ノンテクニカルサマリー

女性・外国人取締役はどのような企業にいるのか?―サーベイデータによる分析―

執筆者 森川 正之 (理事・副所長)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

研究の概要

本論文は、上場企業・非上場企業をカバーする日本企業約3000社のデータ(2011年度)を使用して、女性取締役・外国人取締役がどのような企業にいるのかを分析する。企業経営における性別や国籍の多様性を期待する議論は多いが、効果的な対応のためには正確なエビデンスの把握が大前提となる。しかし、非上場企業を含む実態は既存の統計データからは必ずしも明らかではない。ダイバーシティへの社会的要請が高まる中、機関投資家をはじめとする株主からの圧力に晒される上場企業、多くの人々の目に触れやすい大規模な企業ほど取締役構成の多様化が進んでいるかどうかが1つの関心事である。

分析結果の要点

分析結果(図1参照)によれば、上場企業、株式の多くを所有する親会社を持つ企業(子会社)、労働組合のある企業は女性取締役がいる確率や女性取締役の比率が低い。一方、オーナー経営企業は女性取締役が存在する確率、女性取締役比率とも非常に高く、女性社長の確率も高い。また、企業年齢の若い企業は女性取締役がいる確率が高い。企業規模や外資比率は女性取締役と有意な関係がない。(企業規模などが同じであれば)取締役総数の多い企業ほど女性取締役がいる確率、女性取締役比率が高い。海外の一部の研究は女性がトップの企業では他の女性取締役が登用されにくいことを示しているが、日本企業ではそうした関係は確認されない。

外国人取締役の数は現状非常に少ない。外資比率の高い企業ほど外国人取締役がいる確率および外国人取締役比率が高く、直接投資や輸出といった事業のグローバル化も外国人取締役の存在と正の関係がある。他方、企業規模、上場の有無をはじめとする他の変数と外国人取締役のプレゼンスの間にシステマティックな関係は確認されず、大規模な上場企業ほど外国人取締役が積極的に登用されているとはいえない。

政策的含意

女性の取締役や経営者を増加させようとするならば、上場大企業の長期雇用者を念頭に置いた対応にとどまらず幅広い視野からの取り組みが必要である。ことに新規開業の増加が潜在的に重要な役割を担う。女性の起業が増えれば直ちに女性経営者の増加に結びつくし、男性の起業であっても若い成長企業で女性が取締役に登用される可能性は高い。

取締役の国籍の多様化に関しては、成長戦略の観点から対内直接投資の拡大や企業のグローバル展開の推進が重要な政策課題とされているが、外資の拡大や日本企業のグローバル化の進展は、外国人取締役の増加にも寄与すると予想される。

このほか、企業規模などをコントロールした上で取締役の数が多い企業ほど女性や外国人の取締役が多い傾向があることは、多様性を高める上で取締役の枠自体を拡大することが有効な可能性を示唆している。かつて取締役数の多さは企業価値を低下させるという研究が存在したが、その後の研究は最適な取締役数は事業特性などさまざまな要因に依存し、取締役数の削減が一般的に望ましいという通説は正しくないことを明らかにしている。事業戦略上ダイバーシティ拡大のメリットが大きいと判断する企業にあっては、コストとのバランスに留意しつつ女性や外国人を登用する際に取締役の枠を増加させることも有力な選択肢として考慮する余地がある。

図1:企業特性と女性取締役の存否
図1:企業特性と女性取締役の存否
(注)女性取締役が存在する確率に対して各企業特性1標準偏差が及ぼす効果(%)。正値は女性取締役が存在する確率が有意に高く、負値は有意に低いことを意味。企業規模、外資比率は統計的にゼロと有意に異ならない。