ノンテクニカルサマリー

非認知能力と行動特徴が学歴、所得、および昇進に与える影響の分析

執筆者 李 嬋娟 (明治学院大学)
大竹 文雄 (大阪大学)
研究プロジェクト 労働市場制度改革
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プログラム (第三期:2011~2015年度)
「労働市場制度改革」プロジェクト

IQに代表される認知能力が、教育やキャリアの成功と強い相関をもっていることはよく知られている。しかし、非認知的スキルが人生の経済的成功において果たす役割についての研究はあまり多くなかった。ところが、意欲や社会的適応力といった非認知的スキルを考慮しないで、試験成績やIQで計測される認知能力だけを人的資本として評価してしまうと人的資本の評価として十分ではないことがシカゴ大学のヘックマン教授らによって指摘されてきた。近年の研究には、非認知的スキルが、学歴や所得を予測する上で重要であることを示すものがある。

本研究は、非認知的スキルの指標としてビッグ5と呼ばれる性格特性が、学歴や労働市場での成果とどのような関連があるかについて、日米両国のデータを用いて比較研究を行ったものである。

実証分析の結果、これらの非認知的スキルは、学歴、賃金、昇進の違いに統計的に有意な影響を与えていたことが明らかになった。具体的には、次のとおりである。第1に、 日米で共通の特徴として、「経験への開放性」が学歴に、「外向性」と「勤勉性」が所得および昇進に対して、それぞれプラスに影響を与えていた。これらの結果は、米国などの先行研究と整合的でもある。

第2に、日米で異なっている点として、「協調性」の影響があげられる。それは、「協調性」が労働市場や教育成果に与える影響の符号が日米で反対ということである。日本では「協調性」が学歴と所得に正のプラスの影響を与えている。一方、アメリカでは、学歴と所得に「協調性」が有意なマイナスの影響を与えている。なお、本研究の結果は、職種、勤続年数、企業規模をコントロールしても結果が変わらないことが確認されている。

本研究の結果、学歴および労働市場でのパフォーマンスに対して、認知能力だけではなく、ビッグ5という性格要因で測定される非認知的スキルが、無視できない影響を与えていることが示された。こうした非認知的スキルを強化するような政策的介入を公共政策の1つとして検討することが政策的含意として考えられる。

図:Big5性格の日米比較
図:Big5性格の日米比較