■横浜インタビュー

 

1) 平成14年度も含めワールドアップに関して、横浜市が直接的に使用した金額は発表されていますか?

 はい。対外的には平成14年度予算も含めると29億円で、使用しなかった分なども換算すると平成5年度からの累計で約27億円というのが発表している金額。この金額にはワールドカップの招致、JAWOCに対する出資、施設整備、イベント開催などが含まれる。JAWOCから3億8000万円戻ってきたのを差し引くと23.2億というのが実質の金額ということになろう。平成11年度以降はワールドカップサッカー推進課(コンベンション推進室)の予算管轄、それ以前(平成5年度〜10年度)は教育委員会の予算であった。単年度予算で見ると、平成13年度が約10億(決算8.9億)、14年度が約9億、この2年を除くと大体年5,000万円くらいで推移していた。平成13年度は施設整備が集中した(競技場をWカップ仕様にするための仮設を含め、貴賓室設営、個室観覧席(ボックス)、約3,000の一般席、洋式トイレの増設など)。なお、経済波及効果については特に算出していない。今後も算出予定はない。


2) スタジアムの建設費についてはいくらぐらいでしたか? その予算計上はどのようになっていますか? また「将来の投資への認識」や「スタジアムの運営目標」さらには「防災拠点としての役割」などについてお聞かせください。

 スタジアムの建設費については600億円の投資。これはワールドカップ予算の範囲ではなく、平成10年度の国体のメインスタジアムとして市の建設予算(国や県の補助はあり)で計上。当初は国立競技場の60,000人を踏襲する予定だったがWカップのことも含め70,000人収容のスタジアムにした。2割〜3割程度の起債をしている。
 施設の将来性は当然考えていた。「利便性」をテーマとして、まず新幹線の停車駅である新横浜駅近くに立地することによるアクセスの優位性や、さらに付近には横浜アリーナなどの大規模施設もあるため大規模イベントへの対応性も含め、都市開発の意識があった。中に一般市民が利用出来るコミュニティプラザを設置、また医化学センターを内包するといった点も将来性を考えて立地、建設の計画がされ実現した。
 スタジアムの運営については特に稼動目標等の数値はなし(ただし芝生の部分は養生の都合もあるので50〜75日が稼動の限界)。現状運営主体は振興事業団(財団法人)で、10億円程度の運営費、市の補助金が8億円程度。芝生の利用、陸上トラックの使用、コンサート収入を含めた稼動効率は考えていかないといけない。特にJリーグの試合におけるスタジアムの料金換算はチケット売上収益に対し一定率の金額としているので、横浜Fマリノス/横浜FCが年間の競技場使用回数が増えた上で、常時5〜6万人を集客出来るようであれば「単年度黒字」も可能性として決してないわけではない。コンサートに関しても、住宅地に近いとのことから防音壁の設備等についても配慮されているので、特別問題なく運営はできる。
 東京を含めたヒンターランドという観点では埼玉などと一緒かもしれないが、交通アクセスとしての新幹線/東名高速という交通利便性から考えるとその優位性は大きいものと考えている。
 防災の点に関しては、亡くなった高秀元市長が防災に力を注いでいたこともあって、災害時の避難地としてのスタジアムの存立意識はあった。ただし市の拠点は関内近辺であることから防災本部は本庁舎になる。また電波の関係上みなとみらい区内(NTTドコモタワー)に防災センターを設けた。そのため、スタジアムはあくまで代替的な防災拠点に留まっている。耐震性は誇るべきものであり、また無線設備をはじめ、水の循環システムを備え、電力の確保、緊急治療に関する医療システムに至るまで充実している。ヘリポートも完備し、防災拠点としては充分ではあるが、現状防災機能をすべてスタジアムに集中することは考えていない。

3) 横浜Fマリノス/横浜FCというJ1/J2のチームをもつホームタウンとして、観客動員数なども含めて、Wカップが果たした役割、影響などはどうお感じになっていますか?

 わかりません。観客動員数は浦和に次いで2番目に多いが、必ずしもWカップが影響したものでもない。ただし、選手との交流イベントなどに対して子供達が興味を持った、というような直接目に見えない部分について効果はあるのではないかと思う。昨年も前半はWカップの日程的な問題で売上自体は苦戦したが、観客動員数自体一昨年よりは昨年の方が増えている。今年はカフーの来日も含め、Wカップ効果が考えられるが、競技場を満杯にしようという目標を持って2チームとも臨んでいる。

4) 住民の参加意識という点ではどのように自己評価されていますか? またボランティアの成果については市としてもお感じになっているようだが、Wカップ独自のものとお考えですか? 今後への発展可能性も含めてご意見をお聞かせください。

 Wカップの名称使用に制限があり(自治体ですら制限を受けた)、自主的な活動は限界があった。市内18区にWカップ推進委員会を設置。官主導であったが、イベントを経る中で自発的な取り組みが増加した。市民の会という自発的な組織もあった。JAWOCの募集の時期とは別に、子供たちを含め多くの市民に対してボランティアへの参加を呼び掛けた。開幕戦前のイベント運営や、子供たちの無料招待など、多くの市民参加型のものを企画したが、想定以上に市民の参加が多かった。ボランティア参加の記念に、ボランティア参加者自身が編集した小冊子を発行、その際にアンケート/ヒアリングを行った。その中でも「参加して良かった」という声が非常に多かった。特に当初住民から拒否反応が出るかと思われた「美化清掃」に関する作業も、逆に参加された方の方がボランティア活動への満足度は高かったというようなアンケート結果が出ている。
 横浜市ではボランティア活動センターがあり、国体時は県がスポーツボランティアを手配、また横浜Fマリノスなどチームボランティアを持つなど、元々ボランティア活動は盛んな都市背景を持つ。とはいえ今回非常に多くの方々に参加いただいたのはWカップだったからという要素は大きい。Wカップを機に参加してみて非常に良かったのでまた何か機会があれば参加したいと思ってくれる方が増えるきっかけにはなった。他のボランティア組織に登録してもらうよう呼び掛けをしている。今回ボランティアに参加してくれた方々については住所/電話/E-MAILアドレスなどのDBは確保、保管しており、これをいかしながら人数や層が増えるようにしていきたい。ソウルの7万人を母数とするボランティアのDBには及ばないが、そういうものを目指したいと思っている。
 通訳案内ボランティア(特に病院)を60人手配した。ニーズは実際多くなかったが、今後につながると思う。病院自体も自発的に、指差しでの診察ができるインフラ整備など積極的に取り組んでいた。
 また2001年9月11日のテロをきっかけに危機管理マニュアルを作った(非公開)。これはワールドカップ向けではあるが、今後イベントごとにカスタマイズして使えると思うので一つの財産と考えられる。
 大都市なので人材難での悩みは少なかったが、当初想定し募集していた通訳の他に、ドロー決定後急遽クロアチア語の通訳をできる人を…ということで募集した。市内に6人いたのでカバーはできた。横浜市には出場32ヶ国すべての国家の出身者が在住していた。

5) 首長として中田市長のご感想等でお答えいただけるものがあればいただけますか?

 4月に市長となり、Wカップの誘致や開催の準備に関わってこなかった自分に何ができるのか戸惑いがあった。しかしその中で自分が果たす役割としては「充分に力が発揮出来る環境づくり」。選手が安心してゲームに集中出来る環境づくりにより、存分に力を発揮してもらうように、観客にとっても安心して観戦、応援に存分に楽しめるように、ということを意識して各施策に取り組んだ。スタジアムを視察、危険が想定される部分に関しては手直しを指示。横浜では、日本戦が行われた3日の内、4日/14日はスタジアムを、9日は文化体育館をパブリックビューイングとした。暴れてしまってパブリックビューイングを中止する事態にならないように、という注意を促す呼びかけを当日市長自ら行った。ちなみに横浜開催試合は全て見た。
 高秀前市長は、決勝の横浜開催、テロ対策(特にテロに対する危機管理)の盛り込みということを含めた取り組みを行った。


6) アカウンタビリティに関してはいかがお考えですか?

 高秀前市長も情報公開については熱心に取り組んでいた。以前と比べると随分進んだといえる。
 中田現市長は、物事を進めていく際に官のみがやるのではなく、民と力を併せて協同でやっていくことが重要であり、民間の人たちが充分に活動するためのコーディネートが行政の役割だと考えている。それには情報の共有化が必要不可欠。積極的な情報公開を基本としている。まず市長交際費を情報公開し、「都市経営戦略会議/執行会議」の内容や「政策決定プロセス」のWEBでの情報公開を行っている。また横浜市の負債額、起債額、一般会計のみでなく、企業会計/特別会計も含めて公表していっている。開発公社が持つ土地の原価/時価も公表している。したがって含み損益も分かるようになっている。予算の編成過程なども公開している。などなど、市民が分かりやすい素材の提供を含め、アカウンタビリティを果たそうとしていてガラス張りの市政を意識している。


7) 立候補時の意識とWカップという「事業投資」へのリターンに対する見解についてお聞かせください。

 リターンとは何を持っていうか。仮に1ヶ国開催として当時立候補していたのが15自治体すべてが残ったのではないかと考える。それぞれで64試合ということはせいぜい1自治体4試合。共催としても3試合は最低保証されていたし1試合増える程度の違いなので、共催による決定的な大差はなかったのではないか。横浜の場合は単に15から10の自治体に残るということではなく、決勝/準決勝/開幕ゲームといったビッグゲームのいずれかをとりたいということで臨んでいた。ブランディングに留まらず、プレステージという意識があった。
 特に高秀前市長は、横浜の名は船関係/港関係の業界を除くと海外に知られていない。その対外的ネームバリューを上げていきたいをいう考えがあったようだ。一方中田現市長はワールドカップ以降どうするかということに注力している。特に(外資系の)企業誘致活動に熱心。今までは「東京の隣」という説明だったのが、「ワールドカップの決勝をやった」ということで取って変わるようになる。ただし、基本的に現在各計画については数値目標を立てるようにしつつあるが、外資系の企業誘致については数値目標はたててない。地価/税制収入(固定資産税・住民)/起債の金利というところが都市力/ブランド力につながっているといえる。その意味では今後の横浜のさらなる価値向上に遠からず果たす役割はあったと考えられる。

8) 地域メディアとしての動きが少なかったように思うが、ご感想はいかがでしょうか。

 イベントを行うにしてもFIFAのしばりがきつく「ワールドカップ」という名称の使用に制限があり、ニュース/スポーツ以外はほとんどメディアで放送をできなかった。それでもTVKでは毎週木曜日に5分番組を作ってくれていた。FM横浜でも無償で枠をもらった。などとそれなりのメディアの支援もあったが、スポンサーの獲得が困難な点が最大の問題だった。財政が厳しい中で自治体がなんでもかんでもやらねばいけないというわけではなく、民間との協力関係が必要であったが、FIFA絡みの権利関係上からも民間の動きに限界があったのが難しい課題だった。