ノンテクニカルサマリー

中国の産業貿易政策と経済成長

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

政策史・政策評価プログラム (第三期:2011〜2015年度)
「経済産業政策の歴史的考察―国際的な視点から―」プロジェクト

過去30年間にわたり、中国では貿易投資の拡大に伴って生産性が大きく上昇し、急速な経済成長を実現した。1979年に改革開放に転換してから中国政府はさまざまな産業貿易政策(加工貿易制度、経済特区、外資導入、国有企業改革策など)を実施してきた。とくに2001年のWTO(世界貿易機関)加盟を機に、産業貿易政策が大きく変化してきた。WTO議定書に沿って外資誘致、国有企業改革を含む国内構造改革も促進され、中国市場・企業の国際化が進んできた(図1)。

図1:WTO加盟と貿易自由化
図1:WTO加盟と貿易自由化
注:図1は425の鉱工業(4桁分類)のうち、貿易・投資規制のある産業の割合を示している。
出所:Brandt, Van Biesebroeck, Wang, and Zhang (2012) のFigure2より筆者作成。

産業貿易政策が中国の経済成長に対して有効だったのか、どの程度の量的効果をもつのかを検証することは政策的にも学術的にも大変重要である。本稿は中国のさまざまな産業貿易政策のうち、貿易投資・生産性に最も貢献したと思われる政策を取り上げ、先行研究を引用しつつ、産業貿易政策の展開と経済成長のメカニズムを検討するものである。本稿の主な結論は以下の通りである。

第1に、加工貿易、貿易権緩和、輸出増値税還付などの貿易政策が中国の輸出の量的拡大・質的向上に大いに貢献した点である。とくに、貿易促進政策が中国の比較優位を活かし、輸出の参入コストを低下させ、比較的生産性の低い中国企業でもグローバル・バリュー・チェーン(GVC)に参加することができた。もちろん、中長期的には中国企業が技術革新を通じてGVCでの位置を高めることが大事であるが、GVCに参加すること自体が中国企業の投資雇用の拡大・生産性向上に寄与したと考えられる。たとえば、Du, Lu, Tao and Yu (2012) は、企業特性の似た非輸出企業と比べ、輸出を開始した企業がその年にTFPが0.8〜1.9%高く、その後も輸出を継続する場合、5年後の累積的生産性プレミアムが3.9〜6.1%も高いと報告している。

第2に、WTO加盟による貿易自由化が中国市場や産業の活性化につながり、輸入競争や参入退出によって産業内の資源配分の改善、産業企業の生産性向上に大きく貢献しただけでなく、輸出環境も大きく改善され、貿易投資の拡大にも大きな効果をもたらした。たとえば、Brandt, Van Biesebroeck, Wang, and Zhang (2012)によると、関税が10%低下すると産業レベルの生産性が6%ほど恒久的に(permanent)上昇する効果がある。

第3に、経済特区と外資政策が投資・雇用・生産・輸出に大いに貢献し、産業内や産業連関を通じた外資のスピルオーバー効果も生じた。経済特区の効果に関しては、Wang (2013)は、外資企業と輸出集約度の高い企業を中心に、1人当たりの外国直接投資を58%も上昇させたこと、TFP成長率を0.6 %ポイントを向上させたことを報告している。外資企業の役割については、Whalley and Xin (2010)は、中国経済を外資企業と内資企業の2部門に分割した独自の成長会計モデルから、2003、2004年に外資企業が最大で中国の経済成長率の実に4割も実現したと試算している。

第4に、1990年代の国有企業改革によって国有企業の経済効率が改善し、1998〜2007年の中国のTFP成長率に20%も貢献している(たとえば、Hsieh and Song(2015))。それとともに私営企業部門も大きく成長し、非国有部門による工業生産額が地域総工業生産額に占める割合が高いほど、その地域のGDP成長率が高かった。

第5に、中国のイノベーション政策が産業横断的なファンダメンタルズの向上に寄与し、特許申請件数の増加にも正の効果を有し、また、ハイテク産業開発区と科学技術園区の発展に寄与した点である。科学技術園区では、政府は優遇税制を提供し、非国有企業の参入を奨励することによって企業家が積極的にイノベーションの成果を利益に転換させることを目指した。イノベーション政策に関する研究では、Hu and Jefferson (2009)などが挙げられる。

最後に、中国政府による産業貿易政策が全体として貿易投資の拡大、企業の生産性向上に大きく貢献したが、資源配分の歪みや国有企業のさらなる改革などさまざまの問題がまだまだ残っている。WTO加盟時の協議によれば、WTO加盟から15年が経過する2016年12月11日以降、中国は自動的に「市場経済国」として認定されることになるが、欧米諸国は「政府統制が多い」「市場経済化が不十分」などを理由に、依然として中国を「市場経済国」として認めない可能性がある。今後一層の貿易自由化に伴い、中国政府が資源配分の歪みを徐々に解消させ、持続可能な経済成長を実現するために、国際的ルールに従って国内制度改革を推進する必要があるだろう。

参考文献
  • Brandt, L., Van Biesebroeck, J., L. Wang, and Y. Zhang (2012) "WTO accession and performance of Chinese manufacturing firms," American Economic Review, R&R.
  • Du, J., Y. Lu, Z. Tao, and L. Yu (2012) "Do domestic and foreign exporters differ in learning by exporting? Evidence from China," China Economic Review, 23, 296-315.
  • Hsieh, C. and Z. Song (2015) "Grasp the large, let go of the small: The transformation of the state sector in China," NBER Working Paper No.21006.
  • Hu, A.G.Z. and G. H. Jefferson (2009) "A great wall of patents: What is behind China’s recent patent explosion?" Journal of Development Economics, 90, 57-68.
  • Whalley, J. and X. Xin (2006) "China’s FDI and non-FDI economies and the sustainability of future high Chinese growth," China Economic Review, 21(1), 123-135.
  • Wang, J. (2013) "The economic impact of special economic zones: Evidence from Chinese municipalities," Journal of Development Economics, 101, 133-147.