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新型コロナウイルスによるグローバリゼーションの逆回転(動画)

藤 和彦
上席研究員

藤上席研究員による新型コロナウイルスの世界経済へのインパクトに関する分析をお届けします。
これまで世界経済のエンジンだったグローバリゼーションが逆回転を始めるなかで、世界はどう舵を切ればいいのか。
不安定な中東情勢は、世界的スタグフレーションのリスクとなるのか。
藤上席研究員のコラムも併せてご覧ください。

本コンテンツはrietichannel(YouTube)にて提供いたします。


新型コロナウイルスによるグローバリゼーションの逆回転

新型コロナウイルスの感染拡大が日本でも世界でも話題になってからもう1カ月以上になりますが、これがいつまで続くのかまったく分からない状況が続いています。日本でも、この話を収録する時点(4月6日昼)では、緊急事態宣言がいつ出るかという状況ですが、世界を見渡せば、逆に緊急事態宣言が出ていない国のほうが少ないぐらいです。

少し前まで、世界はこれからグローバリゼーションが進む、ヒト・モノ・カネの流れがますます加速化すると言われていたのが、ものすごい勢いで逆回転を始めているというのが現状かと思います。これにつきましても、例えば楽観的な見方で、2020年の夏、または秋までに終息するということであれば、元のシステムに戻ることもあり得るのですが、新型コロナウイルスの感染については、例えば1年以上続く、100年前スペインではやったスペイン風邪の例に倣えば1918年から1920年と3年間も続いていますので、もし仮に3年間世界が国境の壁を高く上げたときには、世界のシステムが変わってしまうのではないかと思っています。

21世紀に入ってから、世界はグローバリゼーションを成長のエンジンにして経済を順調に発展させてきましたが、このグローバリゼーションという手段がなくなった場合、果たして各国はどうやって経済を維持・発展させていくのかという意味で、非常にチャレンジングな課題をこれから抱えるのではないかと思います。グローバリゼーションは、ヒト・モノ・カネの流れが非常に安いコストで安全に流通できることが前提だったのですが、今回の新型コロナウイルスの影響によって、世界全体である意味では不必要に膨張してしまったサプライチェーンが、いかにもろくも寸断されてしまうのかが分かったので、逆に世界各国はむしろこういうリスクも考えた上で最適なサプライチェーンは何かと考えた場合、皮肉なことに新型コロナウイルスの感染拡大によって、これから国家というものは無くなっていくという論調と違い、むしろ19世紀以来の遺物と言われていた「国民国家」がどうやって役割を果たしていくのかが非常にクローズアップされている。「国民経済」(national economy)という形に戻っていく可能性があります。

ですから日本も、これまでの政策の良いところは残しながら、大きくパラダイムシフトが起こる時にあって、少しでも早く、最低限でもこの新しく変わる電車に乗り遅れないようにするにはどうしたらよいかを、これまで以上に柔軟な発想で考えていかなければならないと思っています。

不安定な中東情勢は世界的スタグフレーションのリスク

私自身は原油・中東情勢を長年見てきましたが、世界の石油需要の3割が無くなってしまうということで、2020年に入ってから原油価格が暴落しております。それで今OPECプラス、場合によっては米国まで入って、三大産油国の間で生産カルテルを作ろうという、これまでにはまったく想像もできなかったことが起きているわけですが、私が今心配しているのは、コロナウイルスによって原油の需要が落ちると同時に、タイムラグがありますが、むしろ原油供給も大幅削減するということもあるのではないかということです。

その理由は簡単でして、今原油価格が暴落していますので、世界の産油国はどこも赤字で大変な状況です。特に中東の産油国は、原油を売って得られた収入で国民にばらまきをして、それによってなんとか国を維持するという、ある意味非常に脆弱な国家体制となっていますが、無い袖は振れない、石油の値段が下がって国民に対してアメを提供できないときに果たしてどうなってしまうのか、ということだと思います。

その中にあって、私が一番心配しているのはイラクです。イラクはOPEC第2位の生産国で、日量400万バレル近い原油を世界に供給していますが、あまり日本では知られていませんが、イラクは2019年10月からずっと無政府状態が続いています。2019年10月にすでに抗議デモは起こっていて、その責任を取って前の首相が辞任したのですが、2020年4月に至ってもまだ後継内閣はできていない状況です。さらにイラクの場合は、産油国の中でも、国家歳入に占める原油売却代金の割合が95%と、今回の原油価格の急落に一番大きな影響を受けています。それによって、一部の報道では、原油の値段が下がってますます公共サービス、とりわけ医療サービスが受けられないということで、イラクは早晩、内戦状態、内乱状態に入ってしまうんじゃないかと言われています。ただでさえ新型コロナウイルスで石油の供給が危ぶまれている中で国内がメルトダウンしてしまった場合には、イラクはどうなるんだろうか。

2019年9月14日にサウジアラビアが、まだ誰がやったか分かってないのですが、大規模な攻撃を受けて日量500万バレル以上の石油が無くなりましたが、瞬時に回復して事なきを得ました。今回もしイラクで政変が起きれば、相当長期間にわたって日量400万バレルの原油が世界の石油市場から無くなってしまう。さらにイラクに加えてサウジアラビア、カタールとかクエートでも新型コロナウイルスの感染爆発がありえますので、もし感染爆発が起こって石油プラントでも従業員が操業できないとなれば、場合によっては先ほど原油の需要が3000万バレル無くなったといわれていますが、供給サイドにおいても最低でも2000万バレル以上の原油の供給に支障が出てくるかもしれない。そうなりますと、今原油価格は底値で推移していますが、この新型コロナウイルスの不景気で各国の中央銀行が金融緩和していて、この金融緩和したお金がすでに行き所がなくなっておりまして、もし原油で中東の未曾有の供給リスク・地政学リスクが起こり、原油市場にお金が入れば、あっという間に原油価格が反転上昇する。不景気の中での物価高、いわゆるスタグフレーションが起こりかねないという状況にあります。そういう意味で、新型コロナウイルスの問題も大きいのですが、政府が今実施しております大型緊急経済対策の悪影響がいろんなところで出てくるかもしれないということで、ますます政策の舵取りが難しくなっています。いずれにしてもこのように先行きの見えない不透明な状況は1年2年続くということで、しっかりと腰を落ち着けてその上で果断に政策を打っていくことがますます重要になっていくんじゃないかと思っております。

Q&A

Q:グローバリゼーションそのものが反転するなかで、日本はどういう手を打てば良いのでしょうか。

A:これはもうグローバリゼーションの反対を行くしかない。グローバリゼーション自体が起こる前の、ナショナルエコノミー、まあ日本国一国である程度需給が回っていくという姿を描いていかなければいけない。日本の場合はバブル崩壊以降30年にわたって需要不足が続いています。この需要をどう喚起していくかは、過去にもいろいろやってきましたが、うまくいっているわけではない。特に最近はインバウンドと称して外国人観光客にきてもらって少しでも内需を振興しようとしてきましたが、それができなくなってしまった。一部の論者もおっしゃっていますが、なかなか日本というのは人不足になっても賃金が上がらないという状況も含めて、所得の再分配も含めて、どうやって内需を振興していくか本腰を入れてやっていかなきゃいけないと思っています。

Q:内需の振興というのは具体的にどういう分野で考えられるでしょうか。

A:難しい問題ですけど、一般には企業は相当多くの内部留保を抱えていると、それに対して日本はなかなか労働分配率は上がらない、むしろ下がっている状況にあれば、昔の日本のように賃金を大幅に上げて、使いたくても使えない方にお金が回ることによって経済が好循環に回っていくのじゃないか。こういう政策は最近は社会主義的な政策ということで評判が悪いのですが、日本というのはかつて高度成長期でも、経済のパイが大きくなると同時に所得の再分配も併せて行われることによって奇跡の高度成長が行われたということを考えますと、やはり所得の分配、むしろ賃金水準の低い方にお金が回っていく、職業に対する安定感、できれば不正規から正規に変えていくということで、今までの短期的な効率性、コスト重視ってことを少し変えながら中長期のレジリエンス含めた経済全体の底力を上げていくという形で大きくピクチャーを変えていく必要があるのかなと思います。

Q:日本がピンチを逆にチャンスにするため、具体的にどういう分野にどういう投資をすれば、日本が再び輝ける国になると思いますか。

A:これは私の持論ですけど、日本は今、超高齢社会を通り越してこれから多死社会というか高齢者を中心に多くの方が亡くなっていく社会です。ですから、ある意味でこれまで以上に終末期ケアを含めたターミナルケアの分野が非常に重要になってきます。もともと日本を含め先進国はサービス経済化が進んでいて久しいわけですが、サービス経済化の中でケア、特に終末期ケアの需要が非常に高くなってきている。ただ残念ながら、介護部門、医療部門もそうですが、日本は他に比べて給与水準が低いことを考えますと、そういう方たちの給与水準を上げると同時に終末期ケアに対する価値というものを日本全体で上げていくことによって、そういうところに必要なサービスを提供されている方々に適正な賃金がいくことを考えればいいじゃないでしょうか。特に2040年に向けて、試算の違いがありますけれど、医療とか介護関係の従事者が全労働人口の2割以上になることを考えますと、むしろこの部分は社会における必要性とともに労働市場におけるボリュームも大きくなっているわけですから、これまで介護保険という形でやってまいりましたけど、逆に介護保険でやっているが故に、政府が例えば制度や点数を変えることによってむしろ市場に任せるより早く資源の再配分、所得の再分配ができるのではないかと思っております。

2020年4月13日掲載