ノンテクニカルサマリー

国内に工場を持たない製造企業:日本の実態と特徴

執筆者 森川 正之 (理事・副所長)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

1.問題の所在

グローバルな付加価値連鎖(GVC)が深化・細分化していく中、先進国において製造部門のオフショアリングや「製造業のサービス化」(servitization)が進行している。こうした中、「工場を持たない製造企業」(FGPs)の増加が注目されている。これは、生産工程の海外へのアウトソーシングを極限まで行い、国内の事業活動は脱製造業化した企業といえる。米国のアップル社、マインドスピード・テクノロジー社(半導体)、英国のダイソン社(掃除機、ドライヤー等)などが代表例とされ、医薬品やアパレルの分野に多く存在するといわれている。産業分類上は卸売業として扱われている企業が多いと見られている。

日本でも、ファーストリテイリング(ユニクロ)、ニトリ、良品計画といった企業が同様の性格を持つ企業の例であり、産業分類上は卸売業というよりは小売業だが、製造工程の多くを海外に委託し、国内では製品の企画・開発、広告宣伝、販売といったサービスに特化している。

日本の政策現場では、国内にマザー工場を持つことが製品開発力の維持・強化のために必要だという見方が強く、そうした観点からは、FGPsは否定的に捉えられる存在かも知れない。しかしながら、日本を含めて多くの国でFGPsの実態は未解明である。そこで、本稿は、経済産業省「企業活動基本調査」のミクロデータ(2009〜2013年度)を使用してFGPsの実態を概観する。

2.分析結果

本稿では、「国内に工場を持たない製造企業」を、(1)国内で製造事業の売上高がゼロ、(2)国内に製造子会社・関係会社を持っていない、(3)製造の外部委託(特に海外への委託)を行っている企業をFGPsと定義する。

結果の要点は次の通りである。第1に、上記(1)、(2)の要件を満たす企業(国内活動から見て製造業とは言えない企業約1万5000社)のうち、製造委託を行っている企業は20%弱とかなり多いが、海外に製造委託を行っている企業に限ると約3%である。第2に、日本のFGPsは、情報通信業や卸売業に産業格付けされた企業が多いが、小売業やサービス業に属する企業もかなり存在する。第3に、業種等の違いを考慮した上で、FGPsは企業規模が大きく、生産性や賃金が高い(表参照)。平均値で見ると、FGPsの規模は非FGPs企業と比較して約40%大きく、生産性および賃金水準は約10%高い。第4に、業種・企業規模を考慮した上で、FGPsは研究開発投資をはじめとする無形資産投資に積極的で、本社機能部門が大きい傾向がある。

FGPsは、グローバル化が深化する中で、タスク・レベルでの先進国の比較優位に沿った存在だといえる。輸送・通信コストの低下、TPPをはじめとする経済連携協定の拡大は、グローバルな分業をさらに細分化・深化させていくと予想され、優れたFGPsの成長は日本全体としての「稼ぐ力」を強める役割を果たすことが期待される。

表:日本のFGPsの特徴(非FGPsとの比較)
項目
企業規模 39.2% ***
労働生産性 10.0% ***
TFP 10.4% ***
平均賃金 8.2% ***
研究開発実施確率 12.0% ***
無形資産投資対売上高 0.7% ***
本社機能部門比率 2.3% ***
(注)「企業活動基本調査」(2009〜2013年度)のミクロデータから計測。企業規模は業種(3ケタ分類)を、それ以外は業種および企業規模をコントロールした後の数字で、FGPsが非FGPs(国内の事業活動は製造業でなく、製造委託を行っていない企業)と比べて何%高いかを示す。***は有意水準1%。