■神戸文書回答

 

1) 2002年Wカップは大きな成果を上げたと思いますが,自治体首長として全体的な印象をお聞かせください。

大会関係者努力により,万全の体制のもとに運営された今大会は,危惧されていたフーリガンやテロといったこともなく,安全で感動深いものになった。
特に,共同開催国である日本と韓国が共にセカンドラウンドに勝ち進み活躍したことは,開催国民に対して多くの夢と感動を与え,両国に新たな絆を結んだことと思われる。
日韓共同開催に関して言えば,神戸では市民レベルも含めて日韓交流を通じた大会気運の醸成運動を展開したほか,地上波による放送が行われなかった韓国対アメリカ戦をパブリックヴューイングとして実施した。パブリックヴューイングで他の開催地の多くが開幕戦や決勝戦を選択した中での神戸の取り組みは,在日の韓国籍・朝鮮籍の方々から大きな評価を受け,その場で朝鮮初級学校の子どもたちが「テーハミングッ」と応援した姿は,大きな感動を与えてくれた。
また,神戸では,大会気運の醸成のために市民の自発的な参加のもと様々な運動が展開された。その中でも,大会を契機として,少年少女サッカーチームの子どもたちが展開したアフガニスタンにボールを送る運動は,神戸市民だけでなく国内外の人々に大きな感動を与えた。さらに,アフガニスタンサッカー協会の方を迎えて,アフガニスタン代表チームのユニフォーム一式を送ったことが,同チームの国際試合への復帰の大きな契機となった。このように神戸から世界平和へのメッセージが発信できたことは,震災で支援いただいた世界の方々へのいくばくかのお礼になったのではないかと考えている。

2)開催地への立候補時点,開催地決定直後,終了時,各々でWカップへのイメージ,考え方に変化はありましたか。

ワールドカップは,世界中で多くの方々が観戦し,その関心度はオリンピックを凌ぐといわれており,まさしく世界中のトッププレイヤーが国と国の威信をかけて戦う世界最大のイベントであり,是非とも市民とりわけ子どもたちにそのプレイを身近で体験してほしいとの考えで立候補した。開催地として決定する前年に,阪神淡路大震災により未曾有の被害を受け,立候補を断念することも考えたが,ワールドカップの神戸開催を実現することにより,市民に夢と希望を与えたいと思い招致活動を継続することとした。震災後は,ワールドカップの神戸開催決定を一つの励みとして,一日も早い復興のため努力してきた。
また,神戸開催にあたっては,ワールドカップを震災で支援いただいた世界の人々に復興した神戸をご覧いただき,感謝の気持ちを表す場と考え,ホスピタリティや世界平和,日韓親善を大きな柱として開催地としての役割を果たすべく努力した。
ワールドカップは,当初想像していた以上にすばらしい大会であり,まさに世紀の祭典といった表現にふさわしいものであったと考えている。

3)住民の自治参加意識の醸成にWカップ開催は貢献しましたか。

阪神大震災に際して,世界の国々からいただいた暖かい励ましと支援に対して感謝の気持ちを表したいという思いのもと,市民の皆様がそれぞれに感謝とおもてなしの気持ちを込めて,市民応援団として各地域で大きな声援を送っていただいた。具体的な活動としては

  • 神戸日本ラテンアメリカ協会代表のダゴベルト・メリリャン・ハラさんとそのご子息による応援歌「オーレ!神戸」の作曲,CD化
  • 地元商店街等を中心とした横断幕,歓迎バナーの掲出
  • イベントやボランティアの重要性に共感する団体のネットワークとして結成された「こうべスポーツ応援団」による「クリーンカップ」(美化活動)の実施や「KOBEファンビレッジ」の設置・運営
  • 自治会,婦人会,老人クラブ等によるクリーン作戦の実施
などがあげられる。
< また,大会の運営に直接携わるボランティアとして,神戸市とJAWOC神戸支部あわせて,1,858人もの方々にご参加いただいたほか,「KOBE観光ボランティア」や地元浜山地区の方々による「みち案内ボランティア」など市民の自主的なボランティア活動が展開された。
これらの活動は,行政(市)が中心になって行ったのではなく,むしろ市民の方々が自発的に取り組んだものであり,ワールドカップは市民の参加意識の醸成にも十分貢献したものと考えている。

4)市民レベルでの国際交流という点では如何でしたか。

スタジアム周辺の4小学校では,神戸で試合を行う4か国からそれぞれが応援する国の神戸在住外国人や大使館の方々との交流会をはじめ,その他の多くの小中学校でも国を決めて,その国のことを学びかつ応援する活動ができた。
また,神戸在住の日本人と在日韓国籍・朝鮮籍の青年による交流ツアー「韓国体験紀行」の実施,日韓友情ウォークなどが実施された。さらに,サッカーを通じた交流として,日韓ジュニアーサッカーフェスティバル,ワールドフットサルフェスタコウベが行われるなどさまざまな交流が図られた。
特に,大震災を経験した神戸の小学生女子サッカーチーム「神戸エンジェル」のメンバーが中心となって展開したアフガニスタンの子どもたちにサッカーボールを贈る運動は,高く評価され,このような子どもが神戸で育っていることを誇らしく思う。また,この活動を通じて,ロジャー・ムーアがユニセフ親善大使として来神し,小学校等でさまざまな交流を実施したことやアナン国連事務総長夫人が神戸エンジェルのメンバーに直接感謝を表されたことなど,子供達にもすばらしい体験をさせることができた。さらに,アフガニスタンサッカー協会からの来神者と神戸の子どもたちとさまざまな交流をもてたことも,本当に有意義であったと考えている。

5)・スタジアムを縮小されますが,将来を含めたその収支の考え方を。

スタジアムの建設事業では,公設民活方式をとり,事業計画,設計,施工,事業運営をコンペで当選した民間事業者が一貫して行うこととしている。建設そのものは都市公園事業として公的資金で行うが,事業者が設計から事業運営まで一貫して関わることにより,建設段階から運営段階を通じて,無駄の少ない合理的な施設整備及び施設管理を目指そうとするものである。特に,完成後の事業運営については,事業者が純民間の管理会社を設立してスタジアムを含む公園全体を一体管理することとしており,民間のノウハウを活かしたフレキシブルな運営による施設の活性化や経費削減を期待している。

・今回のワールドカップで得たものをどのように発展させますか。
サッカーの振興といった観点からは,ワールドカップが開催されたことを契機として,サッカー発祥の地といわれている神戸が再びサッカー王国といわれるようになることを望んでいる。
また,神戸では,「子供も高齢者も、障害者もトップアスリートもそれぞれがスポーツを楽しみ、健康づくりができるまちづくり」(神戸アスリートタウン構想)を進めており,その一環として,全国に先駆けて,「神戸総合型地域スポーツクラブ」の育成に努めている。ワールドカップが神戸で開催されることにより,市民のスポーツへの関心が高まるなか,スポーツを通じて健康づくり・仲間づくりをはじめようとする市民の期待に応え,市民にもっとも身近な小学校単位を拠点として,子どもから高齢者まで幅広い市民が気軽に様々なスポーツに親しめる地域スポーツクラブを育成していくことにより,スポーツを身近に楽しめるまち「神戸」をつくっていきたい。

・ご覧になった試合,感想を。
開幕戦と神戸での3試合を観戦した。いずれも世界のトップチームの試合らしく手に汗握る接戦となり,その技術レベルの高さと迫力に圧倒された。特に,神戸での3試合目は,個人技に優れるブラジルと堅実な守備と速攻を誇るベルギーがそれぞれの持ち味を活かしたすばらしい試合展開となり,そのプレーに感動した。

・「復興した神戸を見ていただく」という最大の目的は果たせたとお考えですか。
神戸での3試合で延べ10万人以上の観客がウイングスタジアムを訪れており,それ以外にも選手やチーム関係者,メディアをはじめとして多数の大会関係者が,大会を契機として神戸を訪れた。それらの人々には,震災から復興した神戸のまちを実際にご覧いただくことができた。さらには,報道等を通じて復興した神戸を全世界にアピールすることができ,「復興した神戸を見ていただく」という目的は十分果たせたのではないかと考えている。