第3回:朝鮮半島に広がる中国のパワー
―イラク戦争以後の朝鮮半島。北朝鮮の核開発問題に、積極的な姿勢を見せる中国外交ー

はじめに

中国はすでに、政治、経済、社会、文化などあらゆる分野で、朝鮮半島を自分の影響圏に置いている。50年間続いた米韓同盟関係が突如崩壊しそうな危機に直面している状況とは対照的に、朝鮮戦争の時、敵対関係にあった中国に対しては、腰を低くして紐帯関係を強調するのが今の韓国だ。
盧武鉉政権が始動してから、政治圏の実力者はおしなべてワシントンより北京を先に訪問することが自然な雰囲気として定着している。北京を訪問した韓国政府関係者は例外なしに、中国政府に朝鮮半島安保問題をより積極的に仲裁してほしいと要請している。親日や親米が持つ否定的な意味合いとは違って、親中という表現は、民族主義的であり、主体的に感じるというのが、今の韓国の若者達の捉え方だ。このような友好的状況の中で、中国は果して核をめぐる朝鮮半島の危機的状況をどのように見ているのか?
悪の枢軸として全世界のメディアから注目される血盟、北朝鮮をどんな風にとらえているのか? また、仲裁を要請する韓国に対しては、どんな返事をしているのか? 韓国、北朝鮮が位置する朝鮮半島全体に、アメリカ以上の影響力を発揮し始めた、21世紀始めの、中国の対朝鮮半島政策について論じよう。

北朝鮮は押せば押すほど反撥する集団として知られている

「イラク戦争が終決した瞬間、朝鮮半島問題に対する中国の役目は目立つようになる。中国指導部は金正日の核脅威についての、アメリカの忍耐が極限に達しているという事実をよく分かっている」
これは去る3月末、ワシントンを訪問した際に面会したブッシュ政権の中国専門家の分析である。ヘリテージ財団研究員出身で、現在ブッシュ政権で働く氏は「中国は、すでにワシントンに(北朝鮮の核問題に対して)協力できるという意思表示を多くの経路を通し明らかにした」と語った。その話は「中国の大慶から北朝鮮に入る送油管が2月18日以後3日間、暫定閉鎖された」という4月4日のワシントンポスト紙の報道によって裏付けされた。 中国の対北朝鮮への石油供給の中断に関する報道は、イラクの戦後処理、経済復興をどうするかなど、サダム・フセイン政権崩壊後のシナリオが重要な懸案として登場した段階で流れはじめた。

石油供給の中断に関して、中国は公式には技術的欠陷のため送油管に問題が起こったとした。しかし、中国の主張は北朝鮮の顔をつぶさないための、外交的表現に過ぎない。石油供給が事故ではなく、計画的だったと見られる理由は、北京を秘密裏に訪問した北朝鮮使節団と中国指導部との「不快な面会」から確認できる。2月末、白南淳外相と金泳南最高人民会の常任委員長は北京に出向き、朝鮮戦争当時、百万人の戦死者を出した血盟関係にある中国に重要な要請をした。内容は、近づきつつあるアメリカとの戦争に備え、自衛手段のためのレーダーと中国型スティンガーミサイルのような先端武器を北朝鮮に提供してほしい、ということだった。北朝鮮はアメリカからの攻撃に対応するには、核兵器を含むさまざまな武器開発をするしかないと、中国を説得しようとした。しかし、中国側は北朝鮮の切迫した要請について、冷たい反応を見せた。中国の基本原則である「朝鮮半島非核化」に関する中国側の立場をはっきりと伝逹した。江沢民総書記も明らかにしたが、北朝鮮は押せば押すほど反撥する集団として知られている。外交部の王毅副部長が直接伝えた中国側の憂慮と忠告は、今までの両国関係から見ると異例の出来事であった。

中国がエネルギー供給を中断する場合、6カ月以内に北朝鮮は全面麻痺

以後、中国指導部の立場は外交部だけではなく、傘下機関を通じて公式文書として具体化された。対米外交関連専門家として有名な北京大学国際政治学の朱鋒教授は、アメリカの新聞のインタビューで、北朝鮮に対する中国指導部の考えを次のように明らかにした。「私たちはこれ以上北朝鮮を(一方的に)防御することができない。北朝鮮が最終的には核武装をする可能性が高いという認識が中国指導部の間で漸増している。北朝鮮の核武装は中国に対する脅威になる」
北朝鮮に対する中国の憂慮と警告は中国外交方針を決める政策立案書である雑誌「世界知識」を通じても現われた。世界知識は、4人の著名な外交政策関連研究員よる去る3月16日付けの論文で、「北朝鮮問題はイラク戦争以後、すぐ起きる問題であり、ブッシュ政権は金正日を交渉相手としてではなく、打倒する対象としてとらえている」と分析した。この論文は、北朝鮮の核カードは中国にも致命的な結果をもたらし、アメリカが北朝鮮問題を最高の懸案として扱う以上、中国も(北朝鮮核問題解決に)積極的に乗り出さなければならないと主張した。

中国の北朝鮮に対する方針が発表された3月16日は、第10期全国人民代表大会を通じて選出された胡錦涛総書記に、ブッシュ大統領がお祝いの電話をした日でもある。ワシントンポスト紙は、電話会談で胡錦涛総書記が北朝鮮問題に対する「中国側の役割」を強調したと報道した。胡錦涛総書記が語った役目割は、北朝鮮核開発問題を解決するための「多国間交渉」について、中国指導部が遂に肯定的な返事をかえしたことを意味する。中国は従来、米朝交渉を通じて、北朝鮮核開発問題を解決することを公式的な外交方針としてきた。

北朝鮮への石油供給の中断は、米中間で成り立った外交交渉の結果である。これは北朝鮮が一貫して主張してきた米朝交渉による核開発問題の解決方式ではなく、アメリカが主張する多国間交渉という枠に金正日を押し込む、という警告に当たる。
北朝鮮は全体消費エネルギーの60%を中国から輸入している。中国は消費エネルギーの約3割を外国から輸入するエネルギー輸入国だが、血盟関係である北朝鮮に対しては殆ど無料でエネルギーを供給している。もし中国が北朝鮮に対するエネルギー供給を全面的に中断する場合、6カ月以内に北朝鮮の工場と自動車が全面麻痺すると見られている。

多国間交渉の中の二国間交渉案

胡錦涛総書記は就任後、初めて迎えた外交テストの答えとして「親米方針」に決めている。しかし中国なりの外交力を発揮し、朝鮮半島問題を一方的にワシントンの論理に任せないという独自の戦略も立てている。北朝鮮核開発問題を多国間交渉という枠組みで進行するが、米朝不可侵条約のような主要問題については、アメリカと北朝鮮が直接交渉に臨むという、いわゆる「多国間交渉という枠の中で二国間交渉案」が中国の考え方である。中国は北朝鮮が主張してきた米朝二国間交渉と、アメリカが主張して来た日本、中国、韓国、ロシアなどが参加する多国間交渉案を1つにするという「中道案」を通じて発言権を維持するつもりだ。多国間交渉の中の二国間交渉案を、韓国政府も積極的に支持する方針である。 中国がアメリカの立場を反映しながら北朝鮮への圧力を強化し始めたことは、北朝鮮核開発問題がアメリカと北朝鮮間の問題ではなく、北東アジアと世界全体の問題という次元で論議されていることを意味する。北朝鮮のNPT(核不拡散条約)脱退とIAEA(国際原子力機関)条約破棄のような問題が国際的な問題であるという点を中国政府が公式的に認めたのだ。

中国が今までの対北政策を転換し、米国よりに北朝鮮に対応する理由はイラク戦争で明らかになったアメリカの断固とした立場のためだ。ワシントンのアジア専門家たちは、去る3月17日、ブッシュ大統領がイラク戦を控えて発表した48時間の最後通牒の内容はサダム・フセインだけではなく、金正日に対する警告メッセージだと言い切る。この最後通牒メッセージは大きく見ると、三つの意味を持つ。

1)大量破壊兵器(WMD)を作る国や組職はアメリカの安定を害する敵であり、除去されなければならない。
2)サダム・フセインを含むテロリスト国家は宥和政策(Appeasement)ではなく、力で圧しなければならない。
3)アメリカはサダム・フセインのような独裁者たちが見せる恐喝と脅迫については、交渉ではなく、軍事力で正面対決する。

ブッシュ大統領の最後通牒内容は、開戦から2週間でバグダッドが米軍の影響圏に入りアメリカの圧倒的な軍事力を全世界に知らしめたことにより,一層強くなっている。サダム・フセインの共和国防衛隊が潰滅状況に陥ったという点を勘案すると、ブッシュ政権は北朝鮮が国際社会での約束を守らない場合、直ちに武力攻撃を敢行する可能性が高い。
核兵器開発疑惑と共に、バイオや化学兵器を保有している北朝鮮は大量破壊兵器を輸出するテロリスト国家としての烙印も押されている。最後通牒内容を見たら、北朝鮮はもう核開発可否に関係なく、アメリカの武力攻撃リストに上がっているかのように見える。中国は、アメリカのそういった立場をよく分かっている。中国はアメリカが伝統的な友好国であるフランスやドイツの反対を押し切ってまで、イラク戦争を強行しているという事実に注目している。

チェイニー米副大統領は、ブッシュ政権では、もっとも親中派

アメリカはイラク戦争が終結した時点で北朝鮮問題を安保理に上程し、金正日の核開発意志を中断させる可能性が高い。勿論、中国は現在一貫して、安保理を通じた経済制裁方針に反対している。しかし、ブッシュ政権は北朝鮮問題が安保理に上程し、経済再生問題が懸案としてあがってくる場合、中国が北朝鮮を支持する大義名分がないと判断している。中国は本来、北朝鮮核開発問題の安保理への上程自体に反対して来た。しかし2月、北朝鮮核開発問題をIAEAから安保理次元に移した際には、中国は賛成票を投じた。

朝鮮半島をめぐる中国の役割と責任は、近く予定されているチェイニー米副大統領のアジア訪問を通じて結論が出る見込みだ。当初、4月に予定されていたチェイニー米副大統領のアジア訪問はイラク問題が切迫し、現在、暫定延期された状態にある。
よく知られているとおり、チェイニー米副大統領は9.11テロ事件以後、公式に外国を訪問していない。チェイニー米副大統領がアジアを訪問する最大の目的は北朝鮮問題を巡る中国との立場調停にある。

21世紀の共和党の理念として定着しつつある、ネオコンサーバティブ(Neo Conservative)のトップであるチェイニー米副大統領は、俗説と違い、ブッシュ政権ではもっとも親中的な立場を見せている。チェイニー米副大統領は、本来、反中国の先鋒に立っていたが、海南島事件と9.11テロ事件の以後は、180度転向し、戦略的にブッシュ政権を親中に傾かせる先陣を切った。中国指導部はブッシュ政権が中国をパートナーとする過程で、チェイニー米副大統領が主導的な役割を果たしたことをよく分かっている。アメリカは中国指導部が好感を持つチェイニー米副大統領を通じて北朝鮮核開発問題を巡る米中間の解決策を導き出す見こみだ。北朝鮮核問題が安保理を通じて経済制裁の方向に進むのか、テポドン2号の打ち上げのようなRed Lineを越えた場合どんな措置を取るか、中国の警告によって北朝鮮が交渉テーブルについた場合、どんな贈り物を提供するか・・・。その答えは,朝鮮半島問題に絡み始めた中国とチェイニー米副大統領との会談で、具体的にあらわれるだろう。