IoT, AI等デジタル化の経済学

第35回「IoTが雇用に与える影響;OECDレポート」

岩本 晃一
上席研究員

IoTやAIなどデジタル技術が雇用に与える影響を論じる文献は、いま世界中で次々と発表されている。いままさに世界のホットイシューと言ってもよい。そのなかで、将来の推計値を算出し、「雇用の未来(Future of Jobs)」について述べている文献は、知り得る限り現時点で十数本程度である。今回は、そのうち、2016年5月に発表されたOECDレポートの要約を掲載する。

デジタル・エコノミーにおけるオートメーションとそれに依存しない労働
(Automation and Independent Work in a Digital Economy),
Policy brief on the future of work, OECD, 2016年5月

図表1:10の使用事例による、インダストリー4.0の労働力に対する効果
A
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デジタル化によるルーチンやマニュアル作業の需要の減少と、低スキル、高スキルタスク、問題解決、対人スキルの需要の増加。 B
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デジタル化による、代替作業の技術的潜在力には疑問符。9%の職種が自動化が高リスクな一方、他25%の職種が増加し、50%が自動化で大変化すると予測。
C
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デジタル化による組織新形態の土台作り。プラットフォーム経済は働き手の仕事マッチングには効果的だが、賃金・労働者権利・社会保障利用には疑問符。 D
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デジタル化で多くの人に機会が提供されるが、就職や職業の質、キャリアの可能性において不平等が増えるリスクもあり、働き手が新しい機会を掴み、挑戦に答える政策が必要。

1. デジタル化による仕事の変化

人口動態のシフト・グローバリゼーション・新技術によって仕事やキャリアの質が変化し、デジタル化はこれから10年の未来の仕事に重要な影響を及ぼす。コンピュータの力・ビックデータ・インターネットの普及・人工知能(AI)、IoT・オンラインプラットフォームの増加により、未来の仕事の見通しが急速に変化しており、仕事の不安定、不平等の拡大、技術的発展に伴う大量の失業のリスクに対する議論が過熱している。

図1:EU、日本、米国における仕事のかたより
2002-2014年の職業カテゴリー別雇用ポイント(%)の変化
図1:EU、日本、米国における仕事のかたより
出典:OECD EU-LFS日本の労働力調査、BLS流動人口調査

1)高いルーチンの仕事:人工知能やデジタル化で課題を突きつけられる。
2)中間水準のスキルを含む仕事:すでに空洞化し、自動化で、仕事の水準に関係なくルーチンの仕事の本質的な部分が機械に代用される。
3)高いスキルでルーチンではない仕事:働き手の需要はほとんどの先進諸国において大幅に増大し、新しい情報や人間関係スキル、体系化されていない問題の解決を伴って働くような作業が生じる。
4)低いスキルでルーチンではない仕事:自動化が難しい介護や個人的なサービスなどの働き手の需要はいくらか生じる。

最終的に、多くのOECD国家で、技術水準によって仕事が偏向化し、他の構造変化(グローバリゼーション、人口の変化)などが同時的に起こるためどのように偏向化が展開するかは明確ではないが、未来では、標準的でない問題を解く認知技術を持つことが高価値であり続けるだろう。

2. どのくらいの仕事が置き換わっていくのか?

既に1931年に技術革命に伴う失業の発想があり、第二次機械時代の技術革命は、いくつかの特別な仕事が置き換わるリスクだけではなく、雇用全般で衰退を招く可能性があると指摘される。ルーチンの仕事が自動化されるだけではなく、最近まで自動化できないと考えられていた認知技術も危険にさらされる。たとえば、株式市場の変化の標準報告書を書く仕事などが挙げられる。米国や他の先進国の全仕事のほぼ半分は、次の10年や20年内にコンピュータかアルゴリズムに代用される。憂慮予測に対する批判として、総じて職業は仕事内容に大きな変化を起こす自動化が行われる見込みはない、とする専門家もいるが、同じ職業で仕事を持つ2人の働き手は、彼らの作業が異なる構成で、たとえば、より対面相互作用や自律性を求めるため、同じ作業は行わない。自動化リスクがある仕事の分析に対するより良いアプローチは、各職業におけるすべての仕事の平均的作業内容ではなく、個々の仕事の作業内容を分析することであり、潜在的に自動化リスクがある仕事の共有に関して、より低い数字が得られる。

図2:自動化による失業リスク:批判されるほど深刻ではないが、多くの仕事は根本的に変化するだろう 自動化が高・中リスクの仕事の労働者の割合
図2:自動化による失業リスク:批判されるほど深刻ではないが、多くの仕事は根本的に変化するだろう 自動化が高・中リスクの仕事の労働者の割合
注)英国データはイングランドと北アイルランド、ベルギーデータはフラマン人コミュニティのみ
出典:国際成人度調査(PIAAC)2012と、Arntz, M.T.Gregory, U.Zierahn (2016), 「OECD諸国における仕事の自動化によるリスク」OECD社会、雇用、移民労働者論文、No189, OECD出版、パリに基づくOECD推計

図2では、70%以上の作業が自動化される仕事は、国平均で9%の仕事が自動化リスクが高く、(上はオーストリア、ドイツ、スペインの約12%、下はフィンランド、エストニアの約6%以下)、代用による高リスクの働き手の共有の各国の相違は、仕事の組織化の方法における相違に反映されており、相互作用が少ない仕事が多い国は自動化リスクが高い。国による違いも、技術の経済における重要な役割の達成度に反映され、デンマーク、日本、スウェーデンは、比較的GDPの多くの割合を使ってICT投資をしており、すでにいくつかの仕事や作業が自動化済み。共有仕事の多くは、完全な自動化は低リスクだが、自動化できる作業では重要な共有箇所(50%〜70%)であり、全体では代用されないが、作業の多くは仕事の実行方法が急速に変化しており、著しく設備を一新し、働き手は適応する必要性が出てくる。自動化リスクは、高等教育を受けた働き手は5%以下、より低い中等程度の教育を受けた働き手は40%と高リスクで、全ての国で低教育水準の働き手は置き換わるリスクが高く、自動化は特定の働き手に対して不利益を強要する。

3. 技術革命による失業?

広範囲に及ぶ技術革命による失業のリスクを考慮しない理由は、以下のとおり。
1)ICT部門で直接作られた新しい仕事は、置替仕事を完全には相殺せず、多少時間がかかっても、技術アプリケーションの発達や他部門への拡大、コスト削減、収入や富の増大を生む。実際に高度な技術産業で発生した各仕事に関して、約5つの追加補完仕事が生み出されるという推測もある。
2)仕事の自動化の推測は、典型的に実在する仕事にとって代わる技術の理論上の可能性に依っているが、経済において仕事における技術の全体の影響を多く見積もりすぎる傾向にあるため、それらの技術が実際に適応できるかどうかを無視している。実際は、技術の代用は期待通りにいかず、新しい技術の導入は経済、法律、社会的障害に対して、ゆっくりとしたプロセスをとることが多い。
3)特定の国の労働の必要性を低くしても、労働時間を減らすだけで、必ずしも仕事の数を減らすことにはならない。これは多くの欧州諸国が過去数十年で経験したこと。

たとえ技術革新による失業のリスクが考慮されなくても、職業の構造に対する仕事の置き換えや変化は、多くの仕事が一新されるのに加えて起こることである。これらの変化の重要性は、産業構造、仕事の組織、労働力とスキルの組み合わせで、異なるものを反映し、国によって変わり、それらの変化は、新しい仕事に移行できない働き手に直接の影響を及ぼすだろう。もし、労働の市場の偏向がより促進したら、働き手によっては、成長の邪魔をする将来性の少ない低いスキルや低い賃金の仕事にとどまるのをやめ、十分な収入と幸福をもたらす仕事を分類する。

4. より広がるワークライフの柔軟性か、より大きな仕事の不安定性か?

インターネットは、プロダクトとタスクを促進し、労働の需要と供給をより効果的に適合し、働き手に対して、フリーランスの柔軟性と恩恵を享受する機会や他の仕事における追加仕事の収入を増やす機会を多く作り出している。サービス提供者が、別の複雑なタスクを、世界中の働き手に割り振る安くてルーチンの小さな作業一式に分割することで、「単発仕事(gig)」「オンデマンド」「シェアリング」、より一般的な「プラットフォーム経済」が繁栄した。(AirBnB, Uber, Lyft, TASK Rabbit, Youpijob, frizbizなど)まだ比較的規模は小さいが、「プラットフォーム経済」は、非標準化の労働形態や特に独立労働に主に基づき、標準賃金や給与雇用と比較して非標準化仕事の働き手は、社会的保護権利、訓練が少なく、キャリアアップに弱い立場であり、ローンやクレジット利用制限があり、より不安定な立場に直面する傾向にしばしばあるが、このことがプラットフォーム経済の仕事固有の不安定さを反映しているかどうかや、一般的により不安定な仕事に最終的に行き着くであろう働き手がこれらの仕事の新形態の中で行き過ぎた象徴になる傾向があるかどうかを議論するには早すぎる。不幸にも、現在の有用な雇用のデータは仕事の新しい形態における成長やより拡大する不安定さに関連する新しい形態の範囲を詳細に検討するには適していない。

図3:欧州における年齢と職業による自営業率の変化
図3:欧州における年齢と職業による自営業率の変化
EU28地域における2011年から2013年のパーセンテージ変化
出典:EU-LFSに基づくOECD推定

2011年〜2013年のEU28地域、18歳〜64歳就職人口の中で、自営業の割合は0.5%減少したが、これは自営業の高い割合を占める農業分野の重要性の減少を部分的に反映している。職業によっては、技術者と準専門家の間のすべての仕事で成長部分を自営業が占めていた。国によって相違が見られ、ドイツ、オランダ、イギリスにおいては、全体の就職の割合として自営業が長い間上昇している。自営業の共通データのソースでは、1)基本的に独立した仕事だけを行う独立した働き手(フリーランスビジネスオーナー、独立契約者)と、2)従業員ではあるけれども、自分自身をフリーランサーとしている人(多角的な労働者)、3)雇い主がいて、レギュラーまたは単発の仕事ではフリーランスの仕事を持っている人(アルバイト、日雇い)との区別をしていない。2014年〜2015年の間、米国全体の就職の中で、多角的な労働者の割合は、6%から9%に増大し、一方で他の独立した仕事の形態はこの期間の間、減少傾向にあった。「プラットフォーム経済」における働き手が多角的な仕事や収入源をより持つようになり、伝統的な労働市場制度の役割や意味が変化し始めている。法定内の労働時間、最低賃金、失業保険、税、利益は未だに伝統的で唯一な雇用関係の考えのもとにモデリングしている。加えて、独立した仕事がより普通になり、増えた働き手を、労働協約でカバーできなくなるだろう。彼らは、従業員に有用である失業保険や年金、健康計画の資格がなく、クレジットを手に入れるのに困難が生じるかもしれない。現在、19以上34以下のOECD加盟国では、自営業の人が失業給付金を受ける資格がなく、10の国では、労働傷害給付金を受ける資格がない。たとえ資格があったとしても、多くの国での自営業は、豊富な給付金は受けれず、加入は任意であり、保険給付金、疾病、妊娠、失業、高齢、障害、給付金も同様である。

5. 不平等の増長のリスクはあるのか?

無制限で多様で変わった雇用形態での職業構造において仕事が高スキルか低スキルかの偏向は、高賃金か低賃金かの賃金構造の偏向を増長し、いくつかの国では、中水準スキルを持つ働き手の需要の減少は、より給与の低い仕事で競争を強め、収入分布の下半分は賃金を抑えられると同時に、高水準のスキルを持った働き手の需要が高まり、分布のトップでの賃金は上がるだろう。それが進行すると、ワーキングプアや低賃金の持続を経験するリスクは増大する。製造の資本集約的形態への移行も、GDPの労働の割合が減少し、不平等の増大に拍車をかける。職業構造の変化は、地域格差を生み新しい仕事は高いスキルを持つ働き手が多い都市部で作られ、そうではない地域では、仕事が代用されるか、失うかである。それらの進展に直面し、税金や給付金計画と同様、労働市場とスキル政策もスキルが適用されるにつれ労働流動性と同様に最適化の必要があると同時に、低賃金の仕事が貧困から脱出できるような十分な収入を提供できることを保証する必要もある。

2016年12月28日掲載

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