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0109:急増する対中輸出が物語るもの |
「これからは『中・米頼みの景気回復』と書かなくてはいけませんね・・・」新聞記者の友人が苦笑しながらいった。対中輸出のめざましい増大ぶりを指してのことだ。 この結果、今年度上半期、中国+香港向け輸出(正味の対中輸出に近い)は5兆796億円、対米輸出(6兆6993億円)の75%に匹敵するところまで来た。これに大陸との経済融合が日本以上の速度で進む台湾向け輸出を足せば6兆7974億円、すなわち「大中華圏」向け輸出が金額で対米輸出を上回ったことになる。いまの趨勢が続けば、中国+香港向け輸出もあと2、3年で対米輸出を上回るだろう。そう考えると、なにやら「歴史の変わり目に立ち会っている」ようにすら思えてくる。 いまや日本は香港も含めた中国向け貿易で明らかな出超状態にある(今年度上半期の中国+香港貿易は日本の8819億円の出超)。10年前なら間違いなく中国側から「対日貿易赤字」問題が提起されたはずなのに、今のところ音沙汰がない。そこには成長の果実を均霑することによって周辺国からの「脅威論」を抑えたい最近の中国の姿勢を読みとることもできる。 ■実態を備えた構想になりつつある東アジア経済統合 以上を踏まえて3つの感想を述べたい。第1は、東アジア経済統合が実体を備えた構想になりつつあることだ(グラフ2参照)。域内の分業関係が更に深化しているだけでなく、中国需要の急増によって最終需要の面でも相互依存関係が着実に高まりつつある。最近、日経経済研究センターや経産省の研究会が行ったアンケートで、日本企業の中に東アジア(ASEAN+3)を対象とする多国間FTAを望む声が高まっていることは、このような経済実体の変化を反映しているように思える。 周知のとおり、東アジアとのFTAには農業問題の克服が不可欠だ。特にタイや中国とのFTAは省庁間の小手先の妥協ではとうてい成就できない。最近、当研究所同僚の山下一仁上席研究員が「FTA時代を生き抜ける農業」を目指した農業政策の抜本転換を提唱しているが、その必要性はますます高まったといえる。 第2は通貨問題についてだ。貿易や投資などの実物経済は経済の一側面に過ぎず、もう一側面として金融や通貨がある。実物経済の世界でFTAが構想されるならば、金融・通貨といった側面でも一層の地域連携策が構想されるべきであり、両者が歩調を合わせて進まないと地域経済の脆弱性が高まってしまう。 ■深まる「勝ち組み」「負け組」の両極化 最後に「中国勝ち組」と「中国負け組」の両極分解の傾向について述べたい。大企業に「中国様々」ムードが拡がる一方で、中国進出のチャンス、経営資源や企業体力に恵まれない中小企業は客先の中国移転、国内発注の減少など、大企業とは対照的な窮状にある。その傾向は自前製品を持たない下請企業ではなおさら顕著だ。 この点で、最近やや「明かりが灯る」思いのすることがある。中国企業の一部に日本製造業見直し気運が生まれていることだ。従来、中国企業は何かと言うと「高コストの日本で製造業を続けるのは無意味」といった「知った風」な認識を表明してきたが、日本企業との交流が深まるにつれてやや様子が違ってきたのだ。 2年ほど前、上海企業が倒産した東京の業務用印刷機中堅企業を買収した。最近その買い手企業の関係者に会ったところ、彼は「買収後、会社が仕入れている部品を一点ずつチェックした結果、コストが高いばかりで日本で作る意味のない部品もあったが、中国では作れない価値ある部品も数多く発見した」といっていた。それを聞いて思った。中国に「周辺の脅威論を抑えたい」という慮りがあるならば、買収だけでなく、日本ならではの部品や部材など、中小企業が中国向け輸出を増やせるような注文を出してもらえないか。 |
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