ノンテクニカルサマリー

幼少期の家庭環境、非認知能力が学歴、雇用形態、賃金に与える影響

執筆者 戸田 淳仁 (リクルートワークス研究所)
鶴 光太郎 (ファカルティフェロー)
久米 功一 (リクルートワークス研究所)
研究プロジェクト 労働市場制度改革
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プログラム (第三期:2011~2015年度)
「労働市場制度改革」プロジェクト

問題の背景

人的資本には、認知能力(Cognitive skills)と非認知能力(Non cognitive skills)がある。IQやアチーブメント・テストに代表される認知能力に対して、非認知能力とは、パフォーマンスに影響を与えるその他の特性、パーソナリティ特性、選好などを指す。近年の研究によれば、学歴や雇用形態、賃金などの労働市場における成果に対して、認知能力だけでなく非認知能力も影響を与えることが明らかになっている(Heckman and Kautz 2013)。これらの研究は、非認知能力の形成におけるインフォーマルな関与の重要性を示唆している。本稿では、非認知能力やそれを形成する幼少期の家庭環境が、学歴や雇用形態、賃金といった労働市場における成果に対する影響を分析した。

分析に用いる変数

幼少期の家庭環境として、小学年低学年(7歳時点)および中学校卒業時点(15歳時点)の(1)暮らし向きが良かったか否か、(2)両親は共働きをしていたか、(3)家にはたくさん蔵書があったかといった点に注目する。また、両親の教育水準として、父親母親が大卒か否かに注目する。認知能力として、分析対象者が主観的に答えた15歳時点での成績の評価を使う。さらに、非認知能力として、(1)高校時の遅刻があったか否か(勤勉性の変数、Lleras 2008)、(2)子どもの頃に1人遊びをよくしていたか、室内遊びをしていたか(外向性の変数)、(3)中学生時代にどの部活・クラブに入っていたか(運動部、文科系、生徒会、帰宅部)、団体競技・個人活動か否か、部長やキャプテンを務めていたか(Kuhn and Weiberger 2005)に注目した。

分析の結果

推計結果をまとめると表1の通りである。認知能力(15歳の成績)について、学歴、雇用形態、賃金に対して有意な影響を示しており、非認知能力や幼少期の家庭環境をコントロールしてもなお有意である。幼少期の家庭環境について、家庭環境が学歴に対して有意に影響するが、就業以降は家庭環境の影響が弱まる。賃金に対しては蔵書の多い家庭で育った人ほど賃金が高くなる。

表1:分析のまとめ
表1:分析のまとめ

非認知能力に関しては、勤勉性を表す高校時の無遅刻は、学歴、初職および現職の雇用形態に対して正に影響していた。内向性を示す室内遊び(15歳時点)については学歴には正の影響を与えるものの、現職雇用形態には負の影響を与えていた。さらに、中学時代に運動系クラブ、生徒会に所属したことのある者の賃金が高まる効果がみられた。これらの結果は、認知能力だけでなく、勤勉性、外向性、協調性やリーダーシップを涵養するような活動・経験が、将来の労働市場での成功に関係することを示している。

政策的なインプリケーション

幼少期の家庭環境は、認知能力や学歴に影響を与える。認知能力や学歴がその後の人生に影響を与えることを考慮すると、Heckmanらが主張しているように、幼少期の家庭環境をサポートし十分な教育機会を与えるような政策は日本においても効果が得られる可能性が高い。また、認知能力と並んで高校時の遅刻状況などで表わされる勤勉性は学歴や就業人生に大きな影響を与えることから、ビッグファイブの中でもまずは勤勉性を高めることが教育政策の方向として重要であるといえる。さらに、運動系クラブや生徒会に所属する経験が賃金にプラスに働くことから、課外活動を通じて、ビッグファイブの外向性、協調性やリーダーシップを高めていく取り組みも必要である。