人工知能で、人のこころは癒せるか?:人工知能(自然言語処理)フィードバック機能搭載型のインターネット認知行動療法(iCBT-AI)の抑うつ者に対する世界初の効果検証(無作為統制試験)

執筆者 宗 未来 (慶應義塾大学)/関沢 洋一 (上席研究員)/竹林 由武 (福島県立医科大学)
発行日/NO. 2016年11月  16-J-059
研究プロジェクト 人的資本という観点から見たメンタルヘルスについての研究 2
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概要

背景と方法:増え続けると予測されるうつ病への対応策として、インターネットを使った自習式の認知行動療法(iCBT)による介入が期待されている。しかし、現在利用可能なiCBTでは、短期的な抑うつは改善しても、効果が長期に持続しない、脱落率が高い、社会機能の改善につながらないといった課題が残されている。近年、AI技術の一領域である「自然言語処理技術(NLP: natural language processing)」の進歩により、この技術をiCBTに応用して、実施者に共感を示したり適切なアドバイスを行ったりするiCBT-AIが開発されている。本研究では、通常のiCBT群、iCBT-AI群、待機群の3群の間で、どの群が最もうつ症状の軽減効果が大きいかをランダム化比較試験によって比較した。主要評価指標として代表的なうつ評価指標であるPHQ-9を用いた。

結果:iCBT-AI群では、iCBT群に比べてエクササイズからの脱落は有意に低かった(p<0.005)。全データでの結果では、通常のiCBT群では、待機群と比べて、介入期間終了直後にうつ症状が改善する傾向(p=0.05)が認められ、3カ月後のフォローアップでは有意に低くなったが(p=0.01)、iCBT-AI群では有意な改善は認められなかった。一方で、PHQ-9の得点が10点以上(大うつ病性障害水準に相当)の基準を満たす者の割合は、介入期間終了直後には通常のiCBT群、iCBT-AI群ともに待機群に対して有意差がなかったが、3カ月後のフォローアップでは、iCBT-AI群においてのみ、この基準を満たす者の割合が低い傾向(改善傾向)が認められた(オッズ比0.67; p=0.08)。PHQ-9で10点未満の軽症うつ者に限った下位分析でみると、その減少は有意(オッズ比0.35; p=0.02)であった。以上から、iCBT-AIは非AI型iCBTに比べて短期的にはマイナス効果が予想される一方で、長期的には非AI型には認められない将来の重症抑うつ者を減らす可能性が示唆された。我々の知る限り、諸外国でもこのようなiCBT-AIの効果に関する文献報告は認めず、更なる検証が期待される。