IoT, AI等デジタル化の経済学

第7回「IoT/インダストリー4.0が雇用・経済に与える影響に関するドイツにおける研究の最新状況 (NO.4)」

岩本 晃一
上席研究員

ドイツ・バーデン=ヴュルテンベルク州シュトゥットガルト(Stuttgart)のフラウンホーファーIAO研究所(Fraunhofer-Institut für Arbeitswirtschaft und Organisation)のC研究員は、インダストリー4.0を巡る雇用問題は今ドイツでとても重要な課題になっているが、フラウンホーファー研究所は、雇用問題に関する数字を出すようなことはやらない、と強調した。

C研究員へのインタビューに対する返答内容をとりまとめてみると、以下の通りである。

1 インダストリー4.0に関する雇用問題への科学的アプローチは難しい

連邦政府からの要請で、当研究所に「労働の未来」研究所(Future Work Lab.)を作ることになった。このように、インダストリー4.0を巡る雇用問題は今ドイツでとても重要な課題になっている。だが、その科学的アプローチはとても難しい。ドイツでは、それはまるで「水晶玉を覗き込むようだ」(注1)と言われている。

まず将来を予想するシナリオを作る。それをデルファイ方式で修正する。現時点で、我々の研究所は、ここまでしか進んでいない。ドイツ国内でインダストリー4.0に取り組んでいる企業のマップを作る。その約600社の工場長宛にアンケート調査を行う。それは、マクロ統計のような緻密なものでなく、トレンドを把握する、といった程度でしかない。ましてや、数字などはない。もし将来、革新的な技術が出現すればどうなるか、といったことまで考慮されていない。質問の中身は単純である。たとえば、作業員がタブレットを持つことをどう考えるか、という質問に対し、同意、不明、不同意という3つの答えのなかから選択してもらう、といった具合である。

これまでいろいろな機関から雇用問題に関する数字が出されてきた。たとえば、ダボス会議では、EUで700万人の雇用が失われるとした。ドイツのボストン・コンサルテイングは数十万人の雇用が増えるとした。オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授は47%が失われるとした。生産性が28%上昇すると発表したところもある。サイバネテイック・サイエンティストは、人間のやることは全て自動化できるという思い込みを持っている。

我々、フラウンホーファー研究所は、こういった数字を出すことから手を引いている。我々は数字には関心がない。我々は数字を出すようなことはやらないのだ。

2 インダストリー4.0導入に伴う作業員のトラブルを解決することに重点

生産現場の自動化を進めることは重要である。ドイツの人口は減少しているから、生産現場で働く人は減っていく。

当研究所の研究は、IoTが作業員にどのような恩恵を与えるか、生産現場で人間がどのように動くか、どのようなトラブルが発生するか、を見ること。そして、そのトラブルの改善策を、企業側と作業員が一緒になって考えることである。そして、そうした1つの事例を、100の企業に広めること。そのために我々が企業のなかに入っていく。

脚注
  1. ^ 私が、IoTを巡る雇用問題は、まるで「雲を掴むようだ」と日本でよく使う表現で言ったことに対して、ドイツ人がよく使う表現で応えたもの。魔女が持っている水晶玉を覗き込むと、そこには未来のいろいろな景色が見えるが、それは本当の未来なのか? 単なる幻影ではないのか? という状況を例えている。

2016年4月12日掲載

この著者の記事