ノンテクニカルサマリー

日本人はコロナ禍をどのように過ごしたか?: 消費ビッグデータによる購買行動分析

執筆者 小西 葉子 (上席研究員)/齋藤 敬 (コンサルティングフェロー)/石川 斗志樹 (コンサルティングフェロー)/金井 肇 (株式会社インテージ)/伊藝 直哉 (株式会社インテージリサーチ)
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

2020年1月以降、世界規模でコロナ禍が続いている。日本は、死亡者数が少ないこと、いちはやく欧州からの入国制限が解かれたことにより、国際的に感染拡大の抑制に成功した国と評価されている。 そこで本研究では、私たちの日常生活の中に感染拡大対策のヒントがあるのではと考え、消費ビッグデータで購買行動を観察した。分析には、全国のスーパーマーケット、コンビニエンスストア、ホームセンター、ドラッグストア、家電量販店のPOS(Point of Sales)データを用いた。

図1は、感染予防のためのマスク、手指消毒剤、うがい薬の販売額の前年同週比と新規感染者数の推移である。前年同週比は前年販売額からの変化率であり、0%は前年と同じ販売額、増加率が100%の時は前年の2倍売れ、マイナスのときは販売減であることを意味する。

ヘルスケア品は、1月末にWHOが緊急事態宣言を出してすぐに市場が反応した。とにかく安全に、努力できることはする、という消費者の行動がグラフに表れている。また感染者数が少なかった5月、6月も販売増が続いている。詳しくみてみよう。

マスク:コロナショックで、最初に異常をきたし、最も変化があったのはマスク売場だった。転売禁止の措置(3月15日~8月29日)がとられた3月第3週は-17.5%の販売減であった。3月の第5週にプラスに転じて(3.1%増)からは右上がりで、8月の第1週には前年同週比1767.7%増と最も高くなった。

手指消毒剤:政府は、インフルエンザなど呼吸器感染症の感染予防対策推奨行為として、手洗い、うがいを推奨してきた。コロナ禍では手洗いの後の手指消毒と外出先での手指消毒が新たな習慣として身についた。

うがい薬:うがいもインフルエンザなどの呼吸器感染症の感染予防対策推奨行為であるが、水でのうがいが想定されてきた。うがい薬は、マスクや手指消毒剤と比較すると、前年同週比が低く見えるが、コロナ禍の前半ではとてもよく売れた。8月第2週のタイミングで最高値の996%増となったのは、第2波で新規感染者数がピークを迎えたこと、大阪府知事がポピドンヨードのコロナウイルスへの効果について言及(8月4日)した影響である。

図1:ヘルスケア品(3種類)の前年同週比と新規感染者数の推移(週次)
図1:ヘルスケア品(3種類)の前年同週比と新規感染者数の推移(週次)
出所:インテージ社のSRI(全国小売店パネル調査)のPOSデータと厚生労働省の国内発生状況を使用して著者作成

図2は紙製品の販売動向と新規感染者数のグラフである。2月27、28日に「トイレットペーパーが不足する」という誤った情報がソーシャルメディア上で拡散された。さらに安倍首相が翌週3月2日から一斉休校と在宅勤務の要請をしたタイミングが重なり、紙製品が爆売れした。トイレットペーパーとティッシュペーパーは、2回目の買いだめ(緊急事態宣言発出時)以降は、家庭内在庫の消費を行い販売減となり、その後は前年の水準で販売額が推移している。ペーパータオルも5月中旬以降は20%以下で推移している。

図1のヘルスケア品は、感染者数の多寡に関わらず購入され続けた。一方、紙製品は第2波では販売動向が落ち着いているのが特徴である。また、紙製品は、誤った情報に対して非常に強く反応し販売額が急増するものの、正しい情報が提供されると急激に元に戻っている。うがい薬も、知事や研究者がその効果が未だ研究途中であることをアナウンスした後、2週間後には、記者会見前の週(101.8%)よりも低い水準まで(65.7%)急落した。

図2:紙製品(3種類)の前年同週比と新規感染者数の推移(週次)
図2:紙製品(3種類)の前年同週比と新規感染者数の推移(週次)
出所:インテージ社のSRI(全国小売店パネル調査)のPOSデータと厚生労働省の国内発生状況を使用して著者作成

以上より、わたしたちは未知のコロナウイルスに対して、インフルエンザ等の感染症対策を徹底し、自発的に感染しない、感染させないよう努めた。加えて、新しい情報に対しても敏感に反応しながら、感染拡大を防ぎ続けたことが分かった。