これに対し、Marc GOERGEN(シェフィールド大学教授)から以下の回答がなされた。
- 日本人の投資家から資金を株式市場に回すには、無理に資金を引き出させて株を買わせるのではなく、デフレ傾向のマクロ環境を変えることが必要だ。ミクロレベルでは、たとえば銀行で株を買えるようにする等、家計が株に投資しやすくすることでリスク資産を保有することを魅力的にする必要がある。
続いて、会場から日下部聡 前経済産業省経済産業政策局産業組織課長に対して以下の質問がなされた。
- 全部買取義務を導入しなかったのは、部分的にしか買収しなくてもよい意図を持っている買収候補に配慮したためとのことだが、これまでのエビデンスを見る限り、その配慮が不必要なグリーンメーラーを寄せ付けた結果になっているのではないか?
- 実際問題として、敵対的でしかも十数パーセントしか取得しないケースでは、最終的に成功しないし、いろんな形でベネフィットを得てExitされてしまう形になっているのではないか? また、全部買取義務がなければ、100%取得してもいいと思っている自信のある買収者が、それを裁判で証明する必要が出てくるが、それはコストではないか?
これに対し、日下部聡 前経済産業省経済産業政策局産業組織課長から以下の回答がなされた。
- 全部買付義務のメリットとデメリットについては、議論が分かれるだろう。部分買付を容認するシステムの下では、グリーンメーラーや強圧的な2段階買収を容易にするという点が指摘される。一方、全部買付義務というのは、TOBが友好的であろうと敵対的であろうと、一律に課されるルールになっているようだ。ただし、部分提携を可能にするさまざまな制度もあり、友好的な部分買収に関するルールメイクについて理解が足りない部分もある。
- 全部買付義務なら全てまともな買収提案なのかということについては議論があるだろう。全部買付義務について、友好的な部分買収に対するデメリット、それから全部買付義務であっても必ずしも当初の提案がその企業の企業価値を反映していない可能性があるという論点の2点について、今のところまだ決着がついていない。
続いて、会場からPaul SHEARD(リーマンブラザーズ証券会社マネージング・ディレクター、チーフエコノミスト・アジア)に対して以下の質問がなされた。
- 企業金融統治改革のプロセスは未完であり、まだ40%から50%の段階だと仰られたが、主にどんな種類の改革がこれから起こるのか?
これに対し、Paul SHEARD(リーマンブラザーズ証券会社マネージング・ディレクター、チーフエコノミスト・アジア)から以下の回答がなされた。
- 起こされるべきは、更なる制度上の、あるいは規制上の変化ではなく、むしろ制度の進化だ。コーポレートガバナンス・システムは単なるルールや制度ではなく、もっと規範に関するものだ。重要なことは、日本のシステムが旧来のユニークな特性を持つシステムから、アングロ・アメリカン・システムの要素を持つようなシステムへと進む歴史的転換を迎える中で、我々はそのプロセスの比較的前段階にいるということだ。
- 10年後か、15年後か、20年後かには大きく異なった所有構造を見るだろう。現在、外国人株主は株式の23%を所有するが、投資信託はわずか4%、年金基金や年金信託も4、5%に過ぎない。これらの数字は、10年後、あるいは20年後にはもっと大きくなっているだろう。よって、システムの中で働く力は現在とは異なる次元に達する可能性があり、企業統治も今日我々が目にしているものとはかなり異なったものになるだろう。
これに対し、Marc GOERGEN(シェフィールド大学教授)から以下の回答がなされた。
- 学術的研究の大多数は、M&Aがターゲットのシェアホルダーに対して非常によいニュースであるということで合意している。ターゲットのシェアホルダーは通常、M&Aの取引で非常に高額なプレミアムを得ている。特に、ブロックホルダーと少数株主を同等に扱う国ではそうだ。一方、買い手側の株主は、良くて損得なし、しばしば大きな損失を被っている。我々は、M&Aの役割について、この種の取引を促進すべきか否かについて、多くの議論をしてきた。
続いて、日下部聡(前経済産業省経済産業政策局産業組織課長)から以下の回答がなされた。
- まず、経営者の問題意識が10年前に比べてかなり変わってきている。ライブドアとニッポン放送の買収劇が行われた後、日経新聞が会社は誰のものかという質問を機関投資家と日本の経営者に行った際に、日本の経営者の100%が株主のものだと答えたのが象徴的だ。
- 次に、日本の株主総会はかなりの程度活性化するだろう。今年の株主総会において、買収防衛の効果がある議案について、日本の機関投資家が具体的なボイスを出し始めている。
- さらに、日本経済全体を見渡すと、株式市場を活性化して時価総額を上げていかないと経済全体が回っていかないという事実がある。少子高齢化の具体的な処方箋として、株式市場が活性化し、株主価値が上がり、年金資産が増えていくというルートが非常に重要だ。
- 以上を総合的に勘案すると、今後も株主重視型の議論が強くなると予想される。ただし、その反面で、株主以外で会社の価値の創出にコミットしている取引先や従業員などのステークホルダーも見直されるだろう。
次に、興津誠(帝人株式会社代表取締役会長)から以下の回答がなされた。
- 株主重視ということは、経営者もみんなわかっている。ただし、前回の株主総会のように防衛策に近いことは全て反対するような、株主100%といったスタンスには疑問を持っている。したがって、他のステークホルダーとのバランスを考えていかざるを得ないと思う。