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RIETI特別講演会

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インドネシアにおける政治的断絶

東南アジア全域にわたり、顕著な政治的・経済的変化が起きており、このことが挑戦すべき重大な課題を生んでいます。9/11とイラク戦争により、この中でも最も複雑な変化に注意が向けられるようになってきました。それは、イスラムの政治的問題です。

東南アジアのイスラム教は、伝統的には土着信仰と混合した穏健なものでした。この地域の政府は宗教的ではなく、政教分離を貫いてきました。しかし、グローバリゼーションの結果、イスラム教の影響、特に南アジア及び中東方面からの影響が強まりました。この地域全体を通じ、宗教性の高まりが今や顕著になっています。

このイスラムの政治的挑戦の中で最も重要な課題となるのが世界最大のイスラム人口をかかえるインドネシアです。大多数のインドネシア人イスラム教徒は穏健派です。彼らは、強烈な信仰心を持ち、質素な生活を送る中東のワッハーブ派とは異なるというのが従来の常識でした。

しかし、こうした穏健なイスラムという事態は、インドネシアをイスラム宗教国家に改造しようとしている過激派集団の存在に脅かされており、この集団の規模は大きくなるばかりです。

このような状況は、スハルト氏が大統領を退任してから始まりました。同氏が30年以上にわたって厳格に統制してきた政治システムが崩壊し、インドネシアには政治的断絶がもたらされました。この結果、イスラム教を政治体制の中心に据えたい、更にはインドネシア国家の基礎としたいと考える集団に対し、権力の門戸が開放されたのです。最新の総選挙の結果を見ると、宗教的政党の得票率は20%に満たないものでしたが、彼らが政治システムの中で有する影響力には、この数字が示す以上のものがあり、時間とともに更に増大していくかもしれません。実際問題として、個々人の信仰がどうであるにせよ、2004年の総選挙に向けて野心をいだく多くのインドネシア人政治家は、イスラム集団からの支持を取り付けようと奔走しています。

メガワティ大統領も同じように考えているに違いありません。もちろん彼女は政教分離の重要性を確信しており、宗教ではなくナショナリズムに基づいた多元主義的なインドネシアという体制を堅持しようと考えているとは思いますが。

メガワティ大統領は、イスラム政党が彼女をどう思っているかについて決して幻想を抱いていません。彼女は、1999年、彼女の率いる政党が自由な選挙において最大の得票率を獲得したにもかかわらず、イスラム政党の連合体が彼女の大統領就任を拒否したことを忘れてはいません。このため、彼女は過激派イスラムがインドネシアにもたらす危険を熟知してはいながら、イスラム教戦士に対して行動をとらなければならないときには、慎重に事を運ばざるを得ないのです。

実際インドネシアは、テロに対する戦いの初期には受動的な役割しか果たしませんでした。何人かの政治家は、国内にテロリストが存在すること自体を否定していました。彼らが問題の存在を認め、政府がテロリスト対策をとるようになるまでには、2002年10月のバリ島爆弾事件という悲劇が必要でした。

私は、メガワティ大統領はインドネシアのテロとの戦いに真剣に取り組んでいると思います。

しかし、インドネシアの国家体制が過激派イスラムに傾斜するならば、テロリストは、そこに同情的な環境を見出すことになるでしょう。

このことは、アジアにとって過酷な結果をもたらします。過激なイスラム国家となったインドネシアが太平洋とインド洋をつなぐ戦略的シーレーンのすぐ横に存在しているという事態は、日本を含む多くの国に重大な影響をもたらします。

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