レポート:RIETI政策シンポジウム「ブロードバンド時代の制度設計II」(2003.12.04)(その7)


■周波数コモンズの拡大とCommand and Control型規制手法の将来

以上のコメントを受けて、司会の池田上席研究員がこれまでのコメントで多く出てきたタームである"Command and Control"型の周波数割り当て政策について、日本は引き続き政府主導で割り当てを行っていくというやり方、米国は少しずつ(オークションなど)マーケットの評価を入れ込んでいこうと言うアプローチ、そしてコモンズ型の無免許帯を増やしていこうという考え方の3つがあるとした上で、FCCはSPTFで明記したようにCommand and Contol型の規制を止めると本当に考えているのかについてペッパー局長に質した。

ペッパー局長はそれに対して、FCCはマーケット・アプローチの目的には無免許帯の拡大も含まれていると述べ、Wi-Fi技術が2.4Ghz帯の電子レンジが使う所謂「ごみバンド」から急発展したように、メーカーやユーザの評価による後押しは、周波数を利用する事業者を選ぶ際には周波数オークションよりも機能する場合もあると指摘し、どちらかという議論ではなく、双方が重要だと述べた。その上で、ペッパー局長は、特定の周波数帯においてはいまよりもっとしっかりしたルール設定が必要な部分があると指摘し、その例として高出力の公共用無線(例えば、高速道路の管理用途等)を挙げた。将来的には違うやり方も考えられるが、現在のところでは、これらに関してはより厳しい規制を課すしかないと述べた。すべての周波数に対してひとつのやり方は適用できないのだ。一方でペッパー局長は、無免許帯について、無免許帯は「無規制帯」ではないと指摘し、相互干渉を防ぐ技術的な基準も存在し続けなければならないのであり、ルールが無いことを意味しないと述べた。

ペッパー局長は、さらに興味深い議論を展開した。無免許帯やそれを利用するデバイス群の普及は、通信事業の形態にも大きな影響を与えているのだという。つまり、従来のISPとユーザの関係とは違う経済の構造が出現しているのだ。従来のネットワーク事業では、ネットワーク構築に掛かる多額の費用を固定費としてユーザからの料金の一部に含めるという構造であったが、例えばWi-Fiのネットワークなどは、ユーザ自身が(LAN等)構築してしまう例もザラであるほど簡単に構築できる無線を使ったISPの場合は、ユーザは固定費を抜いた利用料金を払えば良いだけになる。一方で無線LANカードやワイヤレス内蔵PC等のコンシューマー商品が主役となるWi-Fiの場合、料金設定はそれらの機器の値段に依存することになるため、従来の通信事業に係るネットワーク利用料金のカーブとは異なるカーブを描くことになるとペッパー局長は指摘した。これはネットワーク経済のあり方を根本的に変えるものであり、第一セッションの議論であった、既存の通信事業者の経営のあり方にまで波及する重要な問題であるだろうと論じた。

池田上席研究員はペッパー局長の発言を確認する意味で、Command and Controlのシステムは伝統的な部分では残っていくが、新しいバンドに積極的にそれを適用する気はないのかと質した。それに対してペッパー局長は、伝統的に100%であったCommand and Controlによる管理帯域は、現在およそ80%まで低下してきており、引き続き減少傾向を続け、もしかしたら10%,20%になるかもしれないと述べた。ただ、前述したようにCommand and Controlが不必要と言うことではなく、その全体に占める役割が減少していき、限られた特殊な用途にのみ適用されるということだと付け加えた。

レッシグ教授がこの言及に対して短くコメントを述べた。新しい技術のために割り当てられる無免許帯が比較的少ない現状はあるものの、電波の希少性という問題に与えるインパクトはきわめて大きいのだという。また、UWB(Ultra Wide Band)技術やテレビ用周波数の空きチャンネルの有効活用などにより、通信事業全体に与える影響も非常に大きなものになると指摘した。
ペッパー局長はレッシグ教授のコメントに続けて、ピッチ氏も指摘していたように、テレビの空きチャンネルの有効活用はSPTF報告書でもFCCに対して勧告を出したところだと述べた。詳しく言えば、テレビ局は大出力で電波を発振しているので、どうしても相互干渉をさけるためにガードバンド(空きチャンネル)を作る必要があり、そこをSPTFの報告書では、"Smart Radio"という技術で解決してはどうかと提案している。Smart Radioとは、無線端末が自分の所在を知覚でき、空きの周波数を自動的に探知して利用するというものである。小規模な無線端末が、たとえばフィラデルフィアのテレビ局チャンネル8のために空けてあるワシントンDCのチャンネル8の帯域を使ったとしても、フィラデルフィアのテレビ局の放送には何の支障もない。これは日本においても、東京と大阪の関係で援用できるとペッパー局長は付け加えた。この技術革新こそが、ペッパー局長に500〜700Mhz帯の周波数帯における小電力無線デバイスの活用に道を拓いたのだという。重要なのは、これらの低い周波数帯域では、小電力であっても電波は壁を乗り越えて到達するという点である。つまり、屋内における高速データ通信をより安価に提供できるワイヤレスISPの可能性を秘めているということで、これは極めて重要な意味を持つとペッパー局長は語った。

ただし、テレビの空きチャンネルの利用についてはレッシグ教授はやや懸念を表明した。もちろん、技術的側面ではなく、実際にそのような小電力局の利用を可能にする法制度の整備をする際に、アメリカにおける小電力のFM局の開設を巡る問題がそうであったように、既得権益者の強力なロビー活動によってそれが阻害されてしまうのではないかという政治的な懸念である。一方でレッシグ教授は、先ほどペッパー局長が指摘した、新しい無線ISPの可能性について再度言及しその重要性を強調した。つまり、ネットワークがユーザの手により構築されるという点である。インターネットはユーザの手によって成長し発展してきた歴史を持っているが、ユーザが必要なものをどんどん作っていったおかげで、急速な普及を遂げた、つまり施設を持つ側が主導権を握っていたとしたら、おそらくここまで急速な普及を見せなかったのではないかと指摘し、そのようなユーザによるネットワーク構築の可能性が、レッシグ教授が無免許帯を支持するもうひとつの理由だと語った。

ここまでの米国における議論を受けて、特にペッパー局長のCommand and Control型の規制手法は全体の10%か20%程度に長期的には減少していくだろうという重要な発言に関連して、日本での規制のあり方の今後について池田上席研究員が竹田部長に見解を質した。

竹田部長はこれまでに関連する議論についてまとめて回答を行った。まずレッシグ教授の最初のコメントで言及された、周波数の利用実態調査に関しての調査結果の評価・判断の基準という問題について、総務省だけが評価するのではなく、評価結果についてはオープンにその結果を問うプロセスを踏むつもりだと述べた。また、田中氏から提起された、新規性がないという批判に対して、SPTFには総務省も大変刺激を受け、しっかり研究して総務省での議論につなげていると反論し、判断は最終的に審議会と研究会という二つの活動が何を打ち出してくるかで判断して頂きたいと述べた。そして、池田上席研究員から提起された、Command and Controlの議論については、日本のシステムは軍隊用語的な「指揮・管制」から見ればまだ穏やかなので、日本の免許制度がCommand and Controlにあたるかは微妙だとしながらも、そのような部分は必ず残ると述べた。ただ、将来的にどのくらいにまで減るのかという問いに対しては、明確な回答を避けた。まとめとして、竹田部長は結果としてどれだけの周波数を迅速に行政が提供できるかが重要なのであり、その結果としてどれだけの周波数が解放されたかというパフォーマンスを見てほしいと語った。

これに対して池田上席研究員は、総務省資料にある「電波解放戦略」がLiberalizationと訳されている点を取り上げ、レッシグ教授や池田上席研究員がかねてから主張する「電波の開放」としてのOpen Specrumというような意味合いと対比して、何を持ってオープンというのかという点についてレッシグ教授に見解を求めた。レッシグ教授は、自分が重視するのは無免許帯であることを強調し、現在の日米の無免許帯に対しての政策には類似点が多い(最低限の技術基準を満たせばよい、というもの)ことを指摘した。ただし、その無免許帯がどれほどの大きさなのか、どれほどまでに拡大されるべきなのかという問題は政治的な問題になりがちで、効率性が向上するというよりもレント・シーキングが拡張されることが往々にして起きるという点において、懸念を表明した。

池田上席研究員は続けて、4Ghz帯で総務省が検討を進めているいわゆる第四世代携帯電話(4G)の配分について、基本的に美人コンテスト方式で検討を進めているようだが、それ以外のアプローチは考えていないのかと質した。竹田部長は、オークションを含めて検討をしており、決して否定しているわけではないとしながらも、欧州で行われた第三世代携帯電話(3G)のオークションは失敗したことを指摘し、(美人コンテスト方式以外の割り当て手法の導入については)慎重な見方を示した。

池田 信夫
(RIETI上席研究員)

一方で、米国ではPCS(Personal Communication Service)のオークションは大変な成功を収める結果となった。ペッパー局長は以前、PCSオークションについて、「電波行政はコンピュータプログラムのβテストではない」という有名な言葉を残したことでも知られるが、周波数オークションについて現在はどのような見解を持っているのかについて池田上席研究員が質問した。

ペッパー局長は、FCCは10年以上にわたってオークションとつきあってきた経緯があり、独占的ではない競争的な免許方式等との検討作業を重ねてきたが、もっとも効率的に免許を与えるやり方はその免許に対して最も高い価値をつけることができる、すなわちそれだけの投資とサービスを実現できる事業者であると述べ、そしてそれを簡単に実現するのがオークションなのだと述べた。実際の所、ここ10年で35〜40件ほどのオークションが実施されており、全体的に見てオークションによる割り当ては成功を収めているのだという。また、これは一般によく誤解されていることであるが、周波数オークションは(政府機関が)お金を稼ぐために行われているという誤った認識があるとペッパー局長は指摘した。実際は全く逆で、周波数の効率的な利用が進むことで、トータルでみた周波数のユニットあたり単価は減少しているのだ。

次にペッパー局長は、欧州の3Gのオークションについて議論を進めた。FCCで事例を注意深く分析した結果、欧州での失敗の原因はオークションのデザインのミス、そして携帯電話の免許制度をフレキシブルなものにしなかったことが原因であるという結果を出したのだという。欧州では第二世代携帯電話のサービス免許を保有している業者が3G相当のサービスをする場合には新しく免許を買わなければならなかった。これは法律で第二世代携帯電話の免許で3Gのサービスをすることが禁じられていたためだが、デジタルの世界でこんな馬鹿げた話は意味がないとペッパー局長は論じた。

米国では、いくつかの会社がメガビット級のデータ交換サービスを音声と組み合わせた3G的なサービスを第壱世代の携帯電話の免許を用いて行っており、事実上世代に関する制限はないのだという。ペッパー局長は、〜Gという呼び方は「愚かなラベル」だと言明し、重要なのは周波数をより先進的なサービスに供給することにあると指摘した。第何世代だろうが関係ないのだ。重要なのは技術、顧客、サービスを的確に移動させることができる柔軟性であって、もし独占的ライセンスであるならば、オークションはもっとも効率的に事業者を選ぶ仕組みであると経験的にわかっているのだと述べた。その理由として、彼らはその免許が無料で与えられたときよりも(せっかく資金を投じて獲得した免許なのだから)大規模な投資を行い、サービスを早く始める傾向にあると指摘した。

これに対して、総務省の竹田部長は、まずオークションを採用しない理由について、現状では4.9Ghz〜5.0Ghzの間の高出力ワイヤレスLANに提供される予定の100Mhz分についてはオークションをしないという決定を行ったが、これは現在のこの周波数帯の利用システムの残存価値からして、約5億円を払えば退いてもらえるという見込みがあるからだと説明した。つまり、オークションよりも給付金制度の方がコスト的にも有利だという判断をしているということだ。また、4Gの問題については、現在は4Gという言い方はせず、beyond 3Gという言い方をしていると付け加えた上で、キャリアによるサービスにしても、ユーザによるサービスにしても、様々な場合に対応できる体制が必要だとコメントした。


RIETI 当サイト内の署名記事は、執筆者個人の責任で発表するものであり、経済産業研究所としての見解を示すものではありません。