ノンテクニカルサマリー

地域金融の健全性と研究開発活動

執筆者 後藤 康雄 (上席研究員)
研究プロジェクト 金融の安定性と経済構造
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済を活性化するためには、地域を支える企業を元気にしなければならない。それではどのような条件が整えば、地域の企業は元気になるのか。本稿はその条件として地域金融に着目する。地域金融が健全な地域では、企業の資金繰りが円滑になされ、企業活動に資すると考える。しかし、一言で企業活動といってもさまざまな側面がある。ここでは、長期的に地域経済を活性化する企業活動として、研究開発をとりあげる。研究開発が活発になれば技術革新が進み、域内企業の生産性や競争力が向上し、ひいては地域が活性化する可能性がある。

データを用いた実証分析の結果、地域金融が健全な地域では、特に中小企業の研究開発活動が活発化する傾向が示された。大企業を含めた全サンプルを用いると、地域金融の健全性と研究開発活動は、必ずしも強い相関を持つとはいえない。しかし、大企業に比べて金融制約が強いとみられる中小企業にサンプルを絞ると、かなり明瞭な関係が観察される。さらに、中小企業では、アンケート調査において研究開発に関する回答はゼロ値が多いという特性を考慮して分析を行うと、その関係は一段と強くなる。たとえば、地域金融機関の不良債権比率(県別に計算)が1%低下すると、その地域で研究開発を行っている中小企業の研究開発支出額を、7%近く押し上げる可能性がある。

本稿の実証結果からは、地域経済の活性化における地域金融の役割の大きさが示唆される。金融システムを安定させるためのプルーデンス政策は、一時的な経済の動揺を抑える効果だけでなく、地域経済の中長期的な発展にも意味を持つ可能性がある。

地域金融の健全性に対する企業R&Dの反応度合い
地域金融の健全性に対する企業R&Dの反応度合い