ノンテクニカルサマリー

有配偶女性のジェンダー意識・仕事意識と子どもへの影響―2014年「女性の活躍」調査の分析より―

執筆者 本田 由紀 (東京大学)
研究プロジェクト 労働市場制度改革
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プログラム (第三期:2011〜2015年度)
「労働市場制度改革」プロジェクト

2012年に政権に返り咲いてからの自民党が、スローガンの1つとして「女性の活躍」を掲げてきたことは周知の通りである。しかし、このスローガン自体は各所で叫ばれているものの、日本社会全般において「女性の活躍」の気運がそれほど盛り上がっているようには見えない。共働き世帯数は増えてきてはいるものの、就労する女性の中では非正規雇用が増加しており、女性管理職比率は依然として世界の中でもきわめて低い。

これはいったいどうしたことだろう。そもそも女性たち自身は「女性の活躍」が喧伝されていることをどう考えているのか。こうした関心から本稿では、2014年に実施した「女性の活躍」に関するインターネット調査データを用いて、女性の意識を探ることを試みた。

女性の意識については、男女の性役割を異なるものと考えるか、そうでないかというジェンダー意識の側面と、仕事に対して積極的か、消極的かという仕事意識の側面が、重なるようでいて相対的に別々のものとして見いだされることが指摘されている。また、今世紀初めまではジェンダー意識において男女平等を志向するリベラル化が進んできたが、近年は保守化の傾向が見られるという指摘もある。仕事意識についても、今世紀に入って積極化が停滞しているという知見がある。

これらを踏まえて本稿でも、ジェンダー意識が保守的かリベラルか、仕事意識が積極的か消極的かという二軸を設定し、さらにそれらを組み合わせて4つの意識類型を作成して分析を行った。

有配偶女性の中では6割が保守的なジェンダー意識を持ち、5割強が仕事に対して消極的である。無配偶女性ではそれぞれ5割強と4割強であり、有配偶女性の方がこれらの比率が大きい。この2つを組み合わせた4類型は表の通りである。有配偶女性の中では「保守・消極的」な意識類型が3分の1強を占めて最も多い。仕事には積極的でもジェンダー意識は保守的な類型が4分の1、ジェンダー意識はリベラルでも仕事には消極的な類型が2割弱であり、ジェンダー平等と仕事への積極性を兼ね備えた類型は残りの2割にすぎない。

表:配偶者の有無別 ジェンダー意識・仕事意識の類型
リベラル・消極的 リベラル・積極的 保守・消極的 保守・積極的 合計 N
有配偶女性 19.3 20.2 35.0 25.5 100.0 648
無配偶女性 19.4 27.0 24.6 29.1 100.0 382

調査手法や調査項目のワーディングが異なるため厳密な比較はできないが、1995年に実施された別の調査を用いて同様の集計を行った結果を参照してみると、2014年の方が「保守・消極的」が多く、「リベラル・積極的」が少なくなり、「女性の活躍」どころか後退しているような状況が浮かび上がる。

なぜこうなるのか。多変量解析により、4つの意識類型を分化させる要因を探ってみると、仕事に関する「強み」をもっていると感じている場合に「リベラル・積極的」になり、自分が「てきぱき・はきはき」と行動できると感じている度合いが低いことが仕事への消極性と関連している。また、家族を重視している度合いが強いと「保守・消極的」になる。

さらに、このような有配偶女性(母親)の意識類型が、その子どもに対して影響を及ぼしているのではないかということについても検討を加えた結果、母親が「リベラル・消極的」な意識をもっていると女の子の「てきぱき・はきはき」度(に対する母親の評価)が下がり、「リベラル・積極的」な意識をもっていると男の子の「てきぱき・はきはき」度が下がるということが示唆された。これは子どもに対する母親の主観的な評価であるため、子どもの客観的な状態を直接に表しているものとは言い切れないが、その評価が全くの誤認であると考える根拠もない。女の子への影響については、母親が性別役割にも仕事にもコミットしない場合に、女の子は「てきぱき・はきはき」と何かに向けて活動する契機を見失うのかもしれない。逆に、母親が旧来の性別役割に従わず、仕事で活躍しようとしていると、男の子は男としての活動性をどう発揮していいのかわからなくなるのではないか。後者については、女性にかしずかれないと活動的になれないという、日本の大人の男性のあり方が反映されているのかもしれない。

なお、母親の意識以外の要因としては、男児であれ女児であれ、家のお手伝いをしてもらうことが「てきぱき・はきはき」度を高め、男児の場合には親子で話をすることが多いことも同様の効果をもっていた。

女性のジェンダー意識や仕事意識が、むしろ過去へと逆戻りしている背景には、1つには「活躍」するための具体的な「強み」やスキルを女性が手にする機会が限られているにも関わらず、仕事の世界でのハードルが高度化しているというギャップの拡大があると考えられる。またもう1つは、「女性の活躍」を掲げる一方で「家族」の重要性を強調する、政策や世論のダブルバインド的なメッセージが挙げられる。「家族の絆」や「助け合い」が大切だと言われれば言われるほど、女性はその担い手としての責任を果たそうとして、仕事の世界からは撤退してしまう。そうした、「女性の活躍」に反する母親の意識のあり方は、次の世代の女性たち、つまり女の子の不活発さとして、世代を超えて再生産されてしまうのである。

「女性の活躍」を、単に空回りするスローガンに終わらせないためには、「家族」の支え手としての役割から女性を解放し、「家族」の外の世界で堂々と渡り合える具体的な「強み」としての専門性やスキルを身につけられる機会を保障することが不可欠だ。それは、子どもにとっても、お手伝いや親子の対話を通した生活者としての成長につながるはずだ。