■大阪文書回答

 

1) 2002年Wカップは大きな成果を上げたと思いますが、自治体の長としての全体的な印象をお聞かせください。併せて、事前に意図されたことの達成度について自己採点すると、100点満点で何点に相当するでしょうか。自己採点をお願いいたします。
また次の10の項目の中で、特に重要と思われるものを3つ挙げてください。
(地域のアイデンティティ確立、知名度向上、経済的な成果、交通インフラ整備、町並景観の向上、住民の参加意欲向上、地域ホスピタリティの向上、地域の国際化、環境問題意識、地域スポーツの振興)

今回のワールドカップは、日本全体にとってはもちろん、大阪にとっても大きな成功であったと思う。
 大阪市は、多数のボランティアの協力を得て、職員等とも合わせ3000人規模の運営支援体制を整えた。そして、市民と共に温かいムードの中で海外から大勢の人々をお迎えして、大阪のホスピタリティを大いにアピールすることができた。また、テレビなどのメディアを通じて、開催都市としての大阪の様子や試合の模様が全世界に伝えられた。これらは、大阪の情報を海外に発信し、世界中に大阪をPRする絶好の機会になったと言える。
 一方では、世界の頂点を目指すチーム同士の世界最高レベルの試合を間近に見て、若い人を中心に市民が大いに盛り上がり、国際スポーツイベントに対する関心・理解が深まった。そして、日韓共催となって両国の各都市で試合が展開されたことにより、日韓の市民レベルでの相互理解が進み、さらに大阪を訪れた各国の人々と大勢の市民との間で多様な異文化交流が繰り広げられたことで、市民の国際理解が一層深まったものと考えられる。
 こうした経験をさらに今後に活かし、様々な国際スポーツイベントなどの開催を通じて、国際交流の進展、「国際集客都市」の構築、そして「スポーツパラダイス大阪」の実現に努めてまいりたい。

2) 開催地への立候補時点、開催地決定直後、終了後、各々でWカップへのイメージ、考え方に変化はありましたか。

自治体が公的資金を投じて行った事業である以上、当然住民の納得が得られなければならない。大阪市では開催前に、今回のワールドカップ開催の意義や効果、運営方針などについて、市民への広報や議会での説明などを重ね、また主としてスタジアム周辺の地元の方々を対象に何度も説明会等を開き、理解と協力をお願いしていた。そして、結果としては大きな成功であったとの評価を各方面からいただいている。
 ただ、こういったイベントは、具体的にどれだけの効果があったかを数字などで示すことは容易ではない。経済波及効果などもそうであるが、特に、どれだけの情報発信・PR効果があったのか、国際交流の進展にどの程度役立ったか、そしてそれらが大阪の発展にどれだけ貢献するのか、等々を具体的な形で示すことは難しく、現実には、市民や各関係者にどのように評価していただくかということが大きい。この点で、今回は初期の成果をあげたと認められてとめ、さらに多数の関係資料などを残しており、求めがあればそれらについて必要な説明を行える用意が出来ている。

3) 成果として挙げられるもののうち3つだけに限定し、その成果を自慢してください。

 今年度決算がまだ済んでいないので、現時点では正確な数字が出せないが、広報・PR、関連イベント開催、交通輸送対策、自主警備等々の開催準備・運営関係経費、また長居スタジアムの設備工事・改修工事など、さらにJAWOCへの出捐金や支援など、全体で約50億円かかっている。

4) こうした事業に対してその成否あるいは事後評価、効果測定及びその公表などの説明責任の重要性についてどのようにお考えか、ご意見をお願いいたします。

今回支出した経費は、単なる「参加費用」というだけではなく、将来への投資としての意味も大きい。
 大阪市でワールドカップを開催した主な目的は、大阪市が目指す「国際集客都市」の構築、「スポーツパラダイス大阪」の実現に向けた大きな足がかりとすることにあり、その点で大きな成果をあげることが出来た。
 ハード面では、開催に備えて、長居スタジアムをFIFAの基準にそったワールドカップ仕様に改修したが、元々大阪には長居を始め、大阪ドーム、中央体育館など、充実した様々なスポーツ施設が整備されており、関連のインフラなども当初からかなり整っていたので、今回のワールドカップ開催では、有形よりも無形のもの、ソフト面での資産が多く残されたと言える。
 例えば、今回の運営支援体制では、ボランティアが大きな役割を果たしたが、ワールドカップの盛り上がりがさらにボランティア活動の高まりを促したと考えられ、今後大阪で展開される国際イベントなどにおいて、ボランティアの活躍がますます期待できるようになった。
 また、ヨーロッパなどに比べれば、元々サッカーにはそれほどなじみのなかった日本が、実際にワールドカップの開催が始まってみると、日本代表の活躍などもあって、予想以上の盛り上がりを見せた。大阪においても、大勢の市民と海外からの観客・サポーターが一緒になって、長居スタジアムの内外で試合や雰囲気などを楽しみ、様々な交流が行われた。こうしたことによって、市民の間に国際交流の輪の広がりが促され、海外からのビジターを受け入れる素地が、一層高まったと思う。
 さらに、このような世界最大規模の国際スポーツイベントを順調に運営することができ、大規模国際イベントの開催・運営ノウハウが一段と蓄積された。
 こうした無形の様々な資産が、これからの国際交流事業や国際イベントの展開に大きく貢献するものと期待している。

5) 直接あるいは間接的に出された総費用はどの程度になりましたか。
また、その出費は「イベントへの参加費用」としてのコストとお考えでしょうか、
あるいは「将来への投資(インベスト)」としてご認識されているのでしょうか?
将来への投資として考えられたとすれば、「(有形,無形いずれも)資産として何が残っ
たか」「今後、どのようなかたちでそれを生かすべき」とお考えでしょうか。

 大阪市では、先に述べたように、長居スタジアムの改修や交通輸送対策、関連イベントの開催、広報・PR、インフォメーションなどの他、国際的サッカー大会につき物の「フーリガン」対策など警備関係の経費を負担した。厳しい財政状況の中で、できるだけムダを省きながら必要な経費を支出したが、今回のワールドカップが成功の内に終わり、様々な無形の財産を大阪市に残したということを考えれば、その成果は大いにあったと思う。
 しかも、ご承知のとおりJAWOCの収支も、当初赤字が心配されていたものが、チケット販売の好調や為替差益などで予想を大きく上回る黒字(剰余金)が出る見込みとなった。その一部は自治体負担分の返還にあてられたが、その上でなお大きな剰余金が出るため、JAWOCはその有効な活用方法について、関係者からも意見を聞きながら検討しているところである。
 こうした点からも、収支的にうまくいったと言えるが、課題は、JAWOCの剰余金が、今後いかに有意義に活用されるかであると考えている。

6) 単年度決算として、Wカップ関連の収支とそれについてのご感想をお願いいたします。

 先に述べたとおり、大阪市でのワールドカップ開催の主な目的は、「国際集客都市」の構築、「スポーツパラダイス大阪」の実現に向けた大きな足がかりとすることにあった。
 言うまでもなく、ワールドカップはオリンピックと並ぶ世界最大級の国際スポーツイベントであり、文字通り全世界から大きな注目を集めている。したがって、大阪市の掲げる目標に大きなインパクトを与えるものと期待して、開催地に立候補したわけである。
 この考えは、開催が決まって準備を進める中でも、開催期間中も同様であり、終了後は、まさに期待通りの成果をあげることが出来たと思っている。

7) 住民の自治参加意識の醸成にWカップ開催は貢献しましたか。

 ワールドカップ開催は、住民の自治参加意識の醸成にも貢献したと考えている。特に長居スタジアム周辺の地元の方々からは、開催に伴う諸課題について、いろいろな意見の表明や要望があり、大阪市も出来る限りそれに対応してきた。こうした点で、地元住民の自治体が一緒に考えながら事業を進めたと見ることができ、住民の意識に影響を与えたと言えるのではないか。

8) 市民レベルでの国際交流という点ではいかがでしたか。

 市民レベルでの国際交流という点では、大きな成果があったと思う。多数のボランティアと共に運営支援体制を整え、開催のかなり前から様々な関連イベントや広報・PRなどを進めて、歓迎ムードの醸成に努めていた。さらに、開催が近づくと新聞・テレビなどのメディアが連日大きく報道したこともあって、市民の歓迎ムードは大いに盛り上がった。そして、ワールドカップが始まってみると、海外からやって来た観客やサポーターは実にフレンドリーで、市民と入り混じって、あちらこちらで大いにワールドカップを楽しんでいた。開催前は不安も抱えていたスタジアム周辺地域でも、開催後はそうした心配が杞憂であったことが分かり、かえって歓迎ムードが一層高まった。
 こうしたことで、開催期間中、各国の人々と大勢の市民との間で様々な異文化交流が展開され、市民の国際理解が一層深まって、今後の国際交流の進展に大きく貢献したと言えよう。

9) 交通・情報インフラ、宿泊施設、商業施設、文化財施設などで貴地域において不足しているもの、より充実させたいと思ったものはありますか。

 大都市である大阪市には、交通・宿泊施設・商業施設などのインフラ・都市機能がかなり整っていると考えている。実際、例えば交通面では、長居スタジアムのすぐ近くに地下鉄及びJRの駅があり、市内のどこからでも交通の便がよく、輸送量も大きいので、開催当日、道路交通を大幅に規制したにもかかわらず、比較的スムーズに大量の観客輸送を行うことが出来た。宿泊も、高級ホテルから低廉な宿まで多数の施設が市内にあり、また小売・飲食などの商業施設は、言うまでもなく市内全域にきわめて豊富に揃っているので、こうした面では特に不足を感じることはなかった。
 文化財などについては、大阪は京都・奈良に近く、大阪そのものも古代のなんばの宮から1400年の歴史を持ち、大阪城ばかりでなく、豊富な史跡を市内各地に有している。また、ユニバーサルスタジオ・ジャパンをはじめ大規模なアミューズメント施設も多く、さらにキタ・ミナミなど日本有数の繁華街もあるので、国内外からやって来た人々に大阪観光を楽しんでもらえる要素は少なくないと思う。
 ただ、こうした施設や観光スポットなどについて、今後ともプロモーションを展開していくとともに、より便利なシステムの整備や集客施設の一層の充実を図り、大阪を訪れるビジターにとって魅力のある、利便性の高いまちづくりをさらに進めていくことが重要であると考えている。

10) 危機管理についてはどのようにお考えでしたか?また実際にどうでしたか?

 ご承知のとおり、ワールドカップにおいては従来から「フーリガン」の問題が言われており、また、一昨年の米国同時多発テロ発生から間がなく、国際テロに対する警戒も必要になっていた。しかもこれらの問題は、日本にとってほとんど経験のないものであり、今回の警備・危機管理は、これまで日本で開かれた各種の国際イベントと比べても、多くの課題を抱えていた。そのため、他の自治体と同様、大阪市も地元警察(大阪府警)と緊密な連携を図りながら、綿密な自主警備計画を練り、大規模な警備体制を組んで本番に臨んだ。
 警備計画策定にあたっての大きな課題の一つは、実際にどれだけの数の「フーリガン」が日本にやって来て、どのような行動をとるのかを把握し、それに効果的に対応した警備体制を組むことであった。大阪市では、関係国の大使館・総領事館や関係者に情報の提供を求めたが、不確実な要素が多く、英国側の「フーリガン」出国禁止措置や日本側当局の入国拒否という「水際作戦」によって、「フーリガン」はほとんどやって来ないだろうという見方がある一方で、法の網を潜り抜けて、大勢押しかけて来るという意見もあり、結局、推測を重ねながら、最悪の事態を想定して計画を進めざるを得なかった。
 一方、マスコミは一連のワールドカップ報道の中で「フーリガン」問題にもしばしば言及を重ねたが、その多くは必ずしも確実な根拠に基づくものではなく、地元の住民の不安をかえって煽ることにもなった。
 結果としては、関係国の「水際作戦」が功を奏したと思われ、本番になっても「フーリガン」とおぼしき者は姿を見せず、警備陣を安堵させた。
 こうした今回の経験からも、やはり自治体と警察・関係機関とが緊密に連携して様々な方策を講じ、より効果的な警備体制を築くことが重要であると思う。さらに、各問題に関する的確な情報ルートを把握して正確かつ十分な情報の収集を図り、地元住民にもそれを提供していくことが、警備・危機管理にとっての重要な課題であると言える。

11) 自治体,民間を問わず、人材は充分でしたか。将来さらに人材育成の充実を図るためにはどのような政策が有効でしょうか?ご意見を伺わせてください。

 先にも述べたとおり、大阪市では職員・スタッフ・自主警備員及びボランティアによる3000人規模の運営支援体制を整えた。そして、それぞれのセクションには、概ね必要かつ十分な人材を配置できたものと考えている。とりわけボランティアには、語学対応を始め様々な分野において活躍してもらった。
 今後も、国際イベントの開催、国際交流事業の推進などに当たって、ボランティアの果たす役割は大きいと考えており、大阪市としては、活動の中心となるボランティア・リーダーの育成に努めるなど、ボランティアの輪の広がりを促していきたい。

12) 大会終了後、大阪で試合を行った国を中心とした国際的なPRを継続して行っていくお考えはありますか? また、日韓共催に関する評価をお伺いしたく存じます。

 すでに繰り返しているように、大阪市は国際交流の促進を図り、「国際集客都市」の構築、「スポーツパラダイス大阪」の実現を目指して、様々な施策を推し進めているが、全世界が注目する大規模国際スポーツイベントのワールドカップを大阪で開催することは、こうした目標に向け大きなインパクトを与えるものと期待できた。
 そして、今回のワールドカップが予想以上の盛り上がりを見せ、海外から来た大勢の人々と市民が一緒になって楽しんだこと、大阪のホスピタリティを大いにアピールできたこと、国際的大イベントの開催・運営ノウハウをさらに蓄積できたこと、また市民の国際理解が一層深まったこと等々、期待通り、きわめて大きな成果をあげたと考えている。
 また日韓共催となったことについても、結果としてよかったと思う。当初は必ずしも足並みが揃わず、紆余曲折があったようであるが、本番になると、両国の市民が心を通わせて大いに盛り上がり、日本人が韓国代表を応援したりして、両国の市民レベルでの相互理解が深まった。これによって、日韓関係の一層の深化・成熟化が期待できる。