執筆者 | 楡井 誠(ファカルティフェロー) |
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研究プロジェクト | イノベーション、知識創造とマクロ経済 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
イノベーションプログラム(第五期:2020〜2023年度)
「イノベーション、知識創造とマクロ経済」プロジェクト
本論文では、生産ネットワークによって繋がれた企業間における投資行動の戦略的補完性を定量的に推定した。企業の設備資本が年間20%以上増大するようなまとまった投資行動のことを投資スパイクと呼ぶ。顧客(川下企業)が投資スパイクをすると、その企業の将来の中間財需要が増大するために、その企業のサプライヤ(川上企業)の投資スパイクが起こる確率が高まる。同様に川上企業の投資スパイクは、その財の将来の相対的な価格低下によって川下企業の投資を誘引しうる。このような投資スパイクの正相関は、経済変動の重要な一因である可能性がある。
投資スパイクの相関を推定するには、企業間取引ネットワーク情報を含む企業パネルデータが必要である。本研究では、経済産業省企業活動基本調査を利用する本プロジェクトと、筆者が所属する東京大学政策評価研究教育センターと(株)東京商工リサーチの共同研究プロジェクトが連携することにより、そのような企業ネットワークパネルデータを構築した。それぞれの企業について、顧客企業とサプライヤ企業を特定し、それら企業群の中で投資スパイクを起こした企業の割合を計算し、それと当該企業の投資スパイク確率との相関をロジットモデルで推定した。
表1に推定結果を示す。投資スパイクは川上側にも川下側にも投資スパイク確率を引き上げる効果を持つことが統計的に有意に示された。推計値から計算すると、1つの投資スパイクにつき、平均で0.088の投資スパイクが川上と川下の企業で起こることが分かる。このことから、企業設備投資の10%弱はサプライチェーン上の連関に起因しており、そのマージンの確率変動は景気循環における企業投資変動に無視できない影響を与えることが示唆される。簡略な推定手法を用いれば、データ上で観測される投資スパイク総量の年々の平均偏差0.081のうち、その32%に相当する部分が本モデルから説明しうることが分かった。