IoT, AI等デジタル化の経済学

第71回「IoTによる中堅・中小企業の競争力強化に関する研究会(NO.10);モデル企業7社の事例と地方実施による全国展開(2/3)」

岩本 晃一
上席研究員(特任)/日本生産性本部

井上 雄介
東京大学大学院経済学研究科

3 研究会に参加したモデル中小企業7社の試行錯誤の体験(続き)

3-4 株式会社ダイイチ・ファブ・テックのケース

3-4-1 会社の概要:

ダイイチ・ファブ・テックはレーザ加工技術による精密板金・製缶加工、プレス加工、プレス用仮型製作を行う部品製造メーカーである。当社には次のような特徴がある。経営面では、借入れは全て公的資金を用いることで着実な経営を継続している点である。今回のIoTに関する技術導入についても、国が提供する公的補助金を積極的に利用することで、堅実な経営と技術革新を並行して行っている。生産面では、顧客のニーズに応じるため、部品1個から数百個単位でも受注を行っており、また無駄な材料コストをカットし、時間短縮を可能とする製品見積もりを提供することで、製品付加価値向上に日々邁進している。売上高は平成12年以降、売上を伸長させており、3億円台に到達しつつある。大量生産から小ロット生産まで、変種変量生産・短納期注文の要望に幅広く答えることが、他社にない独自の強みである。技術面では、CO23次元レーザ・YAGレーザ複合機など加工技術の3D化を中心に、各種材料を問わず、広範な機械加工を行っている。品質面でも、ISO9001を2000年に取得し、また3次元測定機を完備することで良質な製品の提供を実現している。

図表3-7:ダイイチ・ファブ・テックの企業概要
図表3-7:ダイイチ・ファブ・テックの企業概要

3-4-2 解決すべき課題「設備稼働データを活用した『工場の見える化』推進」

2016年における同社の新規計画は「IoTを活用した3Dデータ機器による非量産精密製缶の供給体制の確立」であった。これは、自動運転技術などAI、IoT技術が発展していることから、「変革の波」が近づいているという危機感と、更なる発展を目指してこうした技術を活用しようという意欲があったためである。これが同社はIoT研究会に参加した動機である。

3-4-3 IoTを用いた課題解決「稼働データの収集と人材の育成」

研究会でIoTを実際に活用する企業の“生の声”を聞いて、ダイイチ・ファブ・テックは、データ収集とその作業を行う人材育成が必要だと痛感した。生産プロセスの問題点を発見する必要があるため、稼働データを集めなければならないが、「どのように、どのようなデータを取得すれば良いのか」が判然としなかったからだ。そこで同社は、茨城県工業技術センター主催「IoT研究会」が提供する「工業設備の見える化を睨んだIoT化技術の修得コース」およびCQ出版社主催「ラズベリーパイのIoTへの応用」に参加した。これはデータ収集に関する講義と実習を行い、データ管理の人材を育成することを目的としており、ダイイチ・ファブ・テックにとって貴重な機会であった。

3-4-4 人材育成及び設備投資に対するリターン

同社は研修やセミナー、展示会などに積極的に人員を派遣しており、人材育成に積極的である。派遣したのは当初は営業担当者であったが、県のコーディネータの指導を受けることで、IoT導入に必要なスキルが徐々に身についたのである。その成果もあり、早速データ収集の第一段階に取り組んだ。加工機(レーザ・プレス・ベンダー・溶接ロボットなど)に無線LANを介して非接触の電流計を取り付けることで電気使用量の把握が実現した。各稼働データを測定し、オンラインでパソコンに送付することに成功している。データの一元管理が可能となったことで、製品ごとの生産過程における設備稼働情報が徐々に“見える”ようになったのである。

図表3-8:電力使用量の測定手順
図表3-8:電力使用量の測定手順

現状、工場内の稼働データすべてを把握しているわけではないが、稼働率の上昇によって生じる利益を概算すると次の通りである。これまで生産現場では、正社員14人、パート6人が作業している。労働時間をそれぞれ8時間、6時間とした上で、稼働率を5%改善したとすると、1日当たり7.4時間の削減が可能となる。すべての設備にセンサーを取り付けるには80万円ほどを試算しているが、収集したデータの活用で十分回収可能といえるだろう。

今後もこうしたデータ収・分析を積極的に行うためにも、工学部出身者または海外ソフトを利用できる英語能力が堪能な人材を採用していきたいと考えている。

3-4-5 中小企業の「適切」なIoTの導入法とは?

ダイイチ・ファブ・テックが今回取り組んだIoT導入のキー・ファクターは、既存の3D機器を中心に生産体制の「見える化」を目指したところにある。IoTを単に導入すれば良いわけではない。手段としてのIoTを、効率的に活用できるよう、自社の課題と向き合うことが必要である。人材育成・データ収集と段階的に生産現場改革を行う同社の成長は、IoTを導入プロセスの1つの指標となるだろう。

3-4-6 進捗状況と次の目標

今期ダイイチ・ファブ・テックは、非接触電流計の取付けを行い、稼働率の測定に成功した。取り付けたのは社内設備の一部ではあるものの、社内の製造ラインをデータで徐々に把握できるようになったのである。今後は観測設備数を増やし、長期的にデータを収集することで、設備の稼動状態を正確に観察していく予定である。これにより同社は、得られた稼働データを加工・分析し、活用することで、最終的な目標である設備稼働率の平準化に繋げることを実現していくという。集めたデータを「どのように利用していくのか」が今後の鍵を握ることになる。「工場の見える化」を実現することで、ダイイチ・ファブ・テックの他社に負けない高付加価値の製品供給に期待したい。

3-5 しのはらプレスサービス株式会社のケース

3-5-1 会社の概要:

しのはらプレスサービスは、プレス機械のメンテナンス業から知識集約型ビジネスへの転換を目指す総合メンテナンスエンジニアリング企業である。同社の主たる事業である特定自主検査についてみれば、マーケットシェアの約10%に相当する年間約1万6000台を取り扱っている。特に「動的な」情報・データを顧客に提供することで、プレス機械設備の安定稼働をサポートしているのである。

図表3-9:企業概要(しのはらプレスサービス)
図表3-9:企業概要(しのはらプレスサービス)

3-5-2 課題

しかしながら、プレス加工業界では、機械メーカーと修理業者という2つの事業を中心としており、受注業務が中心となる。現況のままでさらに事業規模を拡大していくには、「第3の市場」を開拓する必要がある。その重要性を常に感じていたしのはらプレスサービスは、1973年の創業以来、“オールドビジネス”から“ニュービジネス”に転換していくことで、高付加価値を提供するための新たなビジネスモデル創出に取り組んできた。このように、高付加価値のサービスを提供するには、つまり、同社が目指す「知識集約型ビジネス」を推進するには、ビッグ・データ・IoTを活用して、提供するサービスの付加価値を高めることが必要なのである。IoT研究会に同社が参加した理由は、そうした可能性を社内で実現していくためであった。

3-5-3 現在の取組み状況

既に同社は、センサーをプレス機械に取付けるなど、試験的な運用を開始している。現在までに行った取りくみについては以下の通りである

現在(2018年2月)、しのはらプレスサービスではIoTシステムを導入したプレス機械を、顧客に試験的に3台販売しており、稼働している2台の動向を観察している。顧客に稼働状況と使用した感想をヒアリングしたところ、これまでとは異なる結果が得られたのであった。それは、「異常値をセンサーが検出すれば停止するよう点検システムのIoT化を行ったところ、システムが稼働してもすぐに停止してしまう」という顧客からの声であった。単刀直入にいってしまうと、原因は、1つは偏心荷重で閾値を超えてしまい、またもう1つは機械内部の油で汚損があったためであった。つまり、導入したIoTに問題はなく、そのプレス機械の構造に問題があったのである。IoT導入による直接的な成果とは言えないまでも、センサーによるデータの取得を行うことで作業機械の動作を安定させ、付加価値を高める成果を得られたのであった。

3-6 金属技研株式会社のケース

3-6-1 会社の概要:

金属技研株式会社は、金属熱処理を中心に各種構造物の設計・製作技術を提供する部品メーカーである。金属加工業界のリーディングカンパニーとしてトータルソリューションの実現を目指す同社は、1984年にHIP(熱間等方圧加圧)処理技術を用いたトータルサービスを開始したのを端緒に、大型MC(マシニングセンター)・ホットプレス・超塑性成形装置を導入するなど、最新の技術を導入し、熱処理事業に取り組んでいる。

図表3-10:企業概要(金属技研)
図表3-10:企業概要(金属技研)

3-6-2 課題

同社の課題は、こうした最新技術をさらに推し進めると同時に、設備全体を整備し、効率的な稼働を実現することであった。同社の課題は①社内の「見える化」、②ロボットなどの導入による省人化・自動化、③設備予兆管理、④生産管理システムなどの導入であるという。いずれの課題にも共通しているのは、人為的なミスや労働者の能力に差があることで作業内容が統一できないという問題である。そこで同社はIoTを導入することで作業工程を自動化し、また労働者を削減し、人為的ミスの低減及び人件費のカットを目的と設定した。

3-6-3 現在の取組み状況

IoT研究会での助言を受けて、金属技研は省人化と自動化に向けて計画を実行に移した。そこでまず取り組んだのが、土岐工場の熱処理炉の自動化システム構築および熱間形成品の入れ替え作業自動化であった。土岐は立地条件が悪く、また人が少ないため作業者の高齢化が深刻な課題となっている。実際、作業内容に占める重労働の割合が大きく、安全面に関しても「ヒト」の作業を縮小していく必要がある。具体的には、熱処理炉においては、無人搬送車(AGV)システムおよび自動入炉機能の導入および熱間形成品においては、ロボットの導入をしていくことで課題の解決を目指している。これらを実現するため、AGVシステムのソフト開発などの設備投資として1億円の投資を行った。さらに付属設備の敷設などに追加で1500万円を計上し、導入に着手している。またロボットの導入については、8000万円の投資を行った。こうした投資に対するリターンとして、現場作業員を削減し、別の業務に振り替えるなど業務形態が変わっていくことが予想される。現在はIoTを推進するため、システム部門の増員を検討しているため、人員削減の効果が即座に得られるとは考えていないが、長期的にIoTによる付加価値に期待している。

同時に、設備予兆管理や生産管理システムを整えるための環境構築にも乗り出した。予兆管理については、ポンプ・ヒーター・プレス軸といった炉関連の部品やマシニングにおける主軸など使用頻度の高い設備機器にセンサーを取り付けることで予兆管理を行うという。その際、得られたデータを使って加工最適条件を抽出するなど多面的な活用が可能となる。生産管理システムでは、各作業工程間の連動を図るため、刷新を行う予定である。これまで機械設備それぞれが個別に稼働し、ネットワークにもつながっていなかった。今後は工場のFA化を進めるべく、工場内にある課題を共有して効率化を図るという。

3-7 日本リファイン株式会社のケース

3-7-1 会社の概要:

日本リファインは、使用済みの有機溶剤の精製リサイクルや工業グレネード有機溶剤の高純度化といった精製リサイクル業務と排ガス、排水等の装置を設計・製作する環境エンジニアリング業務を柱とする化学メーカーである。 同社の取扱品目は、炭化水素化合物・アルコール類・エステル類・ケント類・エーテル類など多品目に及ぶ。これらの溶剤を高い精度で分離操作を行い、リサイクル・廃水処理を進めることで資源として完全に循環することを目指している。

図表3-11:企業概要(日本リファイン)
図表3-11:企業概要(日本リファイン)

3-7-2 課題

このように再資源化および環境保全に貢献している同社は、多品種生産であることで生じる高い人件費を削減し、作業の効率化を課題としている。そこで、同社がIoTに期待するものとして、①自社工場における蒸留設備の運転管理・保守管理にお改善・省力化と②販売設備の遠隔管理・トラブル予兆・継続保守などに因る装置の付加価値アップであった。これまでに同社はITを自社に導入するため、トラブル発生を見越して、PLCやソフトやタッチパネル画面の更新などを遠隔で操作・変更できるようにシステムを導入するなどしてきたが、セキュリティの問題から常時オンラインとはしておらず、また情報共有も同時に行うことができていなかった。また一部顧客ストレージタンクの液面および設備稼働状況をメールで定期的に送信していたが、いずれにせよ、「どういったデータを収集・分析すれば、効率的な稼働環境を構築できるのだろうか」という課題に苦戦したのであった。

3-7-3 現在の取組み状況

こうした状態を解決するため、IoT・IT技術の可能性に期待した日本リファインは、作業の自動化を目指したのである。特定の溶剤を蒸留精製する際に、無人化管理体制の構築が計画されている。これまで4時間ごとにオフラインで「ヒト」の手でサンプリング・分析をしていた作業を自動化するため、昨年12月から実液サンプルによるラボ試験を開始して、現在ではセンサーでの管理を試験的に実施する段階に到達した。ラボ試験を行って、テストで得られた結果と既存の結果とで相関をとることで、センサーの選定、開発が終了しており、計画は順調であるという。さらに、計装機器の追加および付属設備の配管工事・電気工事・ソフトの変更機能などで合計800万円の設備投資が決定した。次期の計画としては、6月に蒸留装置の改造が完了するので、翌7月には試運転がはじまる。現段階では、データの活用・応用にどんな方法があるのか模索しているのが現状だが、取得したデータをネットワークでつなげて、工場から遠隔で技術開発センターで収集し、プロセス解析することを検討している。

こうした設備の導入が実現することで、これまで人間が行っていた作業を削減、将来的には無人化し、同社は生産効率を引き上げが可能となるだろう。IoT導入での投資対効果はいまのところ人件費の削減が考えられるが、その他にもデータの分析が進めていくことでサービスの付加価値が高めていくことができれば、他社との差別化が実現する。環境保全に取り組む同社のIoT導入が今後どのような成果を生むのか、同社による設備拡張の過程に注目していきたい。

2018年4月9日掲載

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