ノンテクニカルサマリー

産業・企業の異質性と企業立地

執筆者 大久保 敏弘 (神戸大学経済経営研究所)/Rikard FORSLID (ストックホルム大学)
研究プロジェクト 日本企業の海外アウトソーシングに関する研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

都市と地方の均衡ある産業配置は長く議論されてきた政策課題で、とくに企業や産業をどうやって各地方自治体が誘導するかが焦点である。さらに近年の地方分権や地域主権の議論からは誘致のみならず、生産性の高い企業や成長産業をどう誘致するのかが、今後の税収確保に絡み極めて重要な政策課題である。

経済地理理論の研究では、最近、立地と生産性の研究がおこなわれている。最新の理論では企業間で個々に生産性が異なるとき、自らの生産性により企業立地が都市か地方かに振り分けられる(Sorting)ことが示されている。つまり、人口・市場が大きな都市部(小さな周辺部)ではより生産性の高い大企業(低い中小企業)の集積・地理的集中が起こりやすい。企業の生産性や規模が違うことでSortingが起こり地域間あるいは地方と都市の生産性格差は生まれる。最近の経済地理理論(Baldwin=Okubo(2006))によれば、都市の生産性は必ず高くなるし、地方は生産性の低い企業のみになってしまう。

しかし、実際にはそれほど単純ではない。産業間で企業立地パターンや特性には大きな違いがあるし、労働集約的と資本集約的な産業では企業の立地分布や生産性の分布は大きく異なる。都市部の競争激化で低い生産性の企業が地方へ移転する(Selection)産業も考えられる。一方で、Okubo=Tomiura(2010)が実証したように日本の都市部では大企業のみならず小規模企業もともに集積している現象がみられる。

この論文では、産業により異なる立地と生産性の分布を都市・地方に区分けして4つのパターンに分類した(図を参照)。1)生産性が全体的に上昇する「マーシャルの外部経済」、2)生産性の低い企業が地方へ移転する「Selection」の場合、3)生産性の高い企業のみが都市部に集中する「片側Sorting」の場合、4)生産性の高い企業と低い企業の両方が都市部へ集中する「両側Sorting」の場合である。「マーシャルの外部経済」と「Selection」に関しては古くから多くの先行文献で議論されてきた。最近の実証研究(Combes et al., 2009)では両者についてフランスの都市に関して検証された。「片側Sorting」はBaldwin=Okubo(2006)論文で初めて理論的に示されたが、「両側Sorting」の場合はいまだ理論化されていない。そこでこの論文ではBaldwin=Okuboの経済地理理論を拡張し、企業間の生産性の違いに加えて産業間で資本集約度が違う場合を理論化し企業の立地がどのような影響を受けるのかを分析した。我々の理論分析から、労働集約的な産業では従来の理論のように生産性の高い企業が都市部に集積する(片側Sorting)が、一方で資本集約的な産業では生産性の高い企業のみならず低い企業も都市部に集積する(両側Sorting)。実証分析では日本の工業統計調査を用いて3桁産業分類別に集計・回帰した結果、多くの産業では上記のような4つの区分のどれかにあてはまり、理論の結果と同様に資本集約的な産業ほど両側Sortingがおこっていることがわかった。政策的なインプリケーションとしては第1に産業ごとに企業の生産性と立地の仕方は大きく異なり、産業の資本集約度・労働集約度が立地分布に大きく影響を与える。このため資本集約度に影響を与えるようなR&D政策や投資関連の税制が企業立地や都市=地方の生産性格差に与える影響は大きい可能性がある。第2に資本集約的産業では都市部でも中小企業の集積がおこりやすい。機械産業などの産業では特に都市部では中小企業を十分運転資金などバックアップするような政策が望まれる。

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