日本における取締役会の改革の効果分析

執筆者 金 榮愨 (専修大学)
権 赫旭 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト サービス産業に対する経済分析:生産性・経済厚生・政策評価
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム (第三期:2011~2015年度)
「サービス産業に対する経済分析:生産性・経済厚生・政策評価」プロジェクト

カネボウ、ライブドア、オリンパスなど、日本企業の不祥事が相次いだ。内部者によって構成されている取締役会は企業のパフォーマンスと関係なく社長を選任し、そのように選任された社長は企業価値を高めるような経営をすることは難しい。このような日本企業のコーポレート・ガバナンスの問題を解決するために、外部取締役と経営者の誘因メカニズムなどを中心とするアメリカの企業統治方式を日本へ導入する方向へ改革が行われてきた。具体的な改革措置は2001年の社外取締役導入、2003年の委員会等設置会社の導入、更には2006年施行の会社法による、会社の規模に関わらない委員会設置会社への移行であった。しかし、2003年に委員会設置会社へ移行した東芝で最近起きた不適切会計の問題はコーポレート・ガバナンスの制度を変えることだけでは日本企業の経営を新たにできないことを示唆する。今年また会社法が改訂されたが、その前に行われた一連の改革措置が日本企業のパフォーマンスにどのような影響をもたらしたかについて、2005年から2010年までの『企業活動基本調査』の個票データを用いて分析した。

本稿は今まで多く行われてきた既存研究に比べて、以下のような特徴があると言えよう。第1、上場企業に加え、多くの非上場企業を含んだサンプルで生産性への影響を分析しているところに特徴がある。企業パフォーマンス変数として生産性指標は不適切会計や株価の変動の影響が少ない長所がある。第2、既存研究が企業の取締役会の選択に関する内生性を考慮していない一方で、本論文は取締役会の形態に関する企業選択の内生性を考慮している点である。第3、既存研究が製造業に偏ったサンプルを用いているのに対して、サービス産業に属する多くの企業も分析対象に含んでいる。

2006年時点で取締役会の形態別に平均のTFPレベルを比較すると社外取締役が存在している企業が一番高く、次が委員会を設置している企業で、改革しない企業のTFPレベルが一番低いことが分かる。

図:平均TFPレベル
図:平均TFPレベル

取締役会の改革を行う動機とその後の効果について回帰分析を通じて明らかになった結果は以下の通りである。

第1、
取締役会改革を行う企業はどのような特徴を持っているかについて推計した結果から、製造業と非製造業の両産業において、国内子会社である場合や規模が大きい企業が経営への監督機能を強化するために取締役会の改革を行っている可能性が高いことが分かった。
第2、
取締役会改革を外生的に捉えて分析した結果から、製造業と非製造業の両産業において、社外取締役の設置はTFP上昇に統計的に有意な正の効果を与えている一方、委員会の設置はTFP上昇に有意な効果を与えないことが分かった。
第3、
取締役会改革を外生的に捉えて分析した結果から、委員会や社外取締役設置のような取締役会の改革は、製造業、非製造業ともにTFP上昇に統計的に有意な影響を与えないことが分かった。

この分析結果において、取締役会の改革効果が強く見られない理由として考えられることは、社外取締役の特性や、取締役会のメンバーの中で社外取締役が占める割合や委員会の運営メカニズムに関する情報の入手が困難な中で、制度が導入されたかどうかに関するダミー変数のみで、改革の効果を分析することの限界の可能性は否定できない。

日本の従来のコーポレート・ガバナンスを維持しながら優れたパフォーマンスを出している企業が多く存在する一方で、コーポレート・ガバナンス体制を一新したにもかかわらずパフォーマンスが悪化している企業も存在している。このことからより良い制度や規則を導入しているよりも現制度の中で優れたパフォーマンスを示している企業の競争力の源泉を明らかにすることが非常に重要な研究課題であると考えられる。

新たな制度を導入する際には、その制度が形骸化しないように補完性がある制度の改革も同時に行う必要がある。たとえば、社外取締役の独立性を確保することが重要であることは言うまでもないが、親会社、メインバクや規制当局出身ではない人材を確保することは現日本では非常に難しい。社外取締役の導入とともに経営者市場の確立や労働市場の改革を同時にしないと制度改革が目標にした結果を得ることが出来ない。