国家補助規制と投資保護義務の抵触問題

執筆者 玉田 大 (神戸大学)
発行日/NO. 2016年9月  16-J-051
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第III期)
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概要

本稿は、「国家補助」(State aid)の規制を巡る競争法と投資法の抵触問題を検討するものである。旧東欧諸国は、国有企業による独占・寡占状態を解消するために各種優遇措置による外資誘致を図った。ところが、EU加盟後、投資インセンティブは「国家補助」とみなされ、撤回を余儀なくされる。ところが、補助や優遇的地位を事後的に撤回すると、国際投資協定(IIA)上の公正衡平待遇義務違反が問われる。こうして競争法秩序(EU国家補助規制)と投資法秩序(外国人財産保護義務)の抵触が生じる。

投資仲裁(ISDS)の判断例から以下の点が明らかになる。(1)補助に関する「特定の約束」(specific commitment)や「特定の権限付与」(specific entitlements)がある場合には投資家の「正当な期待」が認められ、補助撤回によるFET義務違反が認定される。したがって、受入国の補助に依拠した投資活動を行う場合、投資家は補助内容と有効期限を明記した「特定の」約束を得ておく必要がある。(2)EU法と投資法の抵触問題は解決していない。投資仲裁で損害賠償命令を得たとしても、EU域内での執行には法的な問題が残る(欧州委員会に「新たな補助」と認定される)。EU域内で補助を前提とした投資活動を行う際には細心の注意を要する。