ノンテクニカルサマリー

東アジアにおける高齢者の生活実態-日中韓の比較から-

執筆者 市村 英彦 (ファカルティフェロー)/Xiaoyan LEI (北京大学)/Chulhee LEE (ソウル大学校)/Jinkook LEE (南カリフォルニア大学 / ランド研究所)/Albert PARK (香港科技大学)/澤田 康幸 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 社会保障問題の包括的解決をめざして:高齢化の新しい経済学
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

社会保障・税財政プログラム (第三期:2011〜2015年度)
「社会保障問題の包括的解決をめざして:高齢化の新しい経済学」プロジェクト

総務省「人口推計」によれば、2016年10月1日の日本における高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合)は26.0%、つまり人口の4分の1以上が高齢者となっており、世界に例を見ない速度で「超高齢化」が進んでいる。このような急速な少子高齢化の進展は、社会保障給付費を増加させ、財政の負担を重くする。韓国・中国でも経済発展に伴い出生率が急速に低下し、平均余命が伸張した結果、全人口に占める高齢者の比率が日本以上の速度で上昇している。こうした中、特に韓国では高齢者の自殺が増えており、憂慮すべき事態となっている。急激な人口構造の変化・高齢化は、財政や経済・社会に重くのしかかり、高齢者の生活を脅かすリスクをはらんでいるといえよう。

高齢者の生活の質を落とすことなく、持続的な社会保障システムを構築するためには、高齢者の多様性を正しく捉えるための詳細な実態把握が不可欠である。その上で、予算を有効に活用するための、実態に根ざした慎重な政策の設計、つまり「エビデンス(科学的根拠)に基づいた政策」が求められている。アジア地域での高齢化の実態を明らかにするため、日本では「くらしと健康の調査(通称JSTAR)」という中高年のパネル調査が10年前に開始され、同様の試みとして、韓国ではKLoSA、中国ではCHARLSといった高齢者のパネル調査が進んでいる。これらの調査に共通する重点は、国際比較を可能とする標準的な質問項目を用い、エビデンス構築に資する調査を行っていることであり、実際にさまざまな視点から日中韓3カ国間の比較が可能となっている。

本研究では、これら日中韓それぞれのパネルデータ、JSTAR、KLoSA、 CHARLSを用い、これら3カ国における高齢者の生活状態を総合的に把握できる指標として、抑うつ状態の標準的な尺度であるCESD(Center of Epidemiologic Studies Depression)を用いた分析を行った。下図は、年齢階層別に3カ国のCES-D抑うつ尺度の推移を見てみたものである。これらの図からわかることは、(1)男女ともに中国でのうつの程度が全体として高く、日本では相対的に低くなっている一方、韓国は日中の中間にあると考えられ、いわば中国は途上国型、日本は先進国型、韓国は途上国型から先進国型への移行過程にあると考えられること、(2)韓国では男女を問わず加齢とともに、途上国型の抑うつの傾向がより強くなっており、高齢者がハイリスクグループと考えられること、がわかる。

図

本研究では、CES-D抑うつ尺度の決定要因として、「年齢要因」「経済要因」「家族・社会要因」「健康要因」の4つのカテゴリーを設定し、決定要因を統計的に分解・シミュレーションを行うことで日中韓の3カ国において高齢者が置かれている生活の実態を明らかにした。分析結果から分かったことは、3カ国の高齢者それぞれにおける4カテゴリーの属性の違いによって抑うつ程度の違いの多くが説明できるものの、説明が十分にはできない要素も残されていることである。特に、韓国の高齢者は、多くの要因を考慮しても、中国や日本よりもうつ状態になる可能性が高く、急速な高齢化の元でハイリスクにさらされている可能性が示唆された。