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環境投資による内生的な地域格差是正を目指して*1
Aim at the Endogenous Correction of Regional Disparities by Environmental Investment

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これまでの地域格差是正の手段として、地方交付税、工業誘致、公共投資などが代表的であったが、それらは、いずれも地域にとっては国や域外に依存する政策であった。本稿では、こういった外生的な力に依存しないで地域自らがその資源を活用して格差を縮小できる方法として環境資源の存在と活用に着目して、その格差是正効果を定量的に把握することを目的とする。具体例として、地方の木質バイオマス燃料生産による生産効果、そして、その燃料を活用することでのCO₂ 削減効果、さらにクレジット創出から域外への販売効果等によって、どの程度格差是正に貢献できるかを、新たな地域間産業連関分析のフレームを用いて実証分析と政策的含意を述べる。

To correct regional income disparities is a quite important policy issue. The representative policies are income transfers, plant location from the outside areas, and public investment. These policies, however, depend on the national policies. In this study we focus on regional own(environmental)resources, in particular, wooden biomass, and estimate economic effects by using such regional environmental resource with the interregional IO approach. The economic effects we estimate aiming at the correction of regional income disparities are the outcome of export of wooden biomass to metropolitan area as well as the usage within the area, and the creation of CO₂ credit.

1. 地域間格差の展望

2000年に入って地域間の所得格差が拡大してきたことはよく知られていることである。図1では、2000〜2005年度における「昼間人口1人当たりの総生産額」について、横軸に基準年の平均値からの格差、縦軸にその後の5年間の変化率をとり、各地域をプロットしたものである。おおむね、所得水準の高い地域が相対的により成長している傾向にあることがわかる。したがって、この期間、地域間の格差は拡大していることになる。また、この期間における製造業の生産額伸び率と総生産額の伸び率の高い相関関係(図2)を考えると、愛知県、三重県、栃木県、滋賀県、静岡県のように製造業でも電気機械や輸送用機械といった輸・移出産業が多く立地する地域が、地域経済を牽引していることがわかる。格差拡大期においては、これら移出産業の好調な地域の所得がより拡大し、低所得地域との格差を広げていったのである。

図1:格差拡大期の各地域の動向
図1:格差拡大期の各地域の動向
図2:格差拡大期の生産額の伸び率
図2:格差拡大期の生産額の伸び率

しかし、2008年9月15日にアメリカのリーマン・ブラザーズが破綻したことに端を発して、そのことが世界の金融市場のみならず景気そのものに大きな影響を与えてきた。我が国でも、輸送機械や電気機械など、特に海外への輸出に地域経済が強く依存していた地域は大きく打撃を受けた。また、同時に非常用雇用者の急激な削減や内定取り消しなど地域の労働市場における大きな社会問題を現在に至るまで生み出している。

この状況が続けば、輸移出に依存して相対的に所得水準の高かった地域の落ち込みが生まれ、地域間格差は縮小に向かうことも予想される。しかしながら同時に、税収の落ち込みによって、これまで地方経済を底支えしてきた地方交付税などによる財政移転も多くは望めないことになる。そうすると、非製造業で域外マネーを獲得してきた地域、特に東京を中心とした大都市圏と地方圏との格差が拡大することが懸念される。比較的高額な耐久消費財の消費については控える傾向が生まれるが、反面サービス財の消費はあまり落ち込まないと考えられる。そのサービス財を提供している源は東京を中心とする首都圏であるからだ。

高度経済成長期を別にすれば、これまで景気後退期では地域間格差は多分に縮小してきた。しかし、これからの景気減退期においては、新たな地域間格差の拡大も懸念されるのである。

実際、2000年から2005年の5年間で、首都圏の人口割合は26.3%から27.0%へと増加し、2008年ではさらに27.4%と増えており、ここにおいても大都市圏と非都市圏の格差が広がってきている。こういったことは、地方都市の自立性を喪失させ、格差拡大の悪循環に向かう可能性を秘めている。

2. 内生的な地域格差の是正

2.1 これまでの是正策

これまで我が国において地域間格差を是正する政策とは、地方への工場分散、公共投資の傾斜配分といったことが中心であった。これは、地域経済にとっては他力的であるという意味で外生的なものであったと言えよう。これらは一定の成果も上げたものの、それでも大都市圏と地方圏の人口割合は拡大を続け、多くの地方は大都市圏への人口流出に今なお悩んでいる。

近年の地域間格差拡大が首都圏と地方圏の差の拡大であることを認識すれば、分散化政策は効率性の観点から意義を持つ可能性がある。しかし、現実的にもまた理論的にも企業立地政策には限界があることが示されており、より有効な地域政策が求められている。

つまり、具体的に言うと、地域にとっては外生的な移転政策よりもむしろ、首都圏と地方圏の間での比較優位性のやりとりによる内生的な格差解決策が望ましいということになる。その1つとして、近年の二酸化炭素削減を目指した環境政策は、結果的に地域格差の内生的な解消をもたらす可能性を秘めている。環境資源賦存において、地方圏は首都圏よりも比較優位にあるからである。

2.2 環境財取引で是正

地域資源には、自然資源や人的資源などがある。地方が大都市圏に対して比較優位なものは、当然のことながら森林資源、水産資源、土地資源といった自然資源である。こういった比較優位な資源を活用することで大都市圏との格差を縮小することができる。

たとえば、森林資源の豊富な地方では二酸化炭素の吸収源という資源を持っている。また、バイオマスを使ったエネルギーを生産できる環境にもある。しかしながら、地方圏で産業振興をしようとしても、しばしば民間資金が不足がちであり、また収益性のある投資機会も少ない。したがって、たとえ域外マネーが入ってきても十分に循環されずに域外に還流してしまうことが多い。それは多くの地方圏で投資不足の結果、貯蓄超過となっている状況からも明らかである。他方、大都市では域際収支は黒字で、かつ投資機会はあるものの、企業集積とそのオフィス活動から排出される大量の二酸化炭素を、活動水準を維持しつつ大きく削減することは容易ではない。こういった場合に、大都市は地方から排出権を購入することによって削減目標を実現可能なものとし、また地方は豊富な自然資源を背景に排出権を売却する(すなわち資源を暗に移出する)ことによって資金を獲得できる。これは、地方が地域の資源を生かした他力依存ではない内生的な格差是正といえよう。

基本的な考え方は、資金はあるが単独ではCO₂削減が経済力とのトレードオフ(二律背反)で困難な大都市圏(特に東京や大阪)と環境資源(特に森林資源)の豊かな地方圏との間でCO₂排出権の取引を実施することにある。

地方圏の多くは移出に対して移入が超過しているといった域際収支が赤字の状態であり、その赤字分を公的な支出で賄っているのが現状である。そこで、地方圏に域外マネーを呼び込むために、大都市圏における資金を地方圏に投資して温暖化対策のプロジェクトを実施する。この資金というのが環境クレジットからの収入なのである。

地方圏では設定された削減目標以上のCO₂を吸収できる分、排出権として大都市圏に環境クレジットの形で売却する、つまり大都市圏がクレジットを購入する。

当該プロジェクトを実施しなかった場合と比較して、追加的な排出削減があった場合、その排出削減量に対してさらにクレジットを発行する。このプロジェクトの実施によって得られたCER(温室ガス排出権)を大都市圏の排出削減目標達成に用いることができる。国内版CDM(クリーン開発メカニズム)である。これによって、地方に所得が大都市圏から流入する。他方、大都市圏は排出権を購入することで経済活動水準を維持できる。

例えば、中期目標をCO₂の20%削減として、省エネや再生可能エネで15%程度を達成すると仮定した場合、大阪・兵庫といった大都市(CO₂吸収量1%前後)は、吸収量を上乗せしても、15%+1%=16%で20%には届かないが、島根や高知(CO₂吸収量15%程度)は、15%+15%=30%で目標を10%上回るのという状況になり、各地域の過不足分を地域間で取引するというようなストーリーが考えられよう。さらに、木質ペレットや太陽パネル等、地方の地場産業により生産されたCO₂削減財に対して経済的インセンティブ(減税、助成等)を与え、地方から大都市へのCO₂削減財の流れを活性化することも考えられる。

もちろん課題もある。東京のように大量のCO₂を削減すべきところに対して、一地方(単一の県)で対応できるものではない。中国山地や四国山地といったCO₂吸収源である山林資源を広域に活用して意味をなすので、複数県にまたがる広域連携の施策となる。これは、しばしば財政面に偏っている道州制のメリットとしても挙げられよう。排出権クレジットの価格をどのように設定するのか、あるいは市場メカニズムゆだねるか、という問題もある。

このような大都市と地方との間での内生的な格差是正のイメージを描いたのが図3である。

図3:環境財取引による内生的な地域間格差の是正イメージ
図3:環境財取引による内生的な地域間格差の是正イメージ
2.3 地域循環の重要性

重要なことは、地方は得られたマネーを域内で循環させることである。循環という言葉には、資源循環という環境の側面に加えて地域経済における資金循環の意味も併せ持っている。せっかく獲得したマネーが域内を循環しないで、域外に還流していくことも少なからずある。それは域内で発生した需要を地域内で賄うことができずに域外に漏出して行くことを意味する。たとえば、域内に投資先がない場合とか、消費が域外に流出する場合、あるいは、中間投入の供給が域外に求められる場合である。

地域資源を生かした域外市場産業による域外マネーの獲得と、それを域内市場産業で循環させるのが自立的な地域経済のあるべき姿である。こういったものが域内で供給されず、域外に依存してしまうことは、地域にとってはマネーの漏出を意味する。

3. 環境投資による地域間格差是正のモデル

3.1 考え方

以下では、「地方と大都市域の間に様々な地域間格差が存在する中で、地方自らが有している環境資源を活用することで環境改善に貢献すると同時に、それが地域の経済振興に結びついて地域間所得格差の縮小に多少ともつながる」ということを実証的に示してみる。

ここでいう環境資源とは基本的に化石燃料に代替する再生エネルギー資源のことを意味し、森林伐採から出る木質廃材、風水力、地熱などを指している。また、CO₂削減に寄与する太陽熱パネル、木質チップやペレットなど木くず・廃材から製造されるバイオマス燃料は間接的にCO₂削減に寄与することから環境補助財と定義する。

こういった環境資源を活用するためは投資が必要である。そのための費用を地方自らが捻出するのか、大都市圏からの投資を呼び込むのかによって地域経済への効果は異なってくる。前者の場合は、域内で資金が循環していることを意味しており、後者は域外からのマネーを呼び込んでいることを意味している*2。風力発電など巨額の投資を必要とする場合には往々にしてそのリスク評価の面から、地方の資金が投資されるよりも、大都市圏のメガバンク系の資金が投入されることになる。このような場合、地方にとってみれば、収益が大都市圏に還流してしまうことになるが、地域のもつ技術水準から大都市部の企業の援助を必要とする場合は国内CDM的な手法に結びつくことになる。投資によって生み出された環境補助財でCO₂を削減して、それを排出権クレジットとして大都市圏に販売すれば、それは正に国内版のCDMということになる。

地方にとっては、地域の環境資源を使ってCO₂を削減し、その削減分をクレジットとして大都市の企業に販売することで域外マネーを獲得することができるのである。また環境補助財を生産して、それを域外に出荷する(移出する)ことでの域外マネーの獲得や自地域内でそれを利用することで石油資源からの移入代替を生み出し、所得循環効果を生み出すこともできるのである。

このような経済活動の効果をとらえるに当たって、我々は3つの地域範囲を考える。1つ目は中国・四国、近畿といった広域ブロック単位、2つ目は都道府県単位、そしてより細かな市町村単位である。その理由は、次のように示される。

広域ブロック単位でとらえる理由としては、環境資源はしばしば県や市町村の境界をまたいでいること、そして大都市圏のCO₂削減には単独の地方自治体では限界があることから、広域連携の形として大都市圏とのやりとりを考える必要があげられる。しかしながら、多くの環境資源というものは地域的に偏在していることから広域的な観点では、地方経済、言い換えると県や市町村の経済といったスケールで効果を把握しにくいことがあげられる*3。そういった理由で、環境投資の効果を県レベルと市町村レベルの2つの範囲でとらえることにする。

我々のとるアプローチは地域(間)産業連関表によるモデル分析である。産業連関分析は、基本的には需要側に力点を置いたアプローチである。中期的に見れば供給能力も変化するであろうし、価格変化も生じるであろう*4。そういった意味では、計量経済モデルもしくはCGEモデルとリンクする必要が出てくる。しかしながら、環境投資の最大の効果は、地域の産業連関構造を変革することにあると考えている。これまで経済波及効果分析といえば産業連関モデルの適用であったが、いくら公共事業や企業誘致を実施しても地域の産業間の連関構造、移入構造が変わらないような状況では、地域経済は浮揚しないのである。そもそも構造自体に問題があるからである。このような視点に立脚した分析は我々の知る限り見当たらない。そこで我々は、環境投資によって地域の産業連関構造が変わるものとして産業連関表を作成し、またそのような政策シミュレーションを実施するのである。

3.2 環境投資の地域経済効果

地方部の中小企業や自治体等がCO₂削減や吸収のための環境対策(いわゆる環境投資)を実施する訳だが、それらもたらす地域経済への効果には次の4点が考えられる。

そもそも環境対策には民間設備投資あるいは公的支出が伴うことから、それら投資に対する乗数効果が生み出されることになるが、それに加えて地域経済にとって持続的な効果として考えられるのは、次の3点である。

まず、エネルギー代替による域内循環効果である。例えば、木材バイオマス燃料を暖房用燃料として使う場合を考える。図4に示すように、ガソリンスタンドで灯油を購入すると、これはそもそも輸移入品であることから、購入金額のうちガソリンスタンド等での付加価値部分以外は所得の域外流出となるが、バイオマス燃料の場合は域内循環型のエネルギーであるためその購入額が域内所得として循環することになる。また、バイオマス利用のために必要となった原材料・サービス等の購入は、それが域内で調達されたものであれば調達先産業の売上高増加や雇用増をもたらすことになる。すなわち、環境対策実施に伴い化石燃料が自然エネルギーに代替され、石油製品などの移入減少により域外に流出していた所得が地域内にとどまるため域内所得が増加する効果である(循環効果もしくは代替効果)。

図4:域内循環効果
図4:域内循環効果

2番目は、生産費用効果である。環境対策実施に伴いエネルギー消費量全体が削減(省エネ)になる場合は、省エネ分のエネルギーコストが削減されるため、供給費用の低下や実質的に域内所得が増加することにつながる。

3番目は、移出効果である。図5に示すように、木質バイオマス燃料を域外に販売することで域外からマネーを獲得することになる。これは当該地域にとっては新たな移出産業を意味し、当該財の移出需要は地域所得を増加させることにつながる。あるいは、環境対策実施に伴い発生するCO₂クレジットを取得し、それを都市部の大企業や自治体にCO₂クレジットとして売却することで域外マネーを獲得することができる効果である。

図5:移出効果
図5:移出効果
3.3 地域産業連関モデル

まず地方部において、地域資源を活用して木質バイオマス等の環境補助財を生産する「環境産業部門」を想定する。具体的には、木質バイオマス(チップ、ペレット)燃料の製造事業者等を考える。

次に、環境産業部門から生産された環境補助財を需要することによりCO₂削減対策を実施する事業者、例えば、木質バイオマス燃料を栽培施設で利用する農業者等が考えられる。このような環境補助財需要する事業者は各産業において想定される。

この際、環境補助財の活用に伴い「CO₂クレジット」が創出される。このCO₂クレジットは、環境補助財を需要する事業者が本来生産する財とは別の「新たなサービス財」として捉えることができる。このように捉えると、CO₂クレジットを創出する活動については、産業連関表のルール(アクティビティ・ベースの原則)に従い、独立部門として取り扱うことが必要となる。そのため新たな独立部門として「CO₂削減クレジット創出部門」を想定する。以上より生産されるクレジットは、「CO₂削減クレジット」となる。

CO₂クレジット創出部門で産出された「CO₂削減・吸収クレジット」は、公的に認められるためには、その生産過程や算定方法が妥当かどうかの検証を受ける必要がある。そのためCO₂クレジット創出部門は、CO₂クレジットを創出するために、国等から認定された第3者機関から認証を受ける。またクレジット創出におけるCO₂排出量算定や申請書類作成、あるいは売却先の確保といった各種支援を実施するオフセット・プロバイダー等のようなサービスも考えられる。このようなサービスを提供する部門を「CO₂クレジット認証・サービス部門」として想定する。

上記より創出されたCO₂削減・吸収クレジットは、国等の公的な認証・登録システムを通じて、域外の都市部に売却(移出)される。これにより域外から資金が流入し、地域活性化や格差是正に資することとなる。

まず、環境産業部門(A)については、域内の各産業(i=1,…,n)から原材料・サービス(xiA)を投入し環境補助財を生産する。また、そこでの生産物は、各産業(i=1,…,n)で需要(xAi)される。

次にCO₂削減クレジット創出部門(B)の削減クレジットに関しては、CO₂クレジットサービス部門からの検証サービスの投入(xCB)によって削減クレジットを創り出し、それを域外に移出(販売)することになる。このときのCO₂削減クレジットの創出量(=移出量)は、木質バイオマス燃料の各産業への投入額の総和、すなわちΣixAiに比例すると考えると、両者をつなぐ媒介係数(k)を改めて定義することが必要となる。クレジットの移出額をEBとすると、媒介係数はk=EB/ΣixAiと定義される。

最後にCO₂クレジット認証サービス【部門C】については、おもに第3次産業からのサービスを投入し、先にあげたクレジット創出部門へサービスx3C提供する。

4. 環境投資・取引による格差是正シミュレーション分析

4.1 分析手順

まず、現状の生産額での分析をおこなう。そこにおいて、中四国地域における木質燃料の生産と域外への移出などによって、どの程度波及効果が生じているかを検証する(ケース(1))。次に、中四国地域における木質バイオマス燃料の生産額が2倍になった場合、その増加分が中四国地域から大阪府への移出の増分として取り扱う場合(ケース(2))、そして、ケース(3)として、生産額の増分は従来の需要配分で、木質バイオマス燃料の域内需要増加でのCO₂削減がクレジットとして大阪府に販売された場合を想定する。

なお、産業連関モデルは基本的には需要主導型であるので、実際のシミュレーションでは、生産増加相当額を(ケース(2))と、生産額の増分の14%相当(現状と同程度)を大阪府から中四国への移出需要として外生的に与え、残りの86%相当額を中四国の最終需要額として与える場合(ケース(3))として分析する。

そこにおいて、中四国から大阪府への移出割合が変化することから大阪府の地域別移入係数(地域内モデルだと移入係数)も変わることになる。また需要地域においては、各産業の石油製品利用が木質燃料に置き換わるという代替が生まれることになる。これに関しては、RAS調整済表をベースに、各産業の石油製品利用額に応じて中四国からの木質燃料生産額を割り振り、各分析ケースの産業連関表を作成することになる。上記の結果、大阪府の各産業において、四国地域からの投入係数(移入係数)が、木質燃料および石油製品について変化する。このように再推計された各地域間連関表において、各ケースの追加需要分を与えて波及効果を計算する。

表1:産業連関表での環境部門の取り扱い
表1:産業連関表での環境部門の取り扱い

具体的に述べると、まず大阪府で木質チップ燃料の需要量が増加し、それを中四国からの移入として賄う場合は、
(1)木質チップ燃料の需要増加に伴い、燃料として代替される石油製品の産出額が減少し、各地域・各産業の移入係数・投入係数が変化する。
(2)各地域における経済波及効果を算定し格差是正効果を分析するが、その際、自給率については、木質チップ燃料はすべて地域内生産であるため「1」とする。また、木質チップ燃料は、すべて中間需要となることになる。
(3)ここで生産された木質チップ燃料を需要するためには生産地から需要地への運搬に伴う運輸サービス及び需要者への商業サービスが想定されることから、これらのサービス需要も考慮する。具体的には中四国の運輸サービス部門、及び大阪府の商業サービス部門に需要が与えられるものとする(図7)。ここでは木質チップの生産者価格率(0.8)、運輸マージン率(0.1)、商業マージン率(0.1)と想定する(図6)。
(4)また生産増加に伴い石油製品から木質チップに代替することによるCO₂削減効果を算定する。

図6:運輸・商業サービス部門の役割①
図6:運輸・商業サービス部門の役割①
図7:運輸・商業サービス部門の役割②
図7:運輸・商業サービス部門の役割②

次に生産額の増分の14%相当(現状と同程度)を中四国から大阪府の移出とし、残りの86%相当額を中四国の最終需要額として与える場合は、
(1)中四国で想定する木質チップ燃料生産量増加分のうち、84%が大阪府からの移出需要であり、残りの16%が中四国での需要とする場合。
(2)上の場合と同様に、木質チップの生産・需要量の増加に伴い燃料として代替される石油製品の産出額が減少し各地域・各産業の移入係数・投入係数が変化する。
(3)各地域における経済波及効果を算定し格差是正効果を分析するが、その際、上記同様、木質チップ需要に係る運輸・商業サービス需要も考慮する。具体的には中四国の運輸サービス部門、及び中四国及び大阪府の商業サービス部門に需要が与えられるものとする(図7)。ここで、中四国→大阪府の場合、木質チップの生産者価格率(0.8)、運輸マージン率(0.1)、商業マージン率(0.1)、中四国→中四国の場合、生産者価格率(0.85)、運輸マージン率(0.05)、商業マージン率(0.1)と想定する。
(4)併せて、中四国において木質チップが需要され、これが石油製品に代替されることにより、域外流出から域内循環に転換した額として、域内(中四国)で木質チップが需要されたことによる石油製品の消費減少額を算定する。

4.2 分析手順

表2では、3つのシミュレーションの具体的な条件設定値を表に示したものである。(1)が現状の需要額を表したもので、中四国から大阪府への移出需要として29百万円、中四国での域内需要として3,040百万円をそれぞれ与えたものである。(2)は生産額が現状の2.0倍となり、その増加分は中四国から大阪府への移出需要の増加となるとした場合である。そして、(3)は中四国地域における木質バイオマス燃料の需要に伴いCO₂削減クレジットが創出され、その創出されたクレジットがすべて域外(大阪府)に販売(移出)されるとした場合である。具体的には、中四国地域の木質バイオマス燃料の生産額が現状の2.0倍となり、その増加分は、現状の地域別需要割合で増加することを再現した地域間産連表にクレジット部門を組み込んだ地域間産業連関表を用いることになる。CO₂削減クレジットについては、(3)のケースでの中四国での木質バイオマス燃料使用に由来するクレジット創出額(12,455百万円)を需要として与える(表3を参照)。

表2:地域別木質バイオマス燃料の需要額
表2:地域別木質バイオマス燃料の需要額
表3:CO₂削減クレジット創出額
表3:CO₂削減クレジット創出額

なお、ここでのCO₂削減量は、木質チップ燃料生産及び需要増加に伴って生じる石油消費の減少という代替効果に伴うCO₂削減量としてとらえることができる。これは、中四国地域で98.7万トン、大阪府で1万トンと推計される。

このように与えた結果、どの様な波及効果が生まれるかについて示したものが表4である。中四国地域の行動によるものなので、そこを中心に見ていく。ケース(1)は現状の効果分析であり、これと木質バイオマス燃料の生産額が倍増してそれがそのまま大阪府への移出となったケース(2)と比較すると、経済効果はほぼ2倍になっていることがわかる。しかしながら、生産増加分が直接域外への移出にではなく、地域内で循環利用され、その結果、削減CO₂に対応したクレジットが発生し、さらにそれが大阪府に販売されたとするケース(3)の場合と比較すると、生産額で4.56倍、から雇用者所得で5.24倍、そして付加価値額で5.59倍と大きな経済効果をもたらすことがわかる。

表4:波及効果(百万円/年)
表4:波及効果(百万円/年)

誘発される付加価値額の20,289百万円は、中四国全体の付加価値額の0.052%程度に過ぎない。しかしながら、木質バイオマスの生産の大半部分は非都市部でなされており、多くの二次産業や三次産業の生産は都市部でなされている。そこで、仮に総生産額の80%が都市部で生み出されているとすれば、非都市部においては0.26%の生産額を押し上げる効果を示すことが予想される。

雇用者数は、2006年の事業所・企業統計調査(総務省)から、中四国全体で4,447,274人であるので、雇用者所得1人当たりでは2,019円の増加となる。2006年度の中四国地域における雇用者所得が雇用者1人当たり約480万円であることを考えると、これは0.04%に相当する。

3.1節において環境投資の地域経済効果を3つに分類したが、図8はケース(3)のクレジット販売を考えた場合の中四国地方における循環効果と移出効果を示したものである。直接効果が間接効果の1.5倍から1.7倍程度となっている。循環効果は、木質バイオマス燃料の域内消費による効果、裏を返せば石油エネルギーからの移入代替効果とも言える。これによって達成された二酸化炭素の削減に応じたクレジットが創出され、それを域外に販売することで移出効果が生まれているのである。図において、循環効果よりも移出効果がかなり大きい理由には、クレジット販売が含まれているからである。

図8:経済効果の分類
図8:経済効果の分類

5. 政策的な含意

最後に、本研究結果からえられる政策的含意を2つ示してみたい。

まず第1点目として、「クレジット関連産業を地域産業として育成・支援する政策・制度を構築する」ということが挙げられる。

環境省では、オフセット・クレジット(J-VER)制度を創出し、その普及に努めているところである。本年度の当研究では、これまでの地域における環境対策(CO₂削減策)の実施における経済効果に加え、クレジット制度を活用することによる効果を把握できるようにこれまでの産業連関モデルに新たに組み込んだことで、地域経済への波及効果が大きく増加することを示した。このことは、従来モデル化も分析もなされておらず研究面での大きな進展を意味しているが、それと同時に、政策面でも、今後同制度を各地域で積極的に活用していくことで地方部の活性化や格差是正に貢献できる可能性を示唆していると言えよう。

そして、このような経済効果が具現化するためには、クレジット制度を活用していくとともに、クレジット関連サービス(検証、プロバイダー等)を地域で育てることが重要であり、今後、地域でクレジット制度を活用していくための関連制度設計や国の支援が必要となることも示唆している。実際に、高知県では、地域でのクレジット関連産業・人材の育成を課題として捉え、さまざまな取り組みを実施している状況であり、このような動きと連携した政策が重要である。

2点目としては、「地域環境資源活用した環境関連産業育成の意義を普及啓発することの必要性」が挙げられよう。本研究では、地域の環境資源(特に、木質チップやペレットなど森林バイオマス)を活用した場合の地域への経済波及効果(域内需要による効果、移出による効果、クレジット活用による効果等)や地域間格差の是正効果等を推計した。そこから得られた知見は、地域の環境資源を活用した政策が一定の地域経済効果を生むことを示唆している。

このことから、そのような環境産業を育成することの意義を積極的に自治体等に対して普及啓発させて行くことが重要であると言えよう。

そして、3点目としては、「地域資源活用型のモデル事業を契機とした大都市・地方の連携を推進すること」である。本研究の経済分析では、地域の環境資源をエネルギー資源となる環境補助財(木質バイオマス燃料等)として供給し、その需要地を域外に求めることで、地域に一定の経済効果がもたらせることを示した。他方、先進事例調査からは、地方部において地域の行動主体を巻き込みながら集中的なモデル地区を形成すること等を通じて、地域資源を活用し地域を活性化する取組を実現しようとする動向が確認された。環境省等の政策では、低炭素地域づくりを目標とした各種のモデル事業が実施されてきたが、このようなモデル事業への取組の一環として、対象地域のみで完結する取組だけでなく、都市部等との連携により経済効果が地域に還元する対策を取組メニュー1つとして位置づけ、推進していくことが重要となる。

「季刊・環境研究」161号(日立環境財団)に掲載

脚注

  1. 本稿は、平成21年度から開始した環境省の公募研究「環境経済の政策研究」における『環境・地域経済両立型の内生的地域格差是正と地域雇用創出、その施策実施に関する研究』の成果の一部をとりまとめた物である。研究は現在も進行中であり、分析結果の数値は必ずしも確定的なものではないことをお断わりする。
  2. より直接的に言えば、地方の金融機関が融資するか、大都市圏の金融機関がファイナンスするか、という違いである。
  3. たとえば、(1人あたりの)県民所得や市町村民所得がどの程度変化したかとか、付加価値乗数効果がどの程度生じたかなど。
  4. また、価格変化といったことは(小)地域分析とっては所与と考えられる。

参考文献

  • 中村良平・森田学(2008)「持続可能な地域経済システムの構築 倉敷市における調査に基づいた経済構造分析」RIETI Policy Discussion Paper Series 08-P-011。
  • 中村良平・他(2008)「循環型社会における地域経済活性化の効果−真庭市におけるバイオマス事業」環境経済・政策学会、2008年9月27−28日大阪大学。
  • 中澤純治(2002)「市町村産業連関表の作成とその問題点」『政策科学』第9 巻第2号、pp. 113-125。
  • 三重県政策部統計室(2010)『平成17年(2005年)三重県産業連関表による分析事例集−産業連関分析の手引き−』

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