第4回:なぜ韓国は中国を脅威ではなく、希望として受け入れるのか?
韓国の中国留学ブームから見る未来志向の韓中関係

「韓国では、今、中国ブームに火がついている。貿易投資、文化交流、マスコミ報道、そして人的交流や語学学習にいたるまで、韓国全土に中国旋風が、吹き荒れている」

これは2001年11月30日付、中国人民日報に出た韓国の中国ブーム、すなわち「漢流」に関連する記事である。人民日報の記事は中国で流通する韓国の音楽、ダンス、ファッション、映画ブームを意味する「韓流」に対応するものでもある。記事の中で、特に注意して読まなければならない部分は、人的交流と語学学習についてだ。貿易投資や文化交流は、韓国国内だけではなく、全世界に共通する主な関心事でもあるからだ。同じ中華圏である台湾を除くと、韓国は人的交流や語学学習において、全世界で中国に最もつながりの深い国である。中国国家留学寄金管理委員会が去る3月4日に明らかにした中国に滞在する外国人留学生統計は、その事実を証明する良い例だ。

中国の海外留学生のうち、42%が韓国人留学生

統計によると、2002年中国に滞在する海外留学生の総数は8万5829人。そのうち韓国人留学生は、3万6093人で、国別順位では1位である。2位は日本(1万6084人)、3位はアメリカ(7359人)、4位はインドネシア(2583人)、5位がベトナム(2336人)と続く。統計上では、韓国人留学生の数は全体数の42%を占め、日本人留学生より2.2倍多い。日本の総人口1億2000万に対して韓国は4600万人で、日本の人口は韓国より2.6倍多いということを勘案すると、中国の韓国人留学生の数は日本に比べると比率的には約5.7倍ということになる。この数字から、韓国の若者の中国への関心は、日本の若者の中国への関心より約5.7倍大きいという解釈も可能なのだ。

韓国の若者の中国留学ブームは、統計に現われる公式的な数字だけではなく、1年以下の短期留学を含むと、爆発的なブームであることがわかる。駐北京韓国大使館は、3カ月の観光ビザで短期間に行き交う、いわゆる「バッタ留学生」を含むと、総留学生の規模は公式統計の2倍以上で6万人を越すと見ている。多くの留学生は、仁川や木浦から出発する旅客船を通じて天津、大連、青島を経由し、北京や上海の学校で2、3カ月滞在し、中国語を勉強する。黄海を行き交う韓中定期旅客船の運賃は飛行機の約3分の1で、若い留学生から人気が高い。

小学生にも中国留学ブーム

韓国での中国留学ブームは大学生だけではない。高校生、中学生、そして小学校にまで広がりを見せている。駐韓中国大使館は、2000年から韓国全域で中国留学博覧会を行い、韓国人の中国留学ブームに拍車をかけている。去る2002年11月30日、ソウルで開かれた中国留学博覧会の「売り物」は中国の名門大学の清華大、北京大、人民大だけではなく、中国名門大学に入りやすい北京の名門小学校、名門中学校、名門高校である。卒業生の半分以上を中国4大有名大学に入学させるという復旦大の付属中学校の入学説明会には、約3000人が集まり、案内書が足りなかったという。2001年に中国の小学校、中学校、高校に留学した韓国人の早期留学生の数は、全部で1394人にのぼる。

2002年8月の段階で韓国人の海外への留学生総数は約15万人。このなかでアメリカへの留学生の数は5万8457人。公式的な統計では、3万6000人という中国への留学生に比べ、はるかに多い。しかし短期間の非公式の中国への留学生を加えると、修交してからたった10年しかない中国が、すでに50年以上の外交関係を持ち軍事同盟国であるアメリカを追い越した状態だ。

韓国に吹く中国留学ブームは、中国の若者の韓国留学ブームにもつながっている。2001年8月時点で、韓国に留学している大陸出身の留学生は3221人。日本への留学生の3565人に続いて2位の地位を占めている。韓国では1992年の韓中修交以後、韓国へ渡ってきた中国人を新華僑と呼ぶ。その前から韓国に住む約2万人の華僑は老華僑と呼ばれている。在韓中国大使館は、韓国に住む華僑は約10万人で、そのうち新華僑が約8万人に達すると見ている。この中で大学や、大学院で韓国について勉強する知識分子(エリート)の数は、約2万人だという。3カ月観光ビザを使った短期留学中である中国の若者の数は、1万人近い状態である。日本人やアメリカ人の留学生より、少なくとも3倍以上は多いのだ。

中国との関係を建設的な協助関係として見ている韓国

韓国で吹く中国旋風、特に留学ブームは果してどんな背景と原因で加速化されているのか? 大きく見ると5つの要因で説明することができる。

1 地理的背景:
韓国人にとって中国は、アメリカや日本のような、離れた国ではない。いつでも行ける、心理的に近い国として受けとめられている。「留学」といっても、アメリカ、日本、ヨーロッパにでかけることとは異なる次元で捉えている。東京から大阪や京都に行く程度の感覚しかないのだ。

2 中国に対する期待感:
中国の未来を、悲観論や韓国の競争相手として見るより、期待と建設的な協助関係の相手として見ている。中国での生活費が韓国より三分の一という経済的理由もあるが、より安いベトナムやインド、東ヨーロッパではなく中国に行く理由は、中国の未来を楽観的にとらえ、これから続くだろう中国特需に注目するからだ。

3 統一後の中国との関係:
近づきつつあると見なされている統一以降の朝鮮半島と中国との特殊な関係を考慮すると、結局「未来は中国だ」という考えが韓国の若手に広がっている。特に朝鮮族が居住している延辺を中心とする北東3省に対する韓国人の愛着と関心は「民族主義的使命」として理解されるほどに特別だ。最近、大学生を中心に行われたアンケート調査結果を見ると、20代初めの韓国の若者中、約85%が「満洲は韓国の経済圏に隷属されるし、そのための準備をしなければならない」と答えている。

4 朝鮮族の存在:
中国には250万の朝鮮族がいる。これらは延辺自治区だけではなく、北京、青島などの大都市地域に集中している。中国へ行っても言葉が通じる朝鮮族の助けによって、直ちに中国生活に適応することができるということが、韓国人が中国を外国ではなく、近い国として受け入れる主な背景だ。朝鮮族は言語だけではなく、韓国留学生の衣食住などこまごまとした問題まで解決してくれる役目を果たしている。

5 歴史的背景:
韓国が中国より精神的、経済的な次元で優位に立ったのは、1949年の中国共産化以降である。韓国は19世紀末期まで、小中華として中国を大兄と扱ってきた。中国が世界の政治経済の主軸になるということは、韓国が過去の小中華の位置に転落する可能性が高いということを意味する。そのような背景を考えると、若者の中国研究ブームは中国をまともに理解し、これからおとずれる厳しい状況に迅速に対応できるようにする、という歴史観と深い関係がある。

韓国はもはや、中国を知らなかった「井の中の蛙のような国」ではない

国家間の関係、特に未来に係わる部分を見通す時に最も良い指標は人的交流、特に若者の交流である。留学は、中でも重要な部分である。現在、韓国と中国の若者達はお互いの国の言葉を学ぶための留学の水準をすでに飛び越えた状態だ。
研究分野では、韓国留学生は、政治、経済、歴史、人文社会科学、考古学、音楽、美術、漢方医学などすべての分野にまたがっている。中国留学生の場合は、経済、経営、農業、林業、水産業など実用的な分野に集中している。

最近、日本では国際舞台での中国の経済的役割が大きくなることに比例し、中国脅威論が目に見えてきた。その観点から見れば、最近の韓国で熱くなっている中国ブームは、危険に見えるだろう。「韓国はどうして中国を脅威に見ないのか」という疑問が沸くだろう。そのような憂慮に対しては北京大学で知り合った、宋時代の美術学を勉強する韓国の若者の言葉で、答えられる。
「中国を学び、かつ乗り越えようという若者達が大勢いる限り、決して中国を脅威としてとりあげる必要はない。もはや、韓国は19世紀以前の韓国、すなわち国際情勢や中国さえよく分からなかった井の中の蛙の国ではない。中国の成長を手をこまねいて待つのではなく、中国人よりも中国をもっと熱心に理解し、学ぶ。そうすれば、中国は朝鮮半島の未来として浮上する」