多国籍企業の輸出と海外現地法人売上高:同時方程式による分析

執筆者 伊藤 公二 (コンサルティングフェロー)/朱 連明 (早稲田大学)/行本 雅 (京都大学)
発行日/NO. 2016年8月  16-J-049
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概要

世界金融危機発生後の2010年以降我が国の輸出が回復しなかった背景として、多国籍企業による海外現地法人の生産・販売が輸出に影響した可能性がある。

本稿では、輸出と海外現地法人販売額の同時決定性に鑑み、2000年から2012年にかけての日本の製造業における多国籍企業の輸出と海外現地法人販売額について、『企業活動基本調査』『海外事業活動基本調査』『工業統計調査』および『平成24年経済センサス-活動調査』の個票データを利用し、多国籍企業の輸出と海外現地法人の販売額について、一方を他方の説明変数とする二本の重力方程式を二段階最小二乗法により推計し、2010年代の輸出の伸び悩みの要因について分析を行った。推計の結果、輸出については、海外現地法人販売額は正、外需は負、為替レートは負の影響を及ぼすことが明らかになった。海外現地法人に対しては、輸出は正、外需は正、為替レートは負の影響を及ぼし、外需は企業の固定効果を含む場合には有意に正の影響を及ぼしていることが明らかになった。

この結果より2010年代において日本の輸出継続企業の輸出が回復しなかった理由として、世界金融危機以降の日本の実質実効為替レートの上昇、外需の回復、日本企業の海外現地法人の販売額の伸び悩みが影響したと考えられる。