ノンテクニカルサマリー

国境と国籍を超えた知識・能力の融合:PCT出願データからのエビデンス

執筆者 塚田 尚稔 (リサーチアソシエイト)/長岡 貞男 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト イノベーション過程とその制度インフラの研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

技術とイノベーションプログラム (第三期:2011~2015年度)
「イノベーション過程とその制度インフラの研究」プロジェクト

本論文では、国際出願のデータを使って海外との共同研究開発が発明のパフォーマンスにどのような効果をもつのか分析を行った。

米国を指定国に含む国際出願(PCT)の書誌情報からは発明者の居住国と国籍のデータを抽出することができる。PCT経由の米国登録特許のうちで出願人が1人、発明者2~5人による共同発明の特許に注目して、以下の4つタイプ:「国内の自国籍発明者のみの共同発明」「国内の外国籍発明者との共同発明」「外国居住の自国籍発明者との共同発明」「外国居住の外国籍発明者との共同発明」に特許を分類した。日本居住または日本国籍の発明者を含む特許を「日本サンプル」としている(他の国も同様)。

日本以外の主要工業国では、国境・国籍を超えた共同発明が増加している(図1)。特に科学的知見が発明に重要な役割を果たすセクターでは海外との共同発明が多い。

図1:共同発明の類型別比率の時系列推移(国内の自国籍発明者のみの共同発明は省略)
図1:共同発明の類型別比率の時系列推移(国内の自国籍発明者のみの共同発明は省略)
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図2は、サイエンス・リンケージ(当該特許が科学技術論文を引用している件数)と前方引用件数(当該特許が引用された回数)の平均値を共同発明の類型別・国別に示したもので、どちらの指標についても、自国の発明者のみによる共同発明と比較すると、国境・国籍を超えた共同発明は平均値が高い傾向にある。

図2:サイエンス・リンケージ、前方引用件数の平均値
図2:サイエンス・リンケージ、前方引用件数の平均値
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回帰分析においてセクターの違いなどをコントロールしても、国内の外国籍発明者との共同発明や外国居住・外国籍発明者との共同発明は、国内の発明者のみの共同発明と比較してサイエンス・リンケージが高く、前方引用件数で測った意味での特許の質も高い。ただし、出願人企業の固定効果をコントロールすると、これらの効果は有意ではあるが小さくなる。そして、筆頭発明者の固定効果をコントロールすると有意な差はなくなる。

したがって、外国籍発明者との共同研究、外国籍・外国居住発明者との共同研究は、国内発明者のみの共同研究よりも質が高い傾向にあるが、これは、企業、および研究開発リーダーの能力に強く依存していると考えられる。国内と海外の研究者のコラボレーションが互いに補完的でないならば、研究チーム内の単純な多様性は非生産的になる可能性もある。研究開発プロジェクトにおいて外国の研究者の知識と能力をうまく活用できるよう研究開発インフラへの投資を行うことや、国内の研究リーダーと潜在的な共同研究相手との効率的なマッチング・スキームを構築していくことが重要であるといえるだろう。