ノンテクニカルサマリー

イノベーションと競争政策の法的執行:理論と日本の自動車部品企業の海外法人に関する実証分析

執筆者 竹田 陽介 (上智大学)/打田 委千弘 (愛知大学)
研究プロジェクト 東アジア産業生産性
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム (第三期:2011~2015年度)
「東アジア産業生産性」プロジェクト

競争は、イノベーション後の市場構造における利潤を損なうため、企業のイノベーションに対するインセンティブを低下させると説くジョセフ・シュンペーターに対して、イノベーション前の市場構造における超過利潤の低下を前にして、企業が現状からの脱却を志向し、イノベーションのインセンティブを高めるとするケネス・アローの間で、旧くて新しい大きな溝が存在してきた。近年では、OECDにおいて、競争政策に関する法的執行のあり方が、企業の生産性に差異をもたらすかについて実証研究が進んでいる。本研究は、企業のR&D活動あるいは競争妨害行為に関して、規制・過失責任・無過失責任に分かれる競争政策に関する法的執行によって如何なる差異が生まれているかについて、『海外事業活動基本調査』および『企業活動基本調査』のうち、自動車部品企業の海外法人に関する個票データを用いて実証分析を行う。

図表にあるように、日本の自動車部品企業は、法秩序の異なるさまざまな国に海外展開してきた。受入国には、米国・タイ・インド・マレーシア・英国などの英米法の法的伝統を残す国、中国・台湾・韓国などのドイツ法、インドネシア・フィリピンなどのフランス法の国がある。法的伝統の違いは、競争政策に関する法的執行のあり方に作用していると考えられる。また、海外法人の事業所数はリーマン・ショックとは関係なく伸びるのと同時に、2007年まで立地国として第1位であった米国が中国に抜かれ、現地法人の立地先の選択について時間を通じた変化が観察される。本研究では、活発化する日本の自動車部品企業の海外展開が、こうしたさまざまな法的伝統を有する受入国への立地選択に関して、時間を通じて変化してきた事実に着目する。

本研究は、第1に、市場参加者の間の戦略的R&D競争および政府による法的執行の最適な選択の両方を考慮しながら、イノベーションと競争政策の法的執行に関するゲーム理論的モデルを提示する。第2に、企業の立地する国の法秩序を所与とするとき、法的執行の差異が、市場における新規参入企業のR&D活動あるいは市場占有企業のR&Dの競争妨害行為に対して与える平均的な効果(Average Treatment Effect)について推定する。その結果、競争政策の法的執行の違いは、イノベーションの成功の重要な条件であることが示される。

図表:日本の自動車部品企業の海外法人の事業所数の上位10国
(2003年、2007年、2011年、括弧内は現地法人数)
ランキング2003年2007年2011年
1アメリカ(262)アメリカ(300)中国(383)
2タイ(149)中国(292)アメリカ(288)
3中国(130)タイ(181)タイ(227)
4インドネシア(71)インドネシア(91)インドネシア(98)
5台湾(48)台湾(49)インド(72)
6インド(44)インド(49)台湾(50)
7韓国(41)マレーシア(43)フィリピン(46)
8マレーシア(39)イギリス(42)ベトナム(46)
9フィリピン(39)フィリピン(41)イギリス(37)
10イギリス(37)韓国(39)メキシコ(37)
合計115214571617
資料『海外事業活動基本調査』