経済政策の新たな展開:多様な選択が可能な革新を生み出しやすく活力ある経済システムを目指して

執筆者 一柳 良雄/細谷 祐二
発行日/NO. 1998年4月  98-DOJ-89
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概要

本稿では、現在日本政府を一体となって進めている経済構造改革、さらにその後の21世紀において日本経済がダイナミックで活力に富んだものとなるために不可欠な経済政策のあり方を、「比較制度分析」の基本的考え方に依拠しつつ「制度」あるいは「経済社会システム」に注目して論じている。そして、市場、民間制度、政府の関係を整理し、今後の日本における政府の役割として「市場機能拡張」という分野が極めて重要であるということを述べた。

市場は民間のコーディネーション、そしてそれが定着、普及した制度に補完されることでイノベーションを通じたダイナミック資源配分の効率性を実現する力を内在的に備えている。しかし、そのパフォーマンスは国毎に多様な発展をみせる民間の制度に大きく左右される。比較制度分析によれば、制度は体系として歴史的経路依存性を有しており、それぞれの国の経済社会を取り巻く環境によって進化し、時に制度的補完性によって強固な経済社会システムとして安定し、その国の比較優位を決定する。しかし、取り巻く環境が大きく変化したり発展段階が進行すると、それまでの良好なパフォーマンスを支えた制度が機能を失い、場合によってはかえって経済活動を阻害する可能性がある。

日本を取り巻く大きな環境変化、すなわちグローバル化、情報化、少子高齢化、フロントランナー化は、まさに制度変革を迫るものと考えられる。

こうした状況の下で、日本政府に求められる役割は、市場が民間制度と一体となって実現する本来のダイナミックな資源配分機能を最大限に発揮させるため、民間のコーディネーションをより円滑にし促進するという役割、すなわち「市場機能拡張的」役割であるということができる。「市場機能拡張的」政策は、民間のコーディネーションなり制度が経済主体のインセンティブを引き出し、モラルハザードを抑止し、情報の非対称性を補正する機能を高めたり、そうした役割を担うインターミディアリーの発達を促すものである必要がある。また、日本の現状に目を転じた場合、イノベーションを活発にするとともに制度的補完性に発する慣性を克服していくことが不可欠であり、経済主体の挑戦を可能とする「多様な選択肢」を確保することが不可欠である。

こうした基本的考え方に基づき本稿の後半では、現在日本において取り組みが進められている個別政策、すなわち純粋持株会社制度の導入、コーポレート・ガバナンスの見直し、新規産業創出のための環境整備、税制改革、雇用制度の見直し、大学改革、適切な知的財産制度の設計、環境政策、政府活動への市場機能の導入、セイフティーネットの準備等についてその望ましい方向性を論じている。市場機能拡張的な視点に基づきこうした政策をパッケージとして講じることは、新しい日本の経済社会システムの進化に資するものと考える。

また、公共財の提供、規制等引き続き政府の関与が残る分野に市場機能や民間のコーディネーション機能を導入する、我々が第2類型と呼んだ「政府を市場が補完する」政策の拡大が重要である。また、将来への不確実性の高まりに対応して政府の失敗の可能性を低減する努力も必要であり、そのため政策の本格導入に先立ち試行期間を設ける、政府内の有効なチェック&バランスの仕組みを整備することも重要な課題である。