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RIETI特別講演会

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結論

これまで述べてきた課題は、これから何年も続くことでしょう。地域の安定性に影響を与えるその他の展開も見られることでしょう。したがって、我々は、そのような課題に取り組むための長期的展望を持つ必要があります。東アジアは、地域内に平和を確保できるような枠組みを作っていくべきです。

そのような枠組みのひとつとして、東アジア自由貿易地域(EAFTA)というものを考えることができます。EAFTAは、東アジアの各国経済を網の目状にからませるための実際的かつ現実的な方法です。東アジア経済に相互依存関係が存在し、相互に絡み合っているならば、各国経済は共通の未来を持つことになります。この未来を共有するという感覚、一蓮托生の感覚があれば、東アジア諸国同士の衝突を回避するのに役立つでしょう。

EAFTAは直ちに実現されるというものではありません。これは中期的目標であって、現在日本がタイ及びフィリピンと議論中のFTAやASEAN、中国及び日本を当事国とする域内FTAといったような現在交渉途上の二国間FTAの基礎の上に積み上げられていくべきものです。EAFTAには、「1つの中国」の原則の下で台湾を含むことができますし、北朝鮮ですら、もし同国が対外開放を決定するならば、参加することもあり得るでしょう。

EAFTAを達成するために投入される年月と努力は、東アジア各国経済に理解と信頼を築き上げることでしょう。このことは、自由貿易地域内の相互連関関係がもたらす現実の利益と相まって、将来の紛争が制御不可能になる事態を防ぎます。仮に深刻な紛争が起こったとしても、それらに対処するために、既に出来上がった連絡網及びメカニズムが存在するということになります。

ここでは、欧州の経験から教訓を得ることができます。欧州は多くの戦禍に苦しめられました。その最後の2つが前世紀における2度の世界大戦だったわけです。これらの戦禍が欧州共同体結成の背後にある主たる動機のひとつだったのです。それは次のような考え方に基づいていました。もし欧州諸国が同盟を結んで共通の利益のために協働するならば、そして彼らの運命が分離できないほど強い絆で結びつけられているならば、このことは同盟諸国間の戦争を防止するだろうということです。

欧州は成功しました。過去半世紀にわたり、伝統的に敵対してきた諸国間の戦争はありませんでした。今後もそのような事態は起きそうにありません。EUの構想はあまりにも強力なので、今や新規加盟を求める国が門前に列をなしているという状態です。EUの拡大は、経済的繁栄のためだけのものではありません。それは、欧州における平和と調和の地域の拡大を目指すものです。

これと同様に、域内の戦禍にさいなまれてきた東アジアにおいても、長期的な目標として東アジア共同体を目指すためのビジョンと勇気と智恵を持つべきです。

EAFTAはこれをもたらす道具となり得ます。この構想は、過去のASEANプラス3首脳会議で取り上げられたことがあります。しかし、更なる後押しが必要です。ASEANプラス3は、東アジアにおける協力のための分野を特定し、推進することにより、事態を動かしていかなければなりません。我々はEAFTAに生命を吹き込んで、今から50年経った後、地政学的状況が変わったとしても、東アジアに住む我々が依然として平和と調和と繁栄の中に生きていることを確保しなければなりません。

シンガポールは、世界秩序の組み替えについてほとんど発言力がありません。他方、日本は明らかにここ東アジアでの事態の展開に影響力を行使することができます。両国が手を携えて、それぞれの国益と共通の利益のために地域の統合を更に深めるべくイニシャティブを発揮していこうではありませんか。

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