■静岡知事インタビュー

 

1) 終了後半年以上が経った現在、開催地への立候補時点の期待とその結果に対する評価など、全体的な印象をお聞かせください。また自己評価すると100点満点の何点?

 90点。外国人の観客が1か月の開催期間中国内を旅行することにより、外来客/宿泊客/旅行客が増大することを考えていたが、極東での開催ということで目論見ほどではなかった。これが10点の減点(未達成点)分。その他は期待に対し最高の結果だったと考える。3試合とも好カードで、ブラジル/ドイツ/イングランド/カメルーンといったチームが出場し、また試合内容にも恵まれた。入場者数も47,000人と満杯に近かったし、心配されたフーリガンも問題なく、ゲームに関しては最高だった。
 また、今大会を契機に、地域住民に国際的視野を広めてもらいたいと期待していた。教育の現場では学校ごとに参加国の勉強(一校一国運動)をし、国際理解の一助になった。また3試合を行う中で、地域住民と地元自治体とが協力しながら、静岡から浜松までイベントを開催し、ここに外国人/県外の人が多数参加、国際交流が図られた。こういった地域、スタジアム周辺の盛り上がりは他の開催地にはないものだったと評価された。横浜/埼玉の試合も観戦したが、静岡での盛り上がりは実感した。またこれに加え3ヵ国のキャンプ地としても利用されたことで、元々サッカー熱の高い地域にさらに盛り上がりが加速し、サッカー振興に大きく寄与した。
 さらに全国的な話にはなるが、観戦応援についても、敵味方なくフェアプレーを讃える紳士的な洗練された観客/地域住民の反応などは、非常に清々しく、またFIFA役員などからも感嘆された。武士道精神に通じる日本人独自の礼儀正しさが、球場内外に見られたことは特筆すべき。

2) (知事の言葉の中で)ソフト(無形の資産)への評価が高いことを感じるが、ワールドカップならではの部分としてどのようなものがあったでしょうか。また、ワールドカップへの盛り上がり、個々人のアイデンティティを再確認できる場を提供したということで、それが今後どのように生かされていくことを期待されますか。

 ワールドカップを機に、日本人ですら自覚をしていない日本文化の長所を、外国人からの指摘などによりあらためて確認することができた。例えば新幹線ダイヤの正確さ、試合運営/業務遂行などマネジメント能力の高さで評価を受けたことは自信につながった。
 また自主的な住民参加については、他分野でも最近見られるようになってきているが、特にワールドカップにおいてはその盛り上がりは顕著だった。開催後も各地でボランティアの同窓会があり、地域社会の連帯感醸成にもつながった。一般社会で個がバラバラになり、連帯感が希薄になる傾向のある一方で、スポーツやNPO活動などが盛んになってきている背景には、「友達や仲間が欲しい」といったことへのニーズがあるからと考える。こういったことがサッカーワールドカップのボランティア活動にも影響し、成功につながったのではないか。

 エコパその他スポーツ施設に限らず、立派な施設が用意され、今年行われる国体をはじめ、いろいろなイベント・行事を実施されることが考えられる。その際、ボランティアの力が発揮されることを期待しているが、その力が期待できることへの確実な見当がついたことは大きい。
 また個人として参加する場合、NPOを通じてという場合もあるだろうが、日常的にな行政と県民のコラボレーションの拡大を図っている中で、浸透していく大きなきっかけといえる。NPOだけでもだめだし、コストや手間の問題があり行政だけでもだめ。こうした相互の関係構築への大きな弾みとなった。行政と県民のコラボレーションという部分で考えると、一種のパイロット事業と捉えることもできた。


3) 長期間にわたり、大きなエネルギーと税金を投入しながら行った事業として、事後検証し、その評価に対してディスクローズしていくこと、アカウンタビリティについてのご見解をお聞かせください。

 準々決勝を引き受けるために5万人スタジアムにしたが、3試合とも47,000人の動員が達成できたことは評価できる。設備投資/運営への資金投入に対する経済効果については、直接的には、県の拠出と来客の消費から鑑みると1.5倍程度の(経済)累積効果が出ていると推計しており、これに関しても評価できると考えている。成熟した先進国日本にとっては、スポーツをはじめとする文化的な分野が経済の重要な柱となる可能性が大きい。そう考える時、(FIFAなどの組織の存在も重要だがその役割を充分に果たし)イベント開催力があることがわかり、世界的な規模のイベントも静岡から仕掛けることが可能であるとなれば、実際経済の重要な柱となりうることを実感し確認できた。さらに今後は、こうしたスポーツイベントを開催するビジネスへの展開能力が課題。ただ今回課題であることを認識したという事実が重要。


(以下参考)

4) 国家としての評価指標(特にソフトのアセット部分)を作成することへの必要性はどうお感じですか。

 (特にスポーツにおけるGDPなどに基づいた政策論議をするために、そうした評価指標は)必要だとは思うが、基礎データになるような現象が少ない点で難しい。プロスポーツが野球とサッカーのみ。バスケット、バレーは一部の選手のみのプロ化に留まっている。発展可能性はありそうだが、どのように育成していくかは課題。
 スポーツ愛好人口増大に関して、今後は学校体育ではなく地域スポーツクラブが中心と静岡は考えている。これによってスポーツへの興味の多様化、トップレベルの選手育成にも可能性が高まる。
 静岡出身のバルセロナ五輪女子柔道52kg級銀メダリスト、溝口紀子さんを埼玉大学卒業後、静岡県立短期大学助手に採用。その後文部科学省の留学生制度でフランスへ勉強に行き、語学も身につけ、帰国後フランス女子柔道のコーチとして2年間の招聘を受けた。ご主人も仏柔道協会の広報マンとして採用される好待遇にも恵まれ渡仏。サッカー同様の人気を誇るフランス柔道界において、充実したクラブ組織や確立したコーチの資格制度など勉強している。生きた情報を体得する彼女の帰国後の活躍にも期待したい。
 こうした海外(特にフランス)のスポーツ制度を勉強することをはじめ、totoの助成金も少ないことから、競技同士が競うことで応援してくれる民間企業を獲得し、そのスポンサーシップの支援によって活性させていくことが重要。一方国や自治体は、寄付金や控除といった「税制上の特典」をもって支援する。こうしたことで日本経団連を通じてビジネス化も望める。青少年の健全育成が図られ、世界的規模の選手が出てくることにより、そのスポーツがメジャーになると同時にビジネス化につながっていくと考えている。

(参考)今後「スポーツとリハビリ」をテーマにした「富士山麓先端健康産業集積構想(ファルマバレー構想)」を考え、静岡では推進している。昨年開設した癌センターの準備段階より、最先端の医療技術者を抱え、これらスタッフの定着/回転/補充により、医療薬/医療機器/医療技術の開発研究を目指し、これが実現しつつある。産学官が一体となり、健康産業を高めていく計画の中で、「リハビリ」にも転用できると着目、東大と組んで進めていこうという動きもある。