の違いの記述分析を行った。ここでは、高校生時点での特性、大学内外での態度。活動、大学でのパフォーマンスという3つの観点から、学業面を中心にその他の面も含めて分析した。使用しているデータでは進学先大学名は公表されていないため、出身高校の大学進学度に基づいて作成した出身高校ランクによる異質性に注目をした。

分析では出身高校のランクによる異質性を支持する結果がみられた。例えば、高校1・2年生時の学校での授業以外の平均の平日1日勉強時間数は筆記試験入試組が1.2時間、推薦・AO入試組が1時間となっているが、図1にみるように、出身高校ランク別に分けると興味深いことがみられる。確かに低位校出身者では推薦・AO入試組のほうが筆記試験入試組よりも勉強時間数が少なかったが、その差は出身高校ランクが上がるに従って小さくなり、高位校出身者では推薦・AO入試組の方が勉強時間数は多くなっている。全体での平均値では推薦・AO入試組の方が低かったのは、出身校ランクが低いほど推薦・AO入試入学者の割合が多いためである。

記述分析からは、出身高校のランクによって推薦・AO入試がなぜ学生に利用されているかが違うことが示唆された。ランクが低い高校ではアルバイトや部活動に精を出していてあまり勉強していなかった者が大学に進学する手段として推薦・AO入試を利用している可能性がある一方で、ランクが高い高校出身の推薦・AO入試入学者は、同ランク校出身の筆記試験入試入学者と比較して高校時代にまじめに勉強をしていた傾向があり、もともと大学には進学するつもりの者だったことが示唆された。そして、高位校出身の推薦・AO入試入学者は入学後の勉学への自主性や社会活動について望ましい特性を持ち、大学でのスキルの成長も大きいと評価していた。このことから、難関大学は推薦・AO入試によって、筆記試験で測れない面で望ましい特性を持つ者を獲得できている可能性がある。

しかし同時に、どのランクの高校出身であっても、授業へのまじめさ、大学への満足度は推薦・AO入試入学者のほうが同ランク校出身の筆記試験入試入学者よりも高い傾向がみられ、また大学でのパフォーマンスが劣っているという証拠はみられなかった。推薦・AO入試に対する社会的な低評価は、推薦・AO入試を導入している大学の割合が低偏差値の大学で高いことが主要因だと言えるだろう。推薦・AO入試によって学力の低い学生が大学に進学しているのは事実だが、偏差値の低い大学で推薦・AO入試を廃止して全て筆記試験入試にしたとして、現在よりも良い学生が獲得できるかは不明である。

大学の難易度や高校のランクに注目してデータ分析を行った先行研究が見当たらなかったため、本論文は研究のまず第一歩としての基本的な記述分析となっている。本論文で確認された事象を基として更なる分析を進めていくことが重要である。大学入試に対する社会での高い注目度・重要度にも関わらず、現時点では大学入試方法の情報を集めている調査も少なく、今後の分析のためにもより一層のデータの拡充が望まれる。

図1:出身高校ランク・入試方法別、高校1・2年生時の平均の平日1日勉強時間数(学校での授業以外)
図1:出身高校ランク・入試方法別、高校1・2年生時の平均の平日1日勉強時間数(学校での授業以外)