企業のワークライフバランス推進と限定正社員制度が男女賃金格差に与える影響について

執筆者 山口 一男 (客員研究員)
発行日/NO. 2016年9月  16-J-053
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概要

本稿は職場における女性の活躍の推進に関してダイバーシティ経営が女性の賃金を高めるか否か、かつその結果男女賃金格差を減少させるか否かを検討する。特に焦点を当てるのは(1)企業が「性別に関わりなく社員の能力発揮を推進する」方針(以下GEO方針と呼ぶ)を持っているか否かの影響、またそれと合わせて(2)仕事と生活の調和(WLB)への企業の組織的取り組みがあるか否かと、(3)勤務地限定正社員制度を持っているか否か、の影響である。分析データは経済産業研究所の2009年の『ワークライフバランスに関する国際比較調査』のうち日本企業調査とその雇用者調査のリンクデータである。企業方針やその施策はランダムに割り当てられるわけでなく選択バイアスがある。本稿では個人の賃金結果に対する観察される決定要因について、方程式を全く仮定しない、セミパラメトリックな傾向スコアによる重み付けにより、賃金に影響すると考えられる企業特性と従業員特性による選択バイアスを除去する。またさらに観察されない企業特性の影響についてはそれが平均賃金には影響しても男女賃金格差には影響しないと仮定して、分析結果の因果関係の解釈をする。分析結果は以下のとおりである。

(1)GEO方針があれば、無い場合に比べ、女性の賃金は増大し、男女賃金格差は減少する。

(2)WLB施策の有無と勤務地限定正社員制度の有無の影響は共にGEO方針の有無に依存し、もしGEO方針があれば共にGEO方針自体の影響をこえて更に女性賃金を増大させ、男女賃金格差を減少させる。

(3)GEO方針の無い企業の場合はWLB施策の有無と勤務地限定正社員制度の有無の影響は異なり、WLB施策がある場合には無い場合に比べ男女賃金格差はかえって増大するが、勤務地限定正社員制度の有無は男女賃金格差に有意な影響を与えない。

(4)(3)の結果、WLB施策は「両刃の剣」で、GEO方針の有無により、男女賃金格差解消に正反対の効果をもたらすが、勤務地限定正社員制度は「両刃の剣」ではなく、GEO方針と結びつけば女性の活躍を推進し、また結びつかない場合でもマイナスの影響は見られない。